第27話 魔導兵長

 アルル城の王室、既にほかの隊員たちは集結していた。先頭にいるのはモーガン副隊長、中にはライオットたち、フィークスの部隊のメンバーもいた。

「みんなも呼ばれていたんだな。いったい何がどうなったんだ?」

「おお、フィークス。昨日の夜過ぎ、何者かが国王陛下の部屋に侵入し、城の地下へと続くという場所のカギを開けたんだ」

「警備がざるだったのかは知らんが、よほどの手練れか、あるいは」

「おい、そこ!何をしゃべっているのだ!ただでさえ緊急事態なのだぞ!」あの時であって話した時とはまるで違う、厳しい副隊長だった。

「よし!これより我々は、城の地下へと続く道を進む!私について来い!」フィークスたちは副隊長やほかの隊員たちとともに、城の地下へと進んでいった。

「なんだ、ここは、」ハックが驚いた様子で周りを見回す。あちこちにある不思議な文字や文様にほかの隊員たちも驚いたようだ。が、フィークスやルチェス、セティは別だ。

「ねぇ、フィークス。ここって」

「ああ、ルズホーネ神殿と同じ感じだ。やっぱり創世時代の遺跡なんだろう」ここが神殿と同じならば、きっとこの先に待ち構えているものも同じだろうか。隊の前に神殿でも現れた古代の魔物たちが行く手を遮った。

「うわあああ!なんだこいつら!」隊の一人が襲われた。素早くルチェスが弓を引き、弱点である頭部を打ち抜いた。

「大丈夫か?こいつらは体は固いが弱点を狙えば倒せるんだ」とフィークスの見つけていた弱点を教えた。

「あ、あぁ。ありがとう」しかし、状況は悪化した。神殿の時とは比べ物にならないほどの数の魔物たちがあたりを囲んでいた。

「副隊長!ここは私たちにお任せを!」隊員の一人の言葉を受け、モーガン副隊長は次の指示を出す。

「我々は前進する!お前たち、無理はするな!」フィークスたちは先に進む部隊の中に入り、さらにその先へと進むのだった。なおもやってくる魔物たちに着々と人員を削がれながらも、隊は着実に前へ進んでいった。

「なぁ、なんでこんなにこいつら残ってるんだ?先に入ったっていうやつはどうやってここを進んだんだ?」普段こういったことをつぶやかないゲイルもこの状況にはさすがに疑問を呈した。

「もしかしたら、ここの魔物たちの弱点を理解しているのかもしれない」

こんな隠された場所を知っていたのだ。龍帝軍でも只者ではない、もしかして

「まさか、ギルベルト本人が?」

「それは違うんじゃないかしら?もしギルベルトが来たのであれば、国王陛下はおろかこの城だってもっと被害が出ているはずよ。」セティが言う。いずれにしても早くこの先へと行かなければ、がまたしてもその行く手をふさぐものが、不意にピコンという不思議な音がした。なんだろうと最初は不思議に思ったがすぐにそれが何かが動き出した音なのだと気づく、頭上がゴゴゴと動き出す。そして次の瞬間、地下道の一部だと思っていたものが動き始める。それは、先ほども戦った古代の魔物だった。が、違いはその大きさだ。でかい、でかすぎる。現行の建造技術では、ここまでの巨像を作ることは難しいだろう。しかもそれが動くと来たものだ。創世時代の技術力にただひたすら驚かされるだけである。あるいは、これを神が作ったのだとしたら?いずれにしてもこいつを越えなければこの先には行けないようだ。と、

「ワガ名ハ、魔導兵長マディ・レメク。新タナ侵入者ヲ発見、タダチニ排除スル」

「こいつ、しゃべることもできるのか!しかも新たなってことは」

「あぁ、国王陛下を襲ったやつらはここの魔物たちをうまく眠らせていたんだ」しかし、これ以上考えている暇はない、マディ・レメクは手に持っている巨大な棍棒をこちらに向かって振り下ろしてきた。全員が間一髪でよける。すさまじい破壊力だ。まともに食らえば肉片も残らないほどぐちゃぐちゃにされてしまいそうなほど、しかもそれだけの勢いで振り下ろしたにもかかわらず砕けたのは、床の部分だけ、得物の棍棒は傷一つついていない様子だ。やはりこれも魔導兵と呼ばれる者たちの鎧と同じ物質なのだろうか?ほかの魔導士たちと同じように、今回も急所を狙おうとするが、マディ・レメクの頭部には光を移すところが存在せず、弱点のようなものは見られない。不気味な人の顔をした石の鎧をつけている。どこでこちらを視認しているのか、なんて質問は無意味だろう。そもそも、ほかの魔導兵たちだって弱点の部分が頭だっただけであの光の部分でこちらのことを視認していたかは怪しいものだ。考えれば考えるほど、古代の技術には謎が多い、フィークスがその道の学者であったならここはまさしく宝の山だったのだろう。だが生憎、フィークスは、学者ではないし、ほかの仲間たちもそんな趣味はない、唯一ガストがいたなら、残念がるであろうが、それなら先ほどまでいた小さい魔導兵でもいいだろう。今は何よりこいつを倒して先に進まなければ、とは言えどうすればいいのか、ルチェスやトーマス。ライオットたちの攻撃でも傷一つつかない。

「みんなどいて!」後ろからセティとエルダがボルケーノとシャインで攻撃した、がそれも無意味。中級魔法程度ではまるで歯が立たない。

「ならば!!」とモーガン副隊長が渾身の力でマディ・レメクを攻撃した。しかし、その攻撃も届かない。硬い、あまりにも硬すぎる。いったいどうすれば、

「フィークス!ベルエグだ!伝説の剣ならこいつの固い鎧も突破できるかもしれない!」ルチェスがフィークスに言った。

「伝説の剣!?まさかフィークス!レダン隊長に言われていたのはそのことだったのか!」ライオットが驚いた。緊急事態のため、今の今まで気づかなかったのだ。

「君がレダン隊長の言っていた伝説の武器を⁉ならば私も援護しよう。その剣で、この難局を突破するぞ!」こうして全員が、フィークスの攻撃のためにマディ・レメクの周りを囲み攪乱を始めた。棍棒の大ぶりな攻撃では一人一人を倒していくようなことはできない。注意の削がれたその一瞬の隙を見抜き、フィークスがマディ・レメクの頭上へと飛び上がり、剣を叩き込んだ。だが、やはりその鎧を砕くことはできなかった。だが、その代わり、

(なっなんだこれ、頭が割れるようだ!!)頭の中に剣を通じて思念のようなものが入り込んでくる感覚がした。見た目や雰囲気から何となくほかの魔物とは違うような感じがしていた。その違和感は命の有無ではないかとフィークスは個人的に考えていた。まるで操り人形のような動きがその考えをより確証へと近づけていた。しかし、物にも魂は宿るということなのだろうか。フィークスの意識は薄れていき、気づけば、フィークス以外の誰もいない不思議な空間にいた。目の前にいたのは、先ほどまで戦っていた。魔導兵長マディ・レメクだった。

 「ここは、一体?あなたは何者なのですか?」フィークスが聞いても答えは返ってこない。やはり、言葉は通じないのかとがっかりしかけたその時、

「ソノ剣、久シイナ、龍神ニ認メラレタオ前ナラバ、コノ先ヘト進ム事ヲ許ソウ」マディ・レメクは先ほどのような声でこんなことを言った。結局聞きたいことは聞けないのかと思ったその時、マディ・レメクの姿があみるみる変わっていき、一人の人間の姿になった。

「驚かせて済まない。ここで眠って幾星霜、精神世界であってもこうして人と話すのはいつぶりか。私はオルタ、このマディ・レメクに魂を与えたもの。ここは、君と私の精神をつなげた場所。私の願いはただ一つ、そしてこの先へと進んだものを止めてほしいのだ」

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