第21話 遺跡で待つもの
二人が砂上船乗り場に来ると、すでにセティは着いていた。が、いかんせんセティだけではいくことができないため、その場で二人を待っていた。
「すみません。ラオさんに昨日砂上船を手配してもらった討伐隊です」
「はいよ、準備できてるぜ。それで、さっきからそこにいる姉ちゃんもかい?話じゃあ二人って聞いたんだが、」
「あぁ、この子も用事があってね何とか頼めないかい?」
「うーん、どうしようかな」そういって男はセティのほうを見つめた。理由はうまく説明できないが、フィークスにはその目つきが気に食わなかった。
「まぁ、いいか。討伐隊の人と同じってんなら大丈夫だろう。さぁ、どうぞ」
「ありがとうございます」
「へへっいいってもんよ」気のいいようにそんなこと言っている。
「さぁ、行こうか」フィークスは足早に二人を砂上船に乗せ、ルズホーネ神殿へと向かった。砂漠を進んでいると、船の周りを見たこともないモンスターが跳ね回っていた。三人が気になっていると舟守が
「そいつは砂漠イルカと言ってな。海にいるイルカに似てるからってそんな名前になってるんだ」砂漠イルカたちは、フィークスたちの船を攻撃するでもなくそのそばを進んでいた。
「海って僕見たことないや、旅で見てきた獣人から聞いた話だと水がとにかくいっぱいあるところらしいよ?」ルチェスが話した。
「俺は全然知らないな。そんな場所があるのか、こういう事件がひとしきり片付いたら、見に行ってみたいな」
「へぇ、フィークス、海見たことなかったのね」
「なんだよ、セティは言ったことあるのか?」
「あるわよ。お師匠様と一緒に海辺の町まで行ったの。夕日が沈んでいくのがすっごくきれいだったわ。行ったことないなら、その時は一緒に行く?」
「へ?なっなんでそうなる?いきなり一緒に行くだなんて、そんなの」しどろもどろになるフィークスをよそにルチェスは嬉しそうに
「いいね!行こう行こう!兄ちゃんも一緒に行きたいんだろ?」
「あぁ、」(ふ、二人きりとは言ってなかったもんな。なんでさっきから変に空回りしてるんだ?)少し前からセティはフィークスにとってほかの人とは違う存在になっていた。話していると楽しいだけでなく妙に落ち着く、そして砂漠を見つめるその横顔はとても魅力的だった。そんなセティに思わず見とれてしまうフィークス。しかし、その中でも船はどんどん進んでいき
「さて、着いたよ。それじゃあ、後は頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
「もう、きちんとしなさいよ。さぁいきましょ」こうして三人は創世神話の時代より残るとされるルズホーネ神殿へとやってきたのだった。
神殿は、それまで見てきた修道院などの建物とはまるで違う建築様式で作られていた。さすがは太古の遺跡だ。近くにはすでに他にも神殿を見に来た人たちもいた。が、そちらよりも気を引く強い気配をこの時のフィークスは感じていた。その気配は、人々が集まる神殿の正面ではなく、その側面、二人を連れて行ってみると、そこには不思議な文字が書かれた壁画があった。セティが珍しそうにだが少しあきれたような声で
「創世文字ね。そりゃこんな昔の遺跡だもの、字だって昔のものね。それで?これがどうしたのよ。創世文字なんて今なお読み解かれていないものなのに、」何?読み解けていない?そんな、だってこれは、ここに書かれている文は
<きぼうをうちにやどすもの、さきへとすすみ、しれんへといどまれよ>
「兄ちゃん、読めるのか?」
「噓、あなた、この文字が読めるの?」読めた、というよりも、心の奥、魂が勝手に読んだような感覚だった。しかも、フィークスはそのままおもむろにその壁に手を触れた。すると壁が動き出し、小さな通路が現れた。
「ちょっとちょっと!なんなのよこれ!」
「おぉ、すごいな。ずーっと奥まで続いてる。この先に壁のしれんってやつがあるんだな。よし!早速行ってみよう!」おどろくセティに対して案外ノリノリなルチェス。
「こんなところ、勝手に入ってもいいの?多分だけど、まだ調査されたことのない場所よね?」
「うーん。未だに伝説の武器が発見されていないとすると、逆にこういう場所にあると思う。それに探すことは伝えているから大丈夫だよ」なんとなく通らないことを言ってしまった。理由をつけるよりも、体が既にこの先に進みたがっているのをフィークスは感じていた。中は長い階段で入った時には何も見えなかったはずなのに、気づくと光が壁にともっている。不思議な状況に驚きつつもさらに奥へと進んでいく。
「みて!あそこ部屋みたいになってる」
「あそこに伝説の武器が?」
「かもしれないな」急いで降りて部屋に出た三人、だが、そこには何もなく、ただの小部屋だった。が、次の瞬間状況は一変する。突然壁から謎の魔物達が現れたのだ。
「なにこの魔物、野生で見かける魔物じゃない、これももしかして古代文明の?」
「こいつら石みたいなものでできてるぞ、だけど生きているってより動いてるだけみたいな感じだ」
「これが試練ってわけか?セティも来てくれて助かったな。二人でこの数は厳しかったろうな、まぁ三人でも骨は折れそうだが、」おしゃべりしている時間はここまでのようだ。遺跡の魔物はフィークスたちに襲い掛かってきた。ざっと見る限り、二種類の魔物、一つは人型でこれまた珍妙な武器を持っている。いくら古代のものだとしてもいささか奇抜すぎる意匠だ。が、威力は確かなようで、槌のようなものは、遺跡の床を軽々砕くし、剣らしき武器はその刃でセティの魔法を切り裂いてしまった。もう一つは獣のような姿をしたもの、四足獣をもとにしているようで人型と違い武器は持っていない。しかし、その分素早い動きでこちらを翻弄してくる。よく見ると爪の部分、人型の持っている武器の刃先と同じ材質でできているようだ。あれにかかればたやすく切り裂かれるだろう。幸い、二人と違ってフィークスは鎧を装備してきた。おかげで道中は苦しかったが、昼間じゃない分ましだった。
「俺が前衛で攻撃を防ぐ!二人は遠距離から隙を狙って攻撃するんだ!」
「えぇ!」「わかった!」フィークスは魔物の攻撃をいなしながら急所を探していった。石のような体はいつか戦ったレギドラグスのものよりも固く、無理に通そうとすれば、こちらの武器がお陀仏だ。どこだ、こいつらの急所は。大抵の生物の弱点は頭だ。それは、生命体である以上、魔物やモンスターも変わらない。頭を狙って仕留めることは素早く倒すための基本中の基本だ。だが、このような実戦、特に相手が未知の敵である際にはついついその基本を忘れがちである。改めて相手を見ると、頭部に僅かな光のようなものが見える。あれが目なのか?どうやら人形でも敵を見つけるために目は必要らしい。古代人も奇抜な意匠のわりに基本は外していないようだった。だが、この場合、少しは応用も必要だと教えるべきか、フィークスは人型の二体の隙をついて頭部の光を攻撃した。光を斬っている気がしない。いや、光なんてフィークスは斬ったことないのだが、確かな手ごたえを感じたことをフィークスはやはり不思議に思った。と、
「おい逃げるな!こらー!」ルチェスの声がした。どうも、フィークスがひきつけている間に獣型を追い込んだようだ。が、その魔物が逃げていく、よく見るとその上から仕切りのようなものが下りてきているではないか。思わず追いかけるフィークス。
「ちょっとフィークス待ちなさい!あなた一人で」そんなセティの声がした時にはもう遅かった。フィークスは、その中に滑り込んでいた。が、魔物の姿はない。かわりに長い廊下がそこには続いていた。
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