第30話 炎眠る雪の山

 モーガン副隊長の葬式は討伐隊で厳かに行われた。今にして思えば当たり前だが、よく一人で活動していたレダンと比べ、実際に隊員とともに活動していたモーガンはライオットをはじめとした多くの隊員たちに大きく支持されており、式中は多くのものがこらえられず涙した。しかし、こうしていられるのもつかの間、討伐隊は大きな問題に直面した。レダンとモーガンというツートップを軒並み失い、隊の方針を決めるものが皆無になってしまったのである。そんな中、フィークスはライオットに話があると呼ばれた。

「今、討伐隊はバラバラだ。ひとまず、それぞれの部隊長たちが集められて動きを決めるようなんだが、」

「そんなんじゃ遅い、魔石が奪われてしまった以上、いつ龍帝軍が復活させてしまうかわからない」

「そうなんだ。そこでだフィークス、お前にはレダンを追って復活を阻止してほしいんだ」

「ベルエグを持っているからか?」

「そうだ。倒すとはいかなかあったとはいえ、レダンを追い詰めたのは、フィークスやお前の仲間たちだ。奴らの動きを知っていて止められるのは恐らく、お前たちしかいない」

「なるほどな、だが、肝心のやつらが言った場所は?それがわからないことには始まらない、」

「主神讃唱では、災いが封印されたのは、王国の北、シャタペ山の頂上にあるというルストブルム神殿だ」

「なるほど、わかった。行ってくるよ」

「討伐隊の事は俺やハック、ゲイルで何とかしておく。出発に備えてルチェスやトーマスさんたちにも声をかけておくといいだろう」

「あぁ、ありがとう」そう言ってフィークスは、仲間たちのいる三角屋根のユンへと帰るのであった。

「フィークスさん、ごめんなさい。私が、もっと強い回復魔法が使えたら、」エルダはモーガンを救えなかったことをひどく嘆いていた。

「副隊長もあれだけの魔法を食らったんです。あそこから復活させるためには、それこそ誰かの命を使わなければ無理ですよ」

「で、ですが、」無理と分かっていても救いたいと思うのが、人の性である。

「けど、どうするんだ?今も龍帝軍は、魔石で災いとやらを復活させようとしている」

「それなんだけど、どうやら龍帝軍はシャタペ山のルストブルム神殿っていうところに向かっているらしいんだ」

「ルストブルム神殿!本当に存在しているのですか、」驚くトーマス。

「討伐隊のこれからについてはライオットが何とかしてくれるみたいで、レダンを追い詰めた俺たちに封印の魔石を取り返してほしいと、」

「って、討伐隊じゃないトーマスさんたちにもか?それはさすがに酷ってもんだろ」が、

「私たちは構いませんよ。フィークスさんが龍帝軍と戦うというなら、それを助けるためにここまで来たのですから」トーマスとエルダはそう言ってくれた。

「セティはどうする?」フィークスが聞く、セティは悩んだ様子だった。

「私も行きたいわ、あんなことされたら目の前で人を殺されて黙ってられるわけないじゃない!だけど、お師匠様が」すると、ガストが

「私のことを心配してくれているのかい?私なら心配ない!ロミラさんの料理のおかげで体力はばっちり回復だ!」とアピールをした。ガストはさらに続けて

「私は、もう少し魔法について研究を続けてみるよ。究極魔法をこちらでもなんとか使えないか。もしもに備えて、ね」

「それじゃあ、私はフィークスたちと一緒に、封印の魔石を取り返しに行ってきます!」こうして、レダンと戦った時の仲間全員がシャタペ山へと向かうことになった。

 アルル王国の北側は巨大な山々が連なっている。だが、不思議なことに急な山を越えた先には、何もないのだ。そこにあるのはただの海だけ、急に競りあがった山は海からの降水を防いでおり、それがその先のシル砂漠を生み出す要因にもなっているのだ。とはいえ、それはバローあたりにまで来てからのこと。その麓となれば、吹き付ける寒波は訪れる者たちを拒んでいた。それは、フィークスたちに対しても同じこと。

「さ、寒い、寒すぎる!!」

「あぁ、もう無理、ローブだけじゃとても。そうだ!ルチェス君ちょっとこっち来て?」

「ん?なんだ姉ちゃん」と、セティは近づいてきたルチェスをぎゅっと抱きしめた。

「うわっ⁉なんだよ!」

「わーやっぱり!もっふもふでぽかぽか!前からその毛並み、触ってみたかったの!」

「あぁ!セティさんずるい!私も!」とそこにエルダも乱入、あっという間にルチェスはもみくちゃ。なんともうらやまけしからん状態となった。

「あ、暖かそうですね。フィークスさん」トーマスがぼそりと言う。

「お、俺に振らないでくださいよ」とはいえ、寒いだけではない、この吹雪では進むことも難しそうだ。近なところで立ち往生している場合ではないのだが、と。フィークスたちの背後から何者かが駆けてくる音がした。

「な、なんだ?」もみくちゃにされていたルチェスが気付く、こんな状況で、周りも吹雪だというのに本当に獣人というのはものすさまじい力を持っている。そんなルチェスが聞き取ったのは、獣人とは似て非なる。本物の獣たちの足音であった。たくさんの犬がそりを引いてやってきたのだ。そしてそれに乗っていたのは、なんとアッジとウスタであった。

「よっ!こんな吹雪の中歩きで山登りか?根性あるなぁお前ら」

「ど、どうしてここに?」

「おいおい、お前に龍帝軍を止めるのを任せたのは誰だ?ライオットだろう。となれば!ライオットの永遠の悪友である俺たちが知らぬはずがないのだ!」なんだか前よりも上機嫌だ。

「それはいいけど、どうしたの?その犬ぞり、」

「前に、昔よりも多くの人たちとかかわるようになったって話をしただろう?そうしたらこの国のいろんなものの流れがわかるようになったんだ」

「その延長線上で、俺たちは犬ぞりを使った狩りをする人とつながってな、それでお前らの話を聞いて犬ぞり引いて探しに来たわけよ」

「ささ、みんなのれー!こっから飛ばすぜー‼」そういう割にはどんどん行こうとしている2人に慌ててフィークスたちは犬ぞりに乗り込んだ。アッジとウスタはそれぞれに犬ぞりを引き、一行は吹雪の中をすいすいと進んでいった。フィークスは詳しくないが、犬ぞりなど付け焼き刃で乗りこなせるものではないだろう。が、この二人はそんな様子は見えない。この才能が戦闘にいかされていたら、エルダを助けるときの結果は違っただろうか。というかこの二人も討伐隊だったかもしれない。運命とは数奇なものでああなればよかった。こうなればよかったなんてことばかりだ。彼らの過去に何があったのか。と

「ね、ねぇフィークス?」セティが話しかけてきた。3人はウスタのそりのほうに乗っていてこちらに乗っているのはアッジとこの二人だった。

「なんだ?俺はルチェスと違ってもふもふポカポカしてないぞ」

「ちっちがうわよ。バローでのこと、あの時はありがとう」急に感謝されてしまった。

「なんだよ、急に」イザベーナと戦ったのもたいがいだったが、最近はとんでもない出来事が多すぎて少し記憶が薄れていた。

「あれは、思わず助けただけだ。それに、先に俺の命を助けてくれたのはセティだ。守るのは当然なくらいさ」

「そっか、へへっ」

「さっきからどうしたんだよ。変だぞ?」

「普通じゃない?フィークスがちょっとかっこよくなったなってだけで」

「なっ!」

「噓って言ったらどうする?」

「お前!さっきから何なんだよ!」

「ふふふっ」こんな話を犬ぞりを引きながら聞いていたアッジ

(おいおい、急にイチャコラしだしたぞ、うらやましい奴らめ、ここでこいつらだけおろしてくれようか、)

「へっぶし!」

と吹雪とお熱い二人の寒暖差で風邪でも引いてしまいそうな中二台のそりはシャタペ山の下まで駆け抜けていった。

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