第17話 師の足跡・後編

 勢いよく飛び出したはいいもののウルマーさんの言っていた月光の迷宮はいくら言っても見つからない。出口はおろか入り口も見当たらないとは大層な迷宮だと思っているうちに辺りはすっかり暗くなっていた。すると、セティの前にある木々の壁がめきめきと動いている音が聞こえた。そして先ほどまでは見えなかった迷宮への入り口が目の前に現れたのだった。

(木々の奥まで見てもこんな道は見えなかった。流石ね、時間でここの空間がずれるようになってる)セティは現れた迷宮へと足を踏み込むのであった。迷宮というだけあって道も複雑で迷わせてくる仕掛けが多かった。さらに中には魔物もうろついており、それらの対処も必要だった。だが、セティはそれにも怖気づくこともなくその先へと進んでいった。進んで行くと目の前には扉が現れた。ここで終わりか?と思ったが何やら扉に文字が書いてある。そこには

“ここは一の試練、訪れし者の二の魔力、目覚めし時扉が開かれる”と書かれていた。何のことだろうかと考えていると後ろから気配を感じた。一体何だと振り返ると、魔物の一種、暗闇コウモリのような姿をした影のようなものがセティに襲い掛かってきた。それらの攻撃をかわしつつ、セティは自分の魔法、<ファイアー>と言われている攻撃をした。しかし、影たちにはどうも効いていないようだった。何度打っても結果は同じ、魔法が影の体をすり抜けていってしまう。

(二の魔力、もしかして)苦戦しながらセティは昔、お師匠様から言われていた話を思い出した。

 「いいかいセティ、この世界における魔法はあらゆる場所に存在している。この力のことを属性エネルギーと言って、それに応じた属性の魔法が使えるんだ。ただ、一人の人間が扱える属性の数はおよそ決まっていてほとんどの場合は3種類の属性が扱えると言われている。

「お師匠様!私は?今は火の魔法しか使えないけど、他にはどんな魔法が使えるの?残念ながら、今すぐこれだとはわからない、今の研究だけでは、事前に予測ができないんだ。もし知りたいなら少しずつ試してみるしかない」

(結局、あれから少しやったくらいではわかんなくてファイアーだけでもいいやってなっちゃったんだっけ)そう思ったセティはこの状況でも、どの属性が使えるのかを確かめながら戦っていった。次々と属性の魔法を打とうとするも、失敗。ついにはすきを突かれコウモリの攻撃が命中してしまった。

「くっ」しかし、ここまできてあきらめるわけにもいかない。どれだ。と必死になって探し当てようとする。その時、ある考えがセティの頭をよぎる。二の魔力がセティの予想通り、その人の持ちうる属性の魔法のことならば、ここを訪れるすべての人間が同じ属性だということはありえない。とすれば今目の前にいる魔物の影は、その人間の持つ力のヒントとなる姿をしているのではないか?暗闇コウモリの弱点は安直だが、光属性だ。この考えにたどり着いてからセティはこの攻撃を仕掛けることに集中した。

そしてついにその時がやってくる。

「くらいなさい!<ライト>!」そう言って手を突き出す。収束したエネルギーはセティの元からまばゆい光の筋となり、暗闇コウモリたちの影を次々と貫き倒していった。あらかた倒し切ったところで背後の扉がゴゴゴと音を立てて開いた。どうやら成功のようである。セティはその先へと進んだ。その先にも迷路は続いていた。先ほどと同じように迷路を進んでいくとまたもや扉に出くわした。扉に書かれた文字はこうだ。

“ここは二の試練、訪れし者の魔力、一層極まりしとき、扉は開かれる”

先ほどのこともあってなんとなく答えの察しはついている。案の定後ろに再び試練の相手が現れたようだ。雄々しい大樹の魔物、トレントの姿を模した影である。動きはゆっくりしているがその分一撃は強力で先ほどの暗闇コウモリとの闘いとはずいぶん違ってくるだろう。さて、セティの予想している答えだが、魔法には属性の違いだけでなく強さによって4段階に分けられる。セティの覚えている<ファイアー>と<ライト>はそれぞれ火と光の初級魔法である。この上には中級、上級、そして超級魔法がある。セティの場合、今回必要となるのは火の中級魔法<ボルケーノ>だろう。ボルケーノは前から何度も練習していたが、いまだ完成させられていなかった。しかし、こうなってはできないなどと弱音を吐いてもいられない。

セティは以前、お師匠様に教わったことを思い出す。

 「いいかいセティ、ボルケーノはファイアーの上のように思われているが実際は少しばかり違うと私は考えているんだ。その正体は無数の火の玉が繋がって一つの線のように見えているんだ。長い炎を出すのではなく、細かくたくさんの火を生み出すというイメージが正しいと思うんだよ。まぁ、こんなこと発表すると、学界から笑われるかもしれないけどね」

(大きな炎ではなく無数の火を連続して生み出すね)

トレントの攻撃をかわしつつチャンスをうかがう。そしてついにトレント自身が攻撃の反動で大きな隙が出来た。その瞬間、セティは自分のイメージを収束し、そして魔法を唱える「<ボルケーノ>!」イメージ通りの無数の火がトレントへと向かっていき一瞬にしてその影を飲み込んだ。炎が消えるとトレントの影もまたいなくなっていた。またも扉がゆっくりと開く、どうやら試練は成功したようであった。セティはその扉をくぐり先へと進んだ。

 進んだ先に今もお師匠様がいる、なんてことはやはりなくその先にはさいだんがあるだけでもう他には何もなかった。が、セティは不意に何かを見つける。それは出来事などを保存しておき魔法として置いておくことができるものだった。セティがその泡のような魔法に触れると、泡ははじけそこにはお師匠様の、ガストの姿が映し出された。

「久しぶりだねセティ、ここに来たということは僕のことを探してくれているんだね。この迷宮にあった記録を見るとどうもバローと言う町に最後のピースがありそうだ。手紙もよこしていないということはきっと私は研究に没頭しているんだろう。ぜひそう思ってくれたまえ。もうすぐだ、もうすぐ僕の研究は完成するよ。また会えるのを楽しみにしてる。それじゃあ」そう言って魔法は消えてしまった。

「バロー、砂漠の町ね。言ってみなくちゃ、それとウルマーさんに伝えてからにしよう」そう言ってまたもセティは足早にその場を離れた。しかし、その背後で魔法はもう一つの記憶を映し出していた。

「そうそう、君がここに来れているということはボルケーノを身につけたということだねこの魔法に関して面白い話があるんだが、なんでもその魔法がある合体魔法の要素だということが分かったんだ。その魔法はね」

 「で?その魔法って何よ、私も気になるなぁ、先生?」場所は変わって暗い部屋の中で、何者かが鎖につながれ、拷問を受けている。拷問をしている者の隣には、なんとギルベルトの姿まであった。

「早く吐かせろよ、究極魔法は私の力で作り上げたが、これに関してはそうはいかない」

「未知の合体魔法は危険な威力を持つものね、できる限り急がせるわ。あなたの障害を消すために」その言葉を聞いたギルベルトはその場を去る

「ふん、急げよ、私には向かう恐れのあるものはすべからく排除しなければならんからな」

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