第26話 龍帝軍の足取り
ブレイミーまで戻ってきたフィークスたち、町はこれまでと変わらない盛況ぶりだ。広場の子供たちが無邪気に遊んでいるところを見るとなんだかこちらまで気持ちが軽くなる。
「さてと、アルル城はこの先か」
「ブレイミーに来たのはいいけど、アルル城には入れるんですか?」
「魔法の研究に関して何度か訪れたことはある。心配しなくても大丈夫ですよ」
「それじゃとっとと行きましょ?」セティにせかされて一行は城を目指すのだった。門番に通してもらい、城の中へと入る。進んで行くとフィークスにこの剣の事を教えてくれた討伐隊隊長のレダンに出会った。
「おや?君は確かフィークス君じゃないかい?龍剣ベルエグのほうは、っとそれが?」
「はい。ルズホーネ神殿で見つけました」
「やはりそうか!龍神が眠っているという話は本当だったのだね!」
「レダン隊長のおかげです」
「いやいや、私はしょせんきっかけに過ぎない。ほかの誰でもできることだ。こうして龍神に認められた君自身の力だ。使いこなすんだよ」
「はい。ありがとうございます」
「ここに来たということは国王陛下に?私がついていこう」
「レダン隊長がいれば、安心です。お願いします!」
「よし、それじゃあほかの皆さんもついてきてください」レダンに連れられてフィークスたちはアルル王国の国王のいる部屋へと案内された。絢爛な城の中でもここは特に豪華で、おかれているものだって、国内一級のものだろう。だが、中には、とても古い本や品も置かれていた。これも創世神話の時代があった証なのだろう。
「国王陛下、伝説の武器を手に入れた討伐隊の隊員を連れてまいりました」
「うむ、そうか、わが王家に長い間伝わる伝説の武器が、」立派な白ひげを生やした、背は少し低いが王としての確かな威厳と風格のある人だ。
「ほほう、君がその隊員かね?危険なものだったろう。さぁ、少しばかり話をしよう。さぁさここに座って」フィークスたちはグリンヘックの事件から、イザベーナを倒したところまでの話を国王に話した。
「そうか、奴らが使えるという究極魔法というのは一体、」これに関してはガストが話した。
「究極魔法はこれまでの魔法とは異なり、通常では考えられない属性エネルギーのバランスで成り立っています。そんな不可能な関係を成立させる力が必要だと分かったのです。私はそれを“異能力”と仮称し、それに関係するエネルギーを属性エネルギーに倣い、“異能エネルギー”と呼んでいました。しかし、これを証明することはできず、私はこれを考えあぐねていました」
「けど、ギルベルトはそれを使える風にしていました。はったりかもしれないけれど、」
「私の研究データは彼らの目にも触れてしまいました。しかし、緋龍とはことなり、理論上ほぼ不可能なそれは彼らにとっても無駄だと思ったのですが、敵を侮った私の落ち度です」
「現在、龍帝軍の目立った活動はグリンヘックの件以降、確認されていない、君たちのバローでの戦い以外は不気味なほど静かなんじゃ、」
「やはり、何か大きな事を起こそうとしているのでしょうか、」トーマスがそんなことを警戒して言った。
「こちらには伝説の剣を持った者もいる。今は敵の足取りや標的を調べ、次の手を一刻も早くつかまねばならんな」こうして国王との面会を終えたフィークスたち、レダンはどうやら次の仕事の準備があるらしく、面会を終えたところで別れたのであった。
「さてと、今日の宿屋をとらねばならないのだが、」
「それなら、私が育ててもらった宿屋はどうでしょうか」
「おお!ありがたい、それなら今日は泊まらせていただきましょう!」
三角屋根のユンはその日大盛り上がりだった。ロミラは伝説の武器なんて大層なものを手に入れたフィークスを本当の子のように褒めた。
「あんた!すごいものなんだろ?この剣!もらってて大丈夫なのかい?」
「だ、大丈夫だよ、王様にも何とも言われなかったし、」
「あなたが実力があるのはこれでわかったよ。だからこそ、もっと危険な仕事も増えるんじゃないかい?私はそれが心配だよ、」
「ロミラさんは本物のお母さんみたいだな」
「ルチェスも!フィークスと一緒なら、大変な任務が増えるかもしれない、フィークスと同じで気をつけるんんだよ?」
「へへっ俺も注意されちゃった。ロミラさんは俺の人間のお母さんみたいだな」
「ロミラさんのお料理は美味しいですね。宿屋と言わず、料理屋だけでもうまくいきそうなくらいですよ」トーマスには特に絶品だったらしく、ロミラの料理に太鼓判を押した。フィークスたちはこれまでの旅の話をしたのち、明日に備えて眠りについた。
国王の仕事は夜になっても終わらないほどだ。各地の龍帝軍だけでない様々な事件や情報を取り入れたり、各国の情勢にも頭を悩ませなければならない。今日はフィークスたちとの面会もしたことで少し長引いていたのだった。
(妖精監視課からの報告は特になしか、龍帝軍といい、この世界でいったい何が起ころうとしているのじゃ、)そう思いながら書類に目を通してゆく、とこんな時間に誰かが扉をノックした。
「ん?誰じゃ?こんな時間に」使用人だろうか?いや、就寝の時間は遅れると伝えてあるはずだ。
「誰じゃ、名前を言いなさい。そうでなければ、開けてやることもできん」
「貴様があける必要もない、この程度の魔法、破ることは簡単だ」そう言って扉を強引に開けた謎の人物。声は男性のようなのだが、もやがかかったようで誰の声だかわからない。黒いフードをかぶった男は国王に一瞬で近づいた。
「なっ何者だ貴様は!」王の言葉に男は笑ったような声で
「俺か?忌まわしき希望を滅ぼすもの。そう言っておこう」
「フィークス君のことか⁉ここにはいないぞ!いったい何のためにここに来た!」
「くくくっ世界すら滅ぼす“破壊の炎”その封印の魔石を手に入れるため」
「なっ貴様まさか!うっ!!」強烈な痛みが国王の腹部に走る。あまりに突然だったことでそのままばたりと倒れこんでしまった。男は国王が首からつけていた奇妙なペンダントを強引に奪い取り、そのまま部屋の奥へと進んでいった。
次の日、宿屋に飛び込んできた男の大声でフィークスたちは目を覚ました。
「フィークス様!フィークス様はいますか!?」あわてて階段を降り、用事を聞きに行くフィークス。
「なっなんですか?こんな朝から」
「大変です!国王陛下が!国王陛下が何者かに襲われました!」
「なんですって!」あまりに突然のことにしばらく啞然としてしまったフィークス
「幸い、国王陛下は一命をとりとめましたが、そのものは、王の部屋の奥から行ける城の地下に向かった模様で、現在捜索隊が急遽編成され、そこにフィークス様も選ばれています!」この時にはほかのセティたちも集まっていた。
「すみません、私たちもどうかフィークスさんに同行させていただけないでしょうか?」
「グリンヘック襲撃事件の時も加勢してくださったという方々ですね?わかりました!私の方から副隊長に相談させていただきます。一度ご同行を!」
(そうか、レダン隊長は、次の仕事にもう行ってしまってモーガンさんしかいないのか、)なんというタイミングだろうか。いや、敵はむしろレダンがいなくなるタイミングをつかんでおいたのかもしれない。実力では、王国随一のレダンがいるときにわざわざことは起こさないのだろう。と話しているとガストがセティに、
「セティ、君はフィークス君たちとともに行くんだ」
「そんな!お師匠様はどうするんですか!?」
「私ではまだ、力が十分に出せない、フィークス君とともに放った緋龍ならこんな時でも活躍させられる!だから!」そう言われてはセティも断れず、
「わ、わかりました!行ってきますお師匠様!」
フィークスたちは急いで支度をし、アルル城へと向かうのだった。
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