第22話 龍神の試練

 部屋の中が明るいことなど、もはやフィークスには気になっていなかった。目の前にはもう一つ部屋がある。が、そこからはこれまでに感じたことのない圧倒的な気配がする。しかし、ギルベルトのような邪悪なものではない。ゆっくりと一歩ずつ部屋のほうへと歩いて行った。

「な、なんだ、こいつ」その先の光景にフィークスは息をのんだ。龍がいる。それも今まで見たこともないほど巨大な、こいつが、伝説の龍神?

どこからか声が聞こえる。

「ついに来たか、われらの希望の始まり。我は龍神、龍神ネオハーツ」

「あなたが、龍神様」思わず息をのむフィークス

「貴様の欲するものは分かっている。わが力を宿す伝説の武器、それを求めてきたのだろう」

「なぜそれを?」

「貴様はここへ導かれた。導いたのは、貴様のうちに宿る希望によるもの。その希望が我に命じたのだ。貴様に剣と試練を与えよ、と」

「剣と試練?試練とは、先ほどの魔物の事ですか?」

「あれは、希望を持つものと持たぬものをわけ、貴様のみをここへと導くためのもの。案ずるな、貴様の仲間たちは無事だ」

「それじゃあ、試練というのは、」

「貴様には、希望が宿っている。しかし、その力は万能ではない。神より与えられた希望のかけらを希望のちからに変えなければ、貴様の望むわが剣は託せぬ。我と戦い、貴様の真の希望を見出せ!」

「つまり、あなたと戦って俺の希望のかけらとやらを目覚めさせればいいんだな?よし、わかった!やってやる!」

「覚悟はできているようだな。ならば行くぞ!」そう言うとネオハーツはその巨体を動かしだした、巨大な翼は、部屋の中いっぱいに広がるほどでいやでも圧倒される。その瞳も荘厳ながら油断をすると食い殺されそうな迫力だ、と考えている場合ではない。早速ネオハーツの口から猛烈な勢いの炎が襲い掛かってくる。相手が相手のせいで全力で回避しなければ避けきれない。だがそれで終わりではない。間髪入れずにネオハーツのしっぽが襲い掛かってくる。ネオハーツの猛攻に対応するので精いっぱいでなかなか攻められない。なんとかして攻撃に転じなければ、そんな時、あることを思いついたフィークス。

「俺だってもうただ剣をふるだけじゃないんだぜ!ここまで隠してきた秘策、くらえ!」そう言ってフィークスはその手に力をこめる、するとなんとそこから炎が現れた。

「ほう、その身一つで魔法を出せるのか。さすがだ」しかし、付け焼刃なフィークスの魔法ではネオハーツへの決定打にはならない。あっけなく打ち消されてしまう。が、狙いは当然そこではない。そうして意識を向けている隙にフィークスの攻撃がネオハーツに届く、しかし

「くっ攻撃が通らない!」その強靭な鱗に阻まれ致命傷も愚か傷一つつけられなかった。攻撃が通らなかったそのすきをネオハーツは堂々とついてきた。その衝撃でフィークスは吹き飛ばされ、そのまま壁に激突、あまりの威力に立ち上がることができない。

「どうした!貴様はその程度なのか?お前の戦ってきた理由とこれまでの旅の中で貴様は何を学んだのだ!」ネオハーツの声が聞こえる。

自分の戦ってきた理由、あの日自分はすべてを奪われた。もうこれ以上、こんな思いをする人を増やしたくない。その思いだけで戦ってきた。だが、今は違う。誰にも悲しい思いをさせないのと同じようにフィークスには守りたい人たちができた。それはこれまで一緒に戦ってきた仲間たち、彼らとのかけがえのない大切な日々を守りたい。そう思っていた。

「今は、みんなを守るために、少しでも力を!俺はそのために戦うんだ!」吹き飛ばされた壁からゆっくりと立ち上がる。不思議と前よりも力が湧いてきた。

「漠然とした願いとは別に確かな守るべきもの気づいたか、そしてそれが、貴様の希望をちからに変えたのだな。ならば今こそその力を奮い、完全におのれのものにしてみろ!」ネオハーツの声がフィークスにも届く。

「うおおおおおおお!!!」体中に力をため、剣を構える。そしてその力を一気に開放し、フィークスはネオハーツに突進した。ネオハーツは光の壁を広げ受け止めるつもりだ、がそんなものフィークスには関係ない。剣は光の壁にぶつかり、すさまじい衝撃を生んだ。とてつもない高度だ。先ほどの魔物とも比べ物にならない。だが、それでも、越えねばならない。守るべきもののために、希望を胸に立ち向かうのだ。

「おおおおおおりゃああああああああ!!!」全力の一振りはネオハーツの生み出した壁をついに打ち砕いた。

「見事!貴様は己のうちの希望のかけらを希望のちからへと変えた!」

「はぁっはぁっ」

「疲れたであろう。一度休むといい。これで希望は目覚めた。が、我の出番はまだ先か。ならば今一度眠りにつこう。礼を言うぞ、少年」いざ試練を超えはしたが、やはりかなりのオーバーチャージだったのだろう。フィークスも一度その場に倒れ眠ってしまった。

 フィークスが目覚めると遠くに輝くものが見えた。ゆっくりと向かうとどうやら祠のようになっており、輝きを放っていたのは一振りの剣だった。

「これが、龍剣ベルエグ?」そう言ってネオハーツのほうを振り向く、が、既にネオハーツは眠りについており、返事はなかった。その様子はまるで石のようで生きているのか死んでいるのかわからない。その代わり、フィークスの手に持っているベルエグが美しく輝いていた。仮にも神話で語られるような存在だ。フィークスとのしかもあの程度の戦いで死ぬことはないだろう。元の廊下に入ると閉じていた仕切りが上がっていて戻れるようになっていた。戻るとセティとルチェスは気づくなり、フィークスのもとに駆け寄ってきた。うれしくて思わず抱き着いてくるルチェス。勢いがついていて思わず後ろに倒れてしまう。

「ちょっとルチェス君?」

「おっとっとごめんな」最初に会ったときは想像もできなかった屈託のない笑顔に

「あぁ、大丈夫だよ」と許してしまう。まぁ、そこまでの大事でもなかったため咎めという咎めもないのだが、

「フィークス、もしかしてその持ってる剣が伝説の?」

「あぁ、多分な。詳しい話は帰りながらするよ」

「本当にそうならすごいわね。興味あるけど、その怪我は治さなきゃね。」帰りの砂上船の中でフィークスはそこで会ったことを話した。

「それじゃあ、あの先に本物の、ネオハーツがいたっていうの?」

「いや、気がついたら石みたいになってたんだろ?本当は元からその状態で意識だけで現れていたとかじゃないのか、人間のフィークスが魔物の言葉をわかるのも不思議だし、」

「ルチェス、神話の神かもしれない龍神様を魔物扱いはまずいだろ、でもそうだな。本当に意識だけで俺に試練を与えることも可能だったのかもしれない」

「それで、町長のラオさんには、なんて伝えるの?何があったか教えてほしいって言われたんでしょ?」

「あぁ、ラオさんも下手には扱わないと思うよ。公にすれば混乱を招くから、一応ちゃんと伝えるつもり。それよりセティのお師匠様は?」

「いいえ、手掛かりなし。ほんとにどこにいるのかしら」

「もし何かあれば手伝うよ。神殿の中にまで一緒に来てくれたお礼だ。二人と三人なら結果はまた違ったかもしれない」

「ええ、頼むことにするわ」こうして三人はバローへと帰ってきた。セティはいまだつかめぬ師匠の足取りを追って、二人はこのことをラオに伝えるため、それぞれ別方向へと向かっていった。

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