第15話 究極魔法

 次々と現れる魔物たち、しかし、セティとルチェスの援護によって少しずつ戦況が好転していった。遂に魔物たちを呼び出すのに、こちらの倒すスピードが追いついたとき、一瞬の隙をついてルチェスが龍帝軍の一人を制圧した。それとほぼ同時にセティのほうも魔法の打ち合いを制し、彼の杖を弾き飛ばしていた。あとはこの二人をとらえて、討伐隊に突き出すだけ、のところに

「!!危ないフィークス!」ルチェスが突然フィークスにとびかかったそのまま二人ともその場に倒れこむ。そしてその上を巨大な雷魔法が飛んで行った。撃たれた方向から、フィークスはいつの日に聞いたあの恐ろしい声を聞いた。

「ちっ鼻の利く獣人め、魔法までかぎ分けるのか?」

「お前、何者だ。咄嗟に音が聞こえたからいいものの、あそこまでの隠密ににおいを消した万全の気配消し、ただものじゃないな」

「あぁ、あれではさすがに音が大きすぎたか?まぁよい今回はお前たちを倒すためにやってきたのではないからな」

「あんただれよ!悪いけど邪魔しないでくれる?」セティが聞いた。が、今回は先の男たちのようになんだかわけのわからない返事は帰ってこなかった。代わりに他ならぬフィークスが震えた声でその者の名を呼んだ。

「お前は、ギ、ギルベルトなのか?」男はにやりと笑った。

「ほう、私の名を知っているのか。いかにも!私こそがギルベルト。龍帝の血を引く、この世界の真の支配者となる男だ!」白髪の不気味な男はそう言った。

「こいつらは、私が到着するまでの時間稼ぎだ。が、お前たちのような何の力もなさそうな者たちにやられてしまうとは、どうも私は人を見る力がないのかもしれんな。まぁそんなものは関係ない。じきに関係なくなるのだ」自嘲気味に話すギルベルト。フィークスは恐怖を押し殺し、恐る恐る口を開いた。

「なぜこんなことをしたんだ!目的は何だ!」

「ん?あぁ、私はこの前少し面白いものを見つけてな?丁度それを試してやろうと思ったのだ」そう言うとギルベルトはその手に魔力を集め始めた。魔力は見る見るうちに肥大化しほかのどの魔法とも取れない不気味な色のグラデーションを放っている。

「⁉」その様子を見てセティは何かに気づいたようだった。

「“究極魔法”というらしいのだ。存外よくできている。それぞれの属性エネルギーが複雑に干渉しあい、万象にも匹敵するようでありながら、どこか虚無のような感じさえするな。本来ならば混乱の中でこれをあのまぶしくて好かん街に叩き込んでやろうかとも思ったのだが、」と言いかけてギルベルトは、口をゆがめ、先程まで余裕綽々といった目つきだったものが一気に険しくフィークスをにらみつけていた。その瞳は、フィークスの心まで見透かしているように不気味だった。そして

「なぜだろうな。貴様を見ていると腹が立ってくる。今日は気分が好かん。そこの敗者に価値などない。下手に生きていても邪魔になるだけだ」そう言うとギルベルトは一瞬のうちに龍帝軍の二人を魔法で持って即死させた。そして気づくとギルベルトは先ほどまでいた場所から姿を消していた。フィークスは先ほどのセティの様子が気になって思わず聞いてしまった。

「な、なぁセティさっきはどうしたんだよ。急に黙って」が

「べ、別にあんただってあいつを見るなり怖気づいていたじゃない」そう言い返されてしまった。

 こうして、龍帝軍のグリンヘック襲撃事件は幕を下ろした。ギルベルトが立ち去った後、騎士団たちも到着し、龍帝軍二人の遺体は彼らの管理下となった。フィークスたちが街へと戻ってくると、ライオットたちが誇らしそうにしていた。なんとエスカーラは彼らの手で倒したというのだから驚きだ。いったいどんな魔法を使ったのかと聞きたくなったが、それよりもフィークスの気にかかっていたのは、セティの様子だった。ギルベルトがあのすさまじい魔法を発動したところからかなり動揺している様子であった。その日は一度休んだ後に、起きてからセティの足取りを知っているものが誰かいないかと聞いて見たが、ライオットたちは誰一人として知らなかった。どうしようかと悩んでいると魔法を使って疲弊していたエルダとトーマスが一緒に歩いていた。

「エルダさん!よかった、もう大丈夫なんですか?」

「はい!セティさんの後を引き継いでくださった薬師さんのおかげもあってあれからすぐに治りました」

「それは良かった。ところでセティのことどこかでみませんでしたか?」

「セティさんなら私たちがあそこの酒場を出るときに会いましたよ。ひとしきり話した後、彼女は何かを書いていましたよ」トーマスが教えてくれた。

「そうですか。今回は加勢していただきありがとうございました!」

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ!それではまた、何かあったらいつでもヒルミに来てくださいね。拙くもおもてなしさせていただきます」

「はい、ありがとうございます」そう言ってフィークスはあの酒場を目指した。酒場に入ると店の店主がフィークスに

「セティちゃんの言ってた男はお前か」と尋ねてきた。

「恐らくそうですが、なぜそれを?」フィークスが尋ねると

「あの時店に入ってきた討伐隊の男がいたらこれを渡してくれと言われてな、書置きを預かってるぞ。ほい、これだ」フィークスは手渡された紙に書かれたことを読んでみた。

 私は街の西にある公園にいるわ。今すぐには話せないから今のうちに私も気持ちを落ち着けておくから、準備ができたらすぐに来てね。

これを見たのちフィークスはすぐに酒場を出て西にある公園へと向かった。勢いよく開かれ、そしてゆっくりと静かに締まる扉を聞いて酒場のマスターは

「ひゅー青いねぇ、あの二人」くすりと笑って呟いた。

 走りに走ったフィークスは何とか西の公園についたなんせ大都市グリンヘックだ。正直あれだけの情報では不足というものだ。が、何とかたどり着いた。

「セティ、ようやく見つけた」

「えぇ、私もようやく気持ちが落ち着いたし、ちょうど話そうと思っていたところよ」

「あの戦いの後はどこに?」

「普通に宿屋をとってそこで休んだわ」

「そうか、その、昨日はすまなかったな。いきなりあんなこと聞いて、」

「気にしてないわ、あなたも戦いの後で余裕なかったろうし、」

「それで、この前動揺していた理由、できる限りでいいんだ聞かせてくれないか?」セティは少しだけうつむいてそして話し始めた。

「あの、ギルベルトっていう人、“究極魔法”って言ってたわよね?」

「あぁ、あのものすごい力を感じた魔法か」

「私の魔法使いとしてのお師匠様が研究していたの、最高の魔法“究極魔法”を、その手がかりを見つけるためにお師匠様は旅に出た。そして今まで帰ってきてないの」そのことを聞いたフィークスは、恐ろしい感覚が背中を走ったのを感じた。

「もちろん、研究していたのはお師匠様だけじゃないわ。だけど、お師匠様はかなり完成に近づいていた、もし、お師匠様にあのギルベルトが何かあったら、私は、あいつのことただじゃおけない。私はあの龍帝軍について自分なりに調べてみるわ、ありがとう話を聞いてくれて」

「いや、俺たちにとっても気になる情報だ。こっちでも何かつかんだら教えるよ」

「ありがとう、それじゃ」話し終わって去るセティ、討伐隊としてでなく、フィークス自身で何かできないかと、ブレイミーに戻りながらフィークスも考えるのであった。

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