第25話 合体魔法
檻の中のガスト師匠は、長い間拷問を受けていたらしく、ボロボロでひどく衰弱していた。
「あっあっ、お師匠様、ごめんなさい。私がっもっと早く、探していたら、」泣きじゃくるセティにガストは、
「ははっいつもなら怒られるところなのに、セティのせいじゃない。危険を考えずに研究をつづけた私のせいだ。だからセティ、泣くのはやめなさい?」
「はいっお師匠様、、」
「しかし、あの魔女が言っていたことが気になるな、セティに別の役目があると言っていた。そしてその後の忌まわしき希望とはいったい、」セティはガストにこれまでのフィークスたちとの出来事を話した。
「なんだって?とすると、そのフィークス君に宿っている希望のちからというのは、創世神話にある希望の神と関係があると、セティはすごいな。私よりもすごいものを見つけてしまうなんて、そうだ!月光の迷宮で教えたあの魔法のことは覚えているかい?」
「い、いえ、お師匠様がバローに行ったということを聞いてすぐに飛び出してしまって、」
「ふふっそうかい。じゃあ今教えよう。遠い国ではるか昔から伝承されているという合体魔法、<緋龍>を、」
「...破邪の力を宿す、伝説の魔法?」
「そんなたいそうなもののわりには、ずいぶんと簡単にできるんだな」
「えぇ、ファイアーとボルケーノでできる魔法なんて、」
「しかし、さすがは伝説、発動した記録もほとんどないと」
「何らかの要因が必要みたい。けど、希望のちからを持つあなたが、火の魔法を使えればもしかしたらって、どうやらビンゴみたいね」
「ええい!何をごちゃごちゃと!こうなればこの町もろとも貴様らを吹き飛ばしてくれる!はぁぁぁ!魔導強化!!」そう言うとイザベーナを黒いオーラのようなものが包んだ。そしてイザベーナが両手を空に向けると、周りの星空を飲み込まんとする。黒い球が生まれた。
「あれは!闇の上級魔法<ナイトメア>⁉」
「上級魔法にしても、でかすぎるな、あれじゃまるで超級よ、」エルダとセティが口々に驚いた。
「フィークスさん!セティさん!もう先ほどの魔法を唱えるしかありませんよ!」
「そ、そうだ!セティ!俺がファイアーを使えばいいんだな?」
「ええ、頼むわ!」二人は背中を合わせ、力をためるイザベーナを見上げた。そして二人で手を空へと伸ばし、声を合わせて魔法を唱える。
「「くらえ!合体魔法!!<緋龍>!!」」二人が声と同時にファイアーとボルケーノを撃つ。
「消しとべぇ!」と、イザベーナもナイトメアを放ってきた。力を送り続けるフィークスとセティ。迎え撃つ二つの魔法は一つになり、巨大な火の玉は巨大な龍の姿になった。天へと昇ってゆく龍は落ちてくる巨大な闇に食らいつく。互いの魔法は拮抗していたが、次第にフィークスたちの緋龍が押していった。
「なっまさか!やめろ!!;/.[\/^.;.;.,!!!」イザベーナは自分の放ったナイトメアに飲み込まれた。その断末魔は凄惨すら超えていて、意味さえ分からずともひたすらに悍ましいものだった。そして、力の根源を失った魔法の球はその主を取り込んだまま炎の龍の顎にかみ砕かれた、爆散。すさまじい爆音とともに二つの魔法は空中に溶けていった。イザベーナの姿は、もうどこにも見えなかった。緋龍を維持するために、力を送り続けていた二人は、その場に崩れてしまった。この短い間でかなりの魔力を使ったのだ。フィークスのほうも、ファイアーを打てばそれで終わりではなく、緋龍としての力を保つために魔力を送っていたのである。
「フィークスさん!セティさん!」トーマスの駆け寄ってくる声が聞こえる。が、それ以上は体が許さなかった。ルチェスが素早く来た時にはもう二人とも目をつむりぐっすりと寝てしまっていた。
「まったく、こんな土壇場で一発成功なんて、二人ともすげえな」
「うっううっ」とイザベーナの足元にあった小さな小屋から声がした。エルダが急いで駆けつけるとそこには、檻から出て何とかここまで上がってきたガストがいた。様子を見に来たエルダは驚いて、
「あなたが、セティさんのお師匠様?すごいボロボロ、まずはあの子たちと同じで休みましょう。手伝いますよ」こうしてトーマス達三人はダウンしてしまったほか三人を連れてバローの宿屋へと帰っていった。
フィークスたちはそう時間はかからず復活したが、ガストのほうは長い監禁の結果、かなり衰弱しており、体力を回復するまでにかなりの時間がかかった。それでも何とか回復し、ようやく帰れるまでに回復した。
「さて、そろそろブレイミーに戻らなくちゃ、」
「あの、フィークスさん」
「どうしたんですか?トーマスさん」
「今回の戦いで決めたのです。討伐隊としてじゃなくていいので、今後龍帝軍と戦うようなことがあれば、私たちもともに戦わせてほしいのです」
「それは、どうして?」
「実は、」トーマスは以前、ポル村の跡地に行ったときにおこったことをフィークスに話した。
「あの時助けてくれたのが、エルダさんの父で、トーマスさんの亡くなられたご友人、そうだったんですね、俺自身もひどく混乱して必死で、でもあの人がいなきゃおれは、きっと今」
「大丈夫です。責めようとしていたわけじゃなくて、お父様が守ったフィークスさんがたくさんの人を、この国を守るその手伝いがしたいんです」
それを聞いたガストは
「ふむふむ、騎士さんたちはまたいいことを思いつきますね」そういってセティのほうを見る。
「なっなんですかお師匠様」怪訝そうなセティをよそにガストは
「フィークス君!うちのセティも頼むよ!」
「「なっ!!」」緋龍を打った時と同じようなシンクロをする二人
「何言ってるんですか⁉私は、トーマスさんたちみたいなつながり、フィークスとはないですから」
「あるだろう?彼がいなければ僕はおろか君は捕まった時点で消されていたかもしれないんだよ?そして、二人が助かったのはここにいる皆さんの、そして決定打を放ってくれたフィークスさんじゃないか」
「いやいや!そもそもお師匠様がもっと気を付けていればこんなことにもならなかったんですよ?」
「ぬぬう、あ!でもブレイミーにまでは行こうよ!」
「何でですか!家に帰りましょうよ!」
「究極魔法の事や、二人が使った緋龍のことを報告しておきたいんだ。あいつらの首領に究極魔法がわたってしまったのは僕の不注意だ。ならせめて、その内容を共有し、一刻も早く対策を練らなきゃ、」
「それは、確かにそうかもしれませんが」
「じゃあ決まりだ!さぁ諸君!ブレイミーに出発だー!」
「おおー!姉ちゃんの師匠は元気だな」
「あ!ついでに獣人の君の事も少し調べさせてよ!謎めいた人間とは別の種属!気になるな」
「もう!次から次へと調べたいこと見つけてー!」こうしてフィークスたちはブレイミーへと戻るのだった。
アルル王国のどこか、深い闇に包まれた場所。
「ギルベルト様、イザベーナ様が、」
「しくじったか。まぁいい。究極魔法さえあればどうとでもなる。それより問題は、龍剣ベルエグ。あれに対抗する手段を手に入れなくては、」
「ふふっならば私がそれを成し遂げましょう。王国に伝わる禁忌の力、封印の魔石をね」
「貴様にしては遅かったじゃないか。それで?その封印の魔石とは何だ?」
「創世時代に終わりをつげた“破壊の炎”、それを封印しているというものです。それさえ手に入れば、たとえ龍神の剣でも歯が立ちませんよ」
「そうか、その場所はわかっているのか?」
「はい、既に。」
「くっくっくっ、ならばとって来い!!その禁忌の力を!」
「はっ仰せのままに」そういってギルベルトに進言したものは、一蹴んでどこかへと飛んで行ったのであった。
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