第20話 下準備

 「あづううぅ」灼熱の砂漠は獣人には応えたのだろうか。その過酷さにあまり弱音は吐かないルチェスも悶絶しているようだった。

「もう少しだ。ルチェス、もう街が見えてるから」

「す、涼しいところを早く、」しかし、きついのはルチェスだけではなかった。到着するころにはフィークスも暑さがきつく、二人は一度宿屋を取り、そこで休むことにした。しばらく休んでいると日も落ちてしまい、その日はそのまま宿屋で休むこととなった。次の日、ルチェスも何とか回復したためいよいよ、伝説の武器を手に入れるために情報集めを始めた。

 そんなフィークスたちとは別に師匠を追うセティもまた、バローへと到着していた。

「さてと、来たわね。バロー、ほんと熱い、ローブはさすがに着てられなそうね」などと言っているが、ここからどうしようかはまるで案がない、月光の迷宮でわかったのは、この場所に究極魔法のピースを探しに来ていたことのみ、今もまだ生きているのかどうなのかはわからない、ここにいるのかも。望み薄だが、町にいる人々に聞いて回るしかなそうだ。

「すみません。前にこの辺りで、薬を売る魔法使いがいませんでしたか?」

「ん?なんだい嬢ちゃん、人探しか?そうだな、そんな人ならごまんといるからな、もっと何か手掛かりになることはないか?」

「うーん、そうだ。その人今、魔法の研究をしていて、それのヒントを探しにこの街に来たみたいなんです。」

「ん?おぉ、そういえばそんな人いたな。魔法のヒントになりそうなところはないか。聞いて回っている人ならな。だから、ルズホーネ神殿のほうに行けば何かあるんじゃないかってことで納得して今頃そこに行ったんじゃないか?あそこは信仰の場でもあるから行くだけなら簡単だったと思うぞ?」

「そうですか。ありがとうございます」ルズホーネ神殿、創世神話に出てくる場所だ。もういないだろうが、セティも一度向かってみよう。そう思ったところに、別の情報をもった者たちが現れた。

「あ、セティ」

「あれ?フィークスにええと、獣人の」

「ルチェスっていうんだ。改めてよろしく」フィークスとルチェスも町へと出てきたきたようだ。

「そういえば、お師匠様の事はあの後に何かあったのか?」

「えぇ、この町に以前お師匠様が来ていたことが分かったの。それにルズホーネ神殿へ向かったていう人の中にもね」そういうと、フィークスは驚いて

「ルズホーネ神殿だって?俺たちもそこに行こうと思っていたんだ」

「なんですって?それはいったいどうして」フィークスはセティにここに来た経緯を話した.

 聞き込みを始めた二人がルズホーネ神殿にたどり着くまでそうはかからなかった。フィークスもまだ元気だったころに砂漠の中に見えていた巨大な建物が気になっていたからである。しかし、あの遺跡の中に入るとなると話は別だ。なんでも、この町の長の許可が必要だった。そこでフィークスたちは町の人に教わった、彼の屋敷へと訪れた。

「すみません。討伐隊のものですが、町長さんに話がありまして」

「隊員証を見せてもらおう。うむ、この町に駐屯している部隊ではないな。おい、町長に通してよいか聞いてきてくれ」門番の男がもう一人の男に言う。

「わかりました!先輩」若い門番はそういうと屋敷の中へ入っていった。門前で待っている間2人は宿屋に土産のように売られていた氷のお守りで暖ならぬ冷をとっていた。しばらくすると門番が戻ってきて

「許可が下りたぞ。さぁ、ついてこい」2人は先ほどまで一緒に待っていた門番とともに中へと入った。と、気になったルチェスがあることを聞いた。

「お兄さんはそんなに着てて熱くないの?」

「む?あぁ、我々の装備には、高温に耐えるため、魔法がかけられている。君たちの持っているお守りと同じだ」

「そっかーここで働いているからって大丈夫ってわけじゃないんだね。なんだか安心」

「さて、ついたぞ。この先だ」門番が扉を開けた。そこにいたのは、ルチェスと同じくらい、いやそれよりも少し背の低い老人だった。

「ようこそ、若き者たちよ。わしはラオ、この町の町長じゃ」

「突然の訪問失礼します。私は、討伐隊に所属するフィークス=ヴィスハーと申します」

「ふむ、フィークス君、それで隣は獣人かね?」珍しそうに言うラオ

「ルチェスです、よろしくお願いします」緊張している様子のルチェスにラオは笑いながら、

「はっは、そうかそうか、今や獣人も人間とともに働く時代になったか。いいことじゃ。昔は、騎士団としょっちゅうもめごとになってな。と、昔話にふけるところじゃった。それで、この街にいったいどんな用じゃ?」

「先日もグリンヘックを襲撃した龍帝軍。彼らに対抗するための武器がこの地にあるという話を聞いてきました。そこで、あのルズホーネ神殿の中へと調査のために向かわせてほしいんです」

「ふむ、確かに最近のあ奴らの行動は目に余る。この町にも大きな被害はないものの、時折、それらしき不審人物がうろついているという話を耳にしておったのじゃ。やつらを懲らしめるためというのならば、いいだろう」そう言うとラオは紙に何かを書き始めた。

「明日、ここの砂上船乗り場に来なさい。手配させておこう。まだ若いのにそんな大役を受けるとは、そなたらには本当に何かあるのかもしれんな。また街に戻ってきたらどんな状況であったかわしのところにも報告に来てくれ」

「はい。ありがとうございます」

 「なるほどね、それで明日の準備をしていたのね。ねぇ、せっかくだし、私も同行させてもらえないかしら?」

「うん?こちらとしてはありがたいし、特別止められるってこともないがどうしてだ?」

「どうもこうもないわよ。お師匠様の手がかりが何か一つでもあるかもしれない。それだけでも行く価値はあるわ」

「そうか。じゃあこの紙に書かれている場所に集合だ。よろしくな」

「えぇ、ありがとう」こうして分かれた三人を建物の陰から見る者がいた。

「ペガサスの毛でできたローブ、まさか本当にあるなんてね、着てはいないけど持っている以上あの子ね。本当はあの子でゆすってもいいんだけど、あの話していた子、ギルベルト様が言っていた子かしら?なら、もっと面白いやり方があるじゃない、ふふふ、」不気味な人物はそう言うと影とともに姿を消した。

 「はぁー、何とかなったし、思わぬ助力もあって一石二鳥もいいとこだ」

「ルズホーネ神殿か、僕はよく見れなかったけど、どんなところなの?」ルチェスが聞いてきた。相変わらずの知識欲である。

「グリンヘックでも龍神の舞を見ただろ?遠い遠い昔、この世界の神様が生きていた時代にいたっていう伝説の龍さ。この世界の魔法はすべてその龍神さんが司どってるって話だぜ?」

「えぇ、そんないかにも強そうな奴が眠ってる場所なんて入って大丈夫なの?」

「うーん、こうやって砂上船で行き来されてるくらいだし、創世神話だって気の遠くなるほどの昔って話だ。もしかしたらもう誰かに倒されてたり?まぁ、そんなわけないか」

「うーん、何事もなくその伝説の武器が手に入るといいけど、」

「だな、さぁ、明日は早いぞ。もしもの事態に備えてしっかり休んでおこうな」

「うん!」こうして二人は明日の神殿探索に備えた。

 バローから少し離れたルズホーネ神殿、フィークスにさんざん言われていたそれは、長き眠りから覚め、天を見上げてこう言った。

「希望よ、お前もようやく目覚めのときか」

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