第13話 都会の騎士と田舎騎士

 宿舎についたフィークスたちは事前に教えられていたという派遣部隊用の部屋に入った。さすがに宿屋のようにまったりすることはできなそうだが、さすがは大都市グリンヘックだ。今まで駐屯したりして泊まった部屋とは設備が段違いでよい。ベッドはもちろん室内の空気周りなんかもよく設計されている。こんな安全な都市部の宿舎よりももっと危険な地域の宿舎の設備を強化すべきなんじゃないかと思ってしまう。寝食の質はその人の活動すべてを左右するといっても過言ではない。討伐隊が騎士団と比べ日が浅いとはいえ、こう言った金の使い方をしているとなるとなんだかうさんくさい王国の実情に触れているように感じて、考えるのをやめた。

食事や入浴を済ませて、フィークスたちは横になった。

(自分が落ちてたら、セティと一緒に薬屋やるか、俺がセティに見つかるまで生き残れただけでも奇跡なのに、簡単なこと言うなぁ)

セティのいた家は谷底の奥にあった。あそこから町に薬を売りに行くのは楽なことではない。そもそも町に家を構えてそこに暮らせばいいのではないか?薬の調整に都合がよかったにしても必要な時に行けばいいではないか。セティがあそこの家にただならぬ思い入れがあることは確かだった。

(また会ったらよろしくか、そんなことがあったら少し聞いてみようかな)

 気づけば朝になっていた。昨日の夜の明るさとは違う、日の光の温かさが体に降り注ぐ、もうほかのみんなは起きてしまったようだ。

(おいていくなんてことはないか、みんな朝食に行ったのかな)支度を済ませて部屋を出たフィークスは食堂へと向かった。階段を下りて食堂に入ると

「おはようフィークス、悪いなあんまり起きないもんだから先にご飯食べ始めてたぜ」

「あぁ、大丈夫だよ」ここはバイキング形式で朝食をとるらしく、本当に様々な料理があった。任務の朝といえばパンとその土地の名物一品とかそのくらいだ。時々前日村の人なんかが差し入れた食材を作った料理もでるが、それにしたって違いすぎだ。とりあえず自分の食べられそうなものをとってフィークスはみんなの食事をしている場所に座った。

「なぁフィークス、ここなーんか居心地悪くないか?なんか平和ボケしてるんだよな、昨日の俺じゃないがほんとに旅行気分かって感じだ」隣になったハックが話しかけてきた。

「ああ、ずるいというか、心配になるというか」

「グリンヘックには、貴族みたいな身分の高い人たちのお気に入りの土地だからな。警備も王都並みに厳重だし、ここで働く騎士団や討伐隊は、そういうやつらのコネで配属されてる。俺は平民でこの町の生まれだが、お前たちと同じ部隊にいるだろ。要はそういうことさ。龍帝軍への対策の鈍さもさ。上層部なんかほぼ世襲制で行われてる。イノシシも七代目には豚になるなんて言うがあの諺は本当だな」

「モーガン副隊長もか?」

「そうさ、フィークス。あの人は多分自分の家を継げなかったからって話があるからな」ゲイルが散々悪態ついてると

「ゲイル、副隊長のことを悪く言うのはやめてくれ」いつもよりとげをはやさず言うライオット。彼は昔からモーガンに憧れてこの討伐隊に入った。確かに、考えが急なところは置いといてあの人の力はすさまじいものがあった。家のコネだってあるだろうが、跡を継いでない以上それがすべてではないだろう。ヤトラズナと戦った時のことを思い返してもそう思った。フィークスが料理をひとしきり食べ終わったところで

「「ごちそうさまでした」」と合わせていった。それからはいよいよ装備を整えて昨晩同様、龍帝軍の足取りの調査を始めた。

「まずは酒場に行ってみよう。セティが何かつかんでいるかもしれない」

「そうだな」そう言って酒場に向かってしばらく歩いていると

「キャアアア!!」前のほうから人の叫び声がした。人波をかき分けその場所に向かう。するとあるところでその波は途絶えた。いや、眼前には本当の波、それも恐ろしい魔物たちの波があった。

「皆さん下がって!」ライオットが住民たちに避難を呼びかける。

「フィークス、来るよ!」ルチェスが叫んだ。とびかかってくるゴブリンを斬りつけ倒す。幸いいるのは下級の魔物ばかり、だが、どいつらも気が立っていてモンスターのようだ。どいつもこいつも後先考えていない全力攻撃。下級とはいえ魔物は魔物、本気を出されればただでは済まない。しかも恐ろしいのはその数、こんな町中になぜ大量の魔物が、と

「うおっあぶね!」ゾンビの振り下ろされた腕がフィークスの横をかすめる。ほかの仲間たちも善戦しているが、このままでは時間の問題だ。町の騎士たちも駆け付けたが、どこか姿勢がなまっちょろくてなんだか頼りにならない。だが、引くわけになど行かない。この先に何かこいつらの元がいるはずだ。そうやってフィークスは仲間とどんどん前線を押し上げていった。がその時、「!?」倒した魔物の陰から弓を構えたスケルトンが現れた。とっさによけようとするが体が間に合わない。

「ぐあぁ!」直撃は避けたものの矢はフィークスの左腕をかすめた。

「フィークス!」ライオットが叫ぶ。まだだ、左腕ならまだ戦える。だが、すでに目の前にはゴブリンがとびかかってきていた。まずい、こんどこそやられる。そう思ったその時フィークスたちの戦っている背後からものすごい勢いで突進してくる何者かがいた。それはまるで突風のようにフィークスとゴブリンの前まで来ると

「うおおおおおおおお!!」と叫びながらそこまでの勢いをすべて込めてゴブリンに叩き込みはるか彼方へと弾き飛ばした。そんな風の主は

「臆病者の騎士は私くらいのものだと思ったが、この町のやつらもたいがいだな。騎士は守りを固め他の活路を開いてこそではないのか!」これまた聞き覚えのある声にフィークスは驚いた。

「ト、トーマスさん⁉」むこうもこちらの声を聴いて気付いたようで

「おお!フィークスさんではありませんか!こんな所で再開するとは、運がいいのか悪いのか」先ほどフィークスをかばった一撃はトーマスがシールドバッシュによるものだった。いや、あそこまでのものになるとシールドアッパーとかそんな名前が正しいのかもしれない。

「ゲギャアアア!!」と奥のほうからまだ魔物は続々と出てきていた。しかし次の瞬間、そんな数の暴力も立ち昇る光の柱によって消し飛ばされた。

「エルダさん!」

「お久しぶりですねフィークスさん。まぁその怪我、早いうちに直しておきましょう」駆けつけるや否やエルダはフィークスのみならず他の仲間にも聞くように回復魔法を放った。しかし、治癒をした後、ふらついてしまった。かばうフィークス

「大丈夫ですか?」

「あんなに強力な範囲魔法を二回も続けて打つなんて無茶です!エルダ様」前線で魔物をさばきながらトーマスが行った。

「とりあえず、壁際に行きましょう。ルチェス。手伝ってくれ」

「わかった。そのお姉さんを運ぶんだな」そう言って2人は壁際にエルダを運んだ。

「すみません。助けるつもりが、また私あなたに助けられてしまいました」

「いいえ、助かったのは俺のほうです。お二人が駆けつけてくれなければ私は深手を負っていた」

「ふふっ私でも少しは役に立てたのですね」ほほが緩むエルダ、すると

「兄ちゃん!」突然横の扉が開きフィークスたちはいきなり建物の中に入れられてしまった。

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