第29話 素顔

 セティの魔法とルチェスの射撃で距離をとりながら仲間の元へと向かう。黒服の男も魔法で最低限の反撃をするが、その程度では、トーマスの防御を突破できない。相手がどんな手を使ってくるのかわからないため、事前に魔反射の盾をかけておいたのだ。そのせいで自分の撃った魔法も避けなければならなくなり、結局はエルダの回復魔法によってライオットたちの回復を許してしまった。とはいえ、応急処置であり、すぐさま戦うということはできそうにない。

「気を付けろフィークス。あいつ、とんでもなく強い、」

「あぁ、隙をついたコソ泥とはわけが違うようだな、お前、いったい何者だ。ここで何をしようとしている」黒服の男はこれに

「忌まわしき希望よ、貴様はやはり、我々の邪魔をする。我らはこの封印の魔石を奪い取り、神話にある災い、破壊の炎を復活させる!」

「何!それじゃああそこにある球が本当にあの封印の魔石だというのか⁉」モーガンが驚きの声を上げる。神話の力には神話の力ということだろうか?しかし、そうはいかない。災いの復活を阻止しなければ。

「お前が何者か知らないけど、そんなことはさせない!行くぞみんな!」

相手は一人一人で挑めば冷静に対処される。以前のイザベーナと戦った時と同様、全員で団結して挑んだほうがよさそうだ。

「貴様らは、希望とともにイザベーナを倒したものだな。奴は取り乱すとめちゃくちゃになる癖があるが、力を合わせられてはたまらない。悪いがその作戦は封じさせてもらうぞ」そういうと、黒服の男の周りに鎧を着た魔物が大勢現れた。これでは一丸のなってもいられない。そうなれば、ライオットたちを守っているエルダの身が危うくなる。

「みんなは魔物を頼む!俺があいつを止める!」

「わかった!」セティの炎が魔物たちを足止めし、注意を向けたすきをついてフィークスは黒服の男の前まで向かった。

「忌まわしき希望、やはり貴様が、私の前に立ちはだかるのか」そういった。

「なぜだ、なぜ俺のことを、希望のちからをそこまで憎む!」

「貴様が私に勝てば教えてやろう!」そう言って黒服の男はこちらに魔法を放ってきた。が、これをフィークスはベルエグで切り伏せた。魔法は二つに割れ、フィークスに当たることなく、背後へ、そのまま爆発した。

「はあああ!!」剣と杖とがぶつかり合う。かなりの力だ。魔術師というだけではないだろう。しかし、段々とフィークスが押していった。魔法も斬れる剣では、時間稼ぎもできない、斧や槍と違ってバランスの良い剣が相手ではテクニックだけでは立ち回りをカバーできなくなっていく。ほかの仲間たちも魔物を各個撃破していった。時間稼ぎにすらならず、片付けられてしまった。イザベーナが取り乱していた故にやられたとばかり思っていたが、この力量は油断のし過ぎだったかもしれない。などと男は考えた。しかし、こんなことを考えている時点でまだ油断が抜けきっていないということ。

「はぁっ!」フィークスの攻撃が襲い掛かってきた。すんでのところでかわすがそれが逆にあだとなった。

「くっ!!」かわした勢いで男の素顔が明かされることになった。

「そんな!あなたは!!」

 「レダン隊長!」あまりの出来事に攻撃したフィークスのほうが驚いてしまった。周りの仲間も声に気づいて男のほうを見る。誰が見てもその素顔は討伐隊の隊長、レダンだった。

「た、隊長が龍帝軍だったなんて」素顔が明かされてからというものレダンはだんまりを決め込んでいた。

「どうして、どうしてなんですか!あの時、俺にこの剣の事を教えてくれたのは、あなたじゃないですか!」そうなのだ。イザベーナの時といい、龍帝軍はフィークスもとい、希望のちからとこの龍剣ベルエグの事をかなり警戒していた。結局はフィークスが手に入れられたが、なぜこんな敵に塩を送るようなことをしたのだろうか?もしや、あそこでイザベーナに回収させようとしていたのか?そして今、失敗した帳尻を合わせるためにこうした決断を?あらゆる思考から答えを見つけようとする。が、そんなことを考えているうちに

「貴っ様ああああああああ!!!」と先ほどまでエルダによって回復してもらっていたモーガン副隊長がフィークスとレダンの間に割って入り、レダンへと攻撃をしかけた。先ほどとは違った。本気の攻撃である。その衝撃によってフィークスはそこから吹き飛ばされてしまった。

「龍帝軍によってどれだけの隊員が!!国民の命が奪われたと思っている!それを守るはずの貴様が!何をしているのだ!!」フィークスたちと話していた時には決して出さなかったモーガンの怒号。その声は城の地下中に響き渡り、空気を震え上がらせた。斧を振り回すさまはまさに狂戦士といった様子だ。いくら攻撃してもそれをひらりひらりとかわすレダン。だが、加減がない分それまでの隙や威力といった面は格段に上がった。ついにはからぶったことでぶつかった壁を砕き、その破片がレダンに命中した。

「ぐあっ!」たまらず声を上げる。レダン。

「龍帝軍の足取りをほとんどつかめなかったのも貴様のせいか!貴様が尋問の前に処理や事実のもみ消しをしていたのだな!許さんぞ!レダン!」

なおも攻撃の手を緩めないモーガンにレダンは、冷徹な口調で

「うるさいな、何の力も持たぬ貴様に用などない。邪魔だ」そういった刹那、レダンは杖に魔力を込め、それを抗戦のように発射した。

「ぐうぅ!?」モーガンは斧に持ち得る魔力を込めて申し訳程度のシールドを展開。が、あまりにも力の差がありすぎた。

「くっ、ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!」押し返そうとするが、光線に次第に押されるモーガン。ついに光線はモーガンを飲み込み、爆発した。その衝撃によってほかの仲間たちも吹き飛ばされてしまう。爆発の後には攻撃を受けて、ボロボロになったモーガンがいた。

「モーガンさん!!」フィークスが叫ぶ。ほかの仲間たちもよろめきながらモーガンのもとに向かう。

「ちっ、さすがに力を出しすぎたか、」舌打ちするレダン。見ると杖からも煙が出ている。すさまじい魔力を打ち出して、杖も限界が来てしまったようだ。とはいえ、敵はみな吹き飛ばされている。封印の魔石に最も近いのはレダンだ。レダンは祭壇に向かい、封印の魔石へと手を伸ばす。結界がバチバチとそれを遮るが、それも無力、ついに魔石はレダンの手にわたってしまった。

「ついに、ついに手に入れたぞ!これさえあれば、破壊の炎は我ら龍帝軍のものだ!はーはっはっは!」高笑いをするレダン。

「転移魔法などを防御していた結界も解かれたか、さらばだ忌まわしき希望とその仲間たちよ!世界の破壊の日を楽しみに待っていろ!」そういうとレダンは魔石を持ったままどこかへと消えてしまった。

「副隊長!しっかり!副隊長!!」ライオットが必死で呼びかける。

「すぐに上まで運びましょう!」トーマスがモーガンを担ぐ。

「なら応急処置は私が!」医務室に運ばれるまでの間はエルダが回復魔法を使った。しかし、あれだけの光線をまともに食らってはただでは済まないのも当たり前だった。医務室での救護もかなわず、モーガン副隊長は帰らぬ人となってしまった。最後の前にモーガンはフィークスたちの部隊を部屋に呼び、こう言った。

「忘れるな。討伐隊は魔物や龍帝軍の手から人々を、仲間を守るために存在している。その誇りだけは決して失うな」とそれが、フィークスのきいたモーガン副隊長の最期の言葉となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る