第19話 守られたもの

 トーマスが目を覚ましてほどなくして、エルダもまた気が付いた。

「い、今のはお父様の?」

「おぉ、エルダ様、無事でよかった」

「トーマス、私は、一体。それにお父様が夢の中に出てきて、あの日のことを伝えているようで、」どうやらトーマスと同じような夢を見たようだ。

「エルダ様、私もあいつの、ジェイクのことを夢に見ました。きっと私たちは同じ夢を見ていたのでしょう。しかし、いったいなぜ?」エルダは少し考えてあることを思い出した。

「そういえば、夢を見る前に私たちの前に霧とともに現れた不思議な生き物、彼が何か関係しているのでしょうか?

「確かに、私はエルダ様より少し前に目覚めましたが、その時にはすでに誰もいませんでした」さらにエルダはあることを思い出したように

「本で読んだ気がします。ポル村とヒルミをつなぐこの森には、不思議な力を持ったヌシがいると、先ほどの濃い霧に私たちが見せられた夢、あれがそのヌシの力だったのでしょうか?」そしてもう一つ、トーマスには気になることがあった。いや、もうこれに関してはほぼ確信に近いものなのだが、

「夢の中でジェイクが出会っていた少年、もしかして、あのフィークスさんではないしょうか?」

「えぇ、私もそう思っていたんです。ですが、名前が同じというだけで、偶然かもしれない。決してそうとは言い切れませんね。とにかく一度ヒルミに帰りましょう」

「はい」

 ヒルミに帰ってきた二人は一休みしたのち、もう一度あのときっみた夢に関して話し合った。エルダがをそれまでの事を振り返ってみて呟いた。

「そういえば、フィークスさんたちのこと、私たちはあまりよく知りませんね」

「そうですね、どちらとも、非常事態でしたから、無理もないものです。しかし、私には、ジェイクがあの時に出会った少年こそが、フィークスさんではないかと思います、彼の戦う姿や行動を見ていると、何かを必死で守りたいという強い思いを感じるのです。もちろん、それ以外の方々がそうではないとは言いませんが、」

「フィークスさんはそれが人一倍強い、確かに、そんな気もします」

「もし彼が、本当にあの夢の少年で、その夢が真実などだとしたら」

「お父さんのおかげで、私もグリンヘックも守られた。何も残っていないと思っていましたが、お父さんによって守られたものもあったのですね」

「えぇ、そしてフィークスさんもまた、誰かを守るために戦っている」

そういうと、エルダは少し考えて、

「私、フィークスさんともう一度話をしてみたいです。なんだか、それがお父さんのためになるような気がして、」

「そうですか、しかし、エルダ様ここの修道院はどうしましょうか。ここ最近、かなりの日数、不在ですよ、さすがにこれ以上は」といってトーマスが止めようとしたとき、修道院の外から何やら騒がしい声がした。

「!あなたたちは、アッジとウスタ?」

「何ようだ!まさかまたエルダ様を!」そういって身構えるトーマスであったが、アッジが思わぬことをつぶやいた。

「ち、ちげーよ!この前のグリンヘックの話聞いたぜ?あんたらやライオットたちのお手柄だって、そのことを話に来たんだよ!」

「そんなことを、あれは本当に居合わせただけですよ。それより、討伐隊のライオットさんとは同郷なのですよね。今、あの方がたはどんな任務に?」これにはウスタが答えてくれた。

「あぁ、あいつらはみんなまた休んでるんだ。けど、俺たちとも戦ってくれたフィークスは、少し用があるって話だ」

「なんですと‼、その内容などはわかりますかな?」

「詳しいことはわからないが、砂漠にあるバローって町に行ったみたいだ。しかし、なんでそんなこと?」

「実は、私たち、フィークスさんに話したいことがあったのです。そこにお二人が来て教えてくださいました」

「しかし、この町に今いる修道女はエルダ様のみ、どうしようかと困っていたのです」

「そうか、ラスフィの修道院に掛け合ってみるか?こんなでも俺たち、街のあちこちで復興を手伝っているんだ。そしたら昔よりも断然たくさんの人と関われるようになってな。特にあんたらには、前科もある。少しくらい力にならせてくれ」それを聞くとエルダは嬉しそうにトーマスに訴えた。

「ほら!これならどうですか?ちょうどフィークスさんの場所もわかりましたし、」

「そうですね。ラスフィの修道院には後日私たちからもお礼を言いましょう。アッジさんとウスタさん、お願いできますか?」

「おう!騎士のおっちゃんも任せてくれ!」おっちゃんとは、以前と比べて随分態度が変わったものである。かくして、二人は修道院をラスフィの人間に任せ、フィークスに会いにバローへと向かうのであった。

 グリンヘック襲撃事件の後にフィークスたちの部隊はその功績をたたえられ隊での待遇もよくなった。特に彼らを押したモーガン副隊長は大喜びでフィークスたちが呼ばれて話に行くと

「君たちならできる!やってくれると信じていた!!よくぞやり遂げてくれた!!!若き討伐隊員たちよ!!!!」と、満面の笑みであった。そのおかげでフィークスたちの話は以前よりもさらに討伐隊の中はおろか王国の似た系列の組織にも轟いていた。とはいえすぐに次の任務というわけではなく、しばらくの休暇をもらえていた。その後は前述の通りでライオットをはじめ、ルチェスを除く3人は一度自分たちの故郷へと帰っていった。ルチェスだけはフィークスとともにロミラの経営している三角屋根のユンにて同じように宿屋の手伝いをして過ごした。フィークスと違って初めて働く人間の日常に触れたルチェスは、やはり悪戦苦闘しながらも着実に身につけていった。その成長はすさまじく、以前の自分とは比べ物にならないほど吞み込みが早かった。が、その話をするとルチェスは

「年下扱いしないでくれる?」ときつく言うので黙っていたが、それまで含めてフィークスは、なんだかルチェスが本当に弟のように思えていた。

「さて、もう明日だね。バローに行く日ってのは、一緒にいた時間があっという間だよ」

「うん、また気を付けて行ってくるつもりだよ。ロミラさん」話はまだライオットたちが帰る前、フィークスのもとにある者から話があるといわれたのだ。

「討伐隊の隊長から話が⁉」

「出世したな。フィークス」と笑いながら言うハック。

「ぐぬぬ、なぜだ、隊長は私なのに、」

「やめとけライオット、おそらく龍帝軍に直接関することなんだろう。第一、本懐を遂げたのはフィークスたちだしな」そうして、向かった龍帝軍の隊長室。中に入ると、噂通りの黒い鎧に身を包んだ騎士がいた。

「ようこそ、フィークス君。私が討伐隊隊長、レダンだ。君の話は聞いている。その上で君に持ちかけたい話が合ってね。さぁ、まずはそこに座ってくれ」フィークスは、そこでとある話を聞いた。王国に伝わる伝説の武器、龍剣ベルエグ。創世神話より伝わるその武器が、バローの近くのとある神殿に眠っているのだという。今まで誰一人として使うこと能わなかったその武器をレダンはフィークスに勧めたのだ。

「しかし、なぜそんな話を私に?事件は私だけの力で解決したわけではありません。それに、実力ならほかにもたくさんの方々が、」そう言うフィークスを止め、レダンは訳を話した。

「君には希望を感じる。希望とは大きな力だ。世界を変えることができる不思議なね。そんな君ならきっと伝説の武器を手に入れられる。そう思ったんだ」なんだか、理由になっていないようなことを言われてしまったが、今よりも力が手に入るならば、行く価値はあるだろう。実際あの場でギルベルトと戦っていたら、フィークスは今、ここにすらいないのだから。こんなわけもあってフィークスはルチェスもつれて王国の北部にある砂漠の町、バローへと向かった。かくして5人はそれぞれの理由でバローに向かう。彼らを待つものとは一体。

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