第14話 龍帝の下僕
フィークスたちを建物の中に引き込んだのは、セティだった。
「セティ!どうしてここに?」
「ここ、昨日言っていた酒場だよ。丁度あなたに伝える書置きを書いていたところだったの」見ると酒場はすでにほぼ満員、中には親子もいた。
「逃げ遅れた人をここで助けてたの、それであなたたちを助けたってわけってその人もしかしてエルダさん?どうしてここに、いやまずは手当ね」
そう言ってセティはカバンを持ち出した。
「強い範囲魔法を使ってくれたんだ。それでぐったりして」
「魔力疲れってわけね、それならいい薬があるわ。フユノツキで作った薬をっと」取り出した薬をセティは飲ませた。ぐったりしていたエルダの表情も少しだけ和らいだ。
「ありがとうセティ、助かったよ。それで書置きをしようとした話って?」
「えぇ、フードの魔法使いの話を聞いていたら、その中でも魔力抽出所に向かったっていう二人が気になってね」やはり、敵の目的は神流の力だったのか。
「わかった、ありがとう。それじゃあ行くぞルチェス」
「うん、わかった」そういって店を出ようとするフィークスたちをセティが呼び止める。
「ちょっと!私も行かせて?」急なお願いに
「なっなんで⁉これは危険だ。セティはここにいるんだ」
「もし、そいつらが素材を買い占めてるんだとしたら、そのことで懲らしめてやらなくちゃならないじゃない」
「そんなこと、俺たちに任せてくれればいいじゃないか」
「そうだよ、それに今倒れちゃったお姉さんを頼めるのは姉ちゃんしかいないよ」ルチェスもセティを止めた。
「うっ、それはそうかもしれないけど」そういってセティが諦めかけたとき
「失礼、君たち、私にもその方を診させてもらえないかね?」と突然見知らぬ男がやってきた。
「あなたは?」フィークスが尋ねると
「旅の薬師です。フユノツキの薬の使い方なら心得ている。君たちは見たところこの事態を収めるために戦っているようだ。どうかここは私にも手伝わせてくれませんか?」
「そ、それならいいですけど」フィークスがそう言うとセティは急に得意になって
「決まりね!さぁ、魔力抽出所に行った奴らをとっちめるわよ!」
「まだ、絶対と決まったわけじゃないから、」そう言って三人は店を出た。外はあらかた、ライオットたちの健闘で、魔物がほとんど片付いていた。
「フィークスさん!エルダ様の様子は?」心配するトーマスに
「大丈夫、今そこの中で診てもらっています」
「おお昨日の薬師ちゃんじゃん!何か情報をつかんでたの?」
「えぇ、抽出所に怪しい奴らが向かっていたってのがね」
「やっぱり、奴らの目的は神流だったのか」
「ここまでのことが起きている以上、力の大本で何かしら起こっているのは確かだ。みんなで向かおう!」
「私は、少しここで残ります。まだ隠れている魔物がいるかもしれない、それにエルダ様が心配だ」
「わかりました。それじゃあ僕たちで向かいます。あとはよろしくお願いします!」
フィークスたちはその場の警戒をトーマスに任せて魔力抽出所へと向かった。街の外れに差し掛かったところで一行は足を止める。そこには、今まで見たことのないモンスターが行く手をふさいだのである。
「こいつは、エスカーラ⁉そんな、アルル王国では確認されていないぞ!」ゲイルが驚いて叫ぶ。
「ヤトラズナといいこいつといい、龍帝軍ってやつはモンスターを自由自在だな」戦闘態勢に移るフィークスたちにライオットは
「フィークス!ここはハックとゲイルと俺で引き受ける!お前たちは抽出所へ急げ!」
「でも、それじゃみんなが!」
「お前が崖を落ちてから誰があのモンスターをやったと思ってんだ!心配すんな!早くいけ!これ以上出てこられちゃ困る!」
「わ、わかった!必ず奴らを止める!それまで持ちこたえてくれよ!」
三人がエスカーラの注意を引いた隙にフィークスたちはいい気にその横をすり抜けて抽出所での道を進んでいった。
「ちぇっ、フィークスのやつずりぃ俺もどうせなら薬師ちゃんと」と言いかけたところでハックは
「って冗談だよ。二人にそろってモンスターまで無駄口叩くなってか!?」持っている斧をハックは豪快に振りかざした。
ライオットたちに開いてもらった道をフィークスたちはまっすぐ進んでいった。しばらく進んで行くとわずかに見える建物と不思議な煙が上がっていた。フィークスたちが到着すると、そこには男が二人、フードを脱ぎ捨て別の服装だった。下に来ていたであろうその衣服には、予想通り龍帝軍を示すマークが描かれていた。
「そこまでだ!龍帝軍‼」フィークスが男たちに叫ぶ。男たちはこちらを見て
「何っ!せっかくあのお方に教わった術を使って足止めをしたというのに!」
「あなたたち、一体何が目的なの⁉」セティが呼びかけると男たちはしばらく黙った後に共に手を合わせた。その後右の手のひらを空に左の手のひらを地面に向けてこう唱えた。
「天は地、地は天、全ては神の流れに沿って万界を巡る。我ら、偉大なる龍帝の下僕なり、今こそ創世の力でもって、世界を我らのものとする!」
「だから何よ!変なこと言ってないでくれる⁉私、目的を聞いたんだけど!」と怒りをあらわにした。いきなりの動きにルチェスは
「な、なんだこれ人間も儀式好きなのか?」と首を傾げた。
「みたいなものだ。」フィークスは答えてやった。
「これは我らのなすべきこと、貴様らの信じる主神とやらの支配を退け、我らが偉大なる龍帝様が、この世界を治めるため、われらにお与えになられたまさに天命なのだ」
「ほらな、こいつら元から話なんて通じないぜ、言葉の意味が分かるだけさ。悪いが、話し合うより、力で抑えたほうがいい場面だってあるんだよ、さぁ、二人とも手伝ってくれ!あいつらをとっつかめて討伐隊に突き出してやる!」
「うん!」ルチェスは勢い良くうなずいた。セティは
「意味わかんないけど、わかりそうもないことなら分かったわ。材料のことは後で問い詰めてやるんだから!覚悟しなさい!」と啖呵を切った。
「逆らうつもりか、我々におい、私が魔法で援護をする。お前は魔物でもって応戦するのだ!」
「承知!いでよ魔物たちよ!」そう言って龍帝軍の一人が杖を振ると、スケルトンやゾンビといった魔物たちが現れた。彼らにすかさず、男は不思議な粉末を振り掛け、
「いけ!魔物たちよ!奴らを倒すのだ!」そう命令した。なんと魔物たちは間近にいる龍帝軍ではなくフィークスたちのほうを襲い掛かってきた。勢いよくとびかかってくる魔物たち、だが、それもフィークスはあっという間に切り伏せた。が、それでは終わらない、次から次へと魔物が召喚され、操られていく。
「あいつら魔物を生み出すために膨大な魔力のあるこの場所を選んだのか!」フィークスがモンスターをさばいている間をすり抜けて、魔物を召喚するルチェスが短剣でその男を斬りつけに行こうとした、が今度はもう一人の男の放つ魔法に阻まれる。
「くそっやはり肉薄して一撃は難しいか。なら弓で」
「弓など使おうとしても無意味だ。獣人よ。お前らの強みは動きの素早さだが、それも魔法の前には無意味だ!」
「くっ!」話は通じなくとも腕は確かなようだ。まったく腹立たしい。だが、こちらは二人ではない、魔法には魔法だ。
「援護なら任せて!さぁ!みんなでこいつらを倒すわよ!」セティの炎の魔法と龍帝軍の男の闇の魔法が激しくぶつかり、爆発した。
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