第12話 不穏
「あれ?セティじゃないか。こんなところまで買い物か?」久しぶりの再開にフィークスは駆け寄り声をかける。困った様子で少しだけ首をかしげていたセティだったが、フィークスの声に気づき、振り向いた。
「フィークス⁉久しぶりじゃない。えぇ、新しく開発している薬の調合素材を探しに来たんだけど、もうどこにも売ってなくて困ってたのよ」
「随分だな、向こうのほうからでも聞こえる声だったぞ?」そう言うとセティは
「えぇ‼私そんなに大きな声出してた?」と驚いたように話す。
「しーっ。声が大きい」フィークスが注意するとセティは赤くなった顔を帽子で隠すように手を挙げて
「うぅっ恥ずかしい」としゅんとしてしまった。舞を見ていた。ルチェスたちもフィークスに気づいて近づいてきた。
「ナンパとは珍しいじゃないかフィークス。そんなことどこで覚えたんだ?」茶化すハックにフィークスは説明する。
「いや、この人は俺が崖から落ちたあの後、治療をしてくれた人だよ」
「おぉ、例の薬師さんか。君のおかげでフィークスは助かったんだな。こんな場所だが礼を言うよ。ありがとう」
「い、いや私は魔法使いなんだけど、薬の調合は趣味と実益を兼ねた副業みたいなもので」
「実益兼ねてるなら薬師でもあってるじゃん」ハックが突っ込む。さっきからハックの調子が不思議といい。言い返されてしまったセティは話題を変えて
「ところで皆さんはどういった仲なんですの?」口調もちょっぴり変だ。
「俺たちはフィークスの討伐隊の同じ部隊さ」
「へぇ、じゃあ仕事なの。前から結構この街には素材の調達に来るんだけど。今日は街の中も外も騎士団やら討伐隊やらが、警備してて何があるんだろう、って思っての。あなたたちもそこに充てられたのね」
「まぁ、そんなとこだ。そこで少し聞きたいんだが、何か怪しいものとか怪しい奴は見なかったか?」セティなら大丈夫かもと思い、フィークスは少しだけ質問してみることにした。
「いいえ。そこまでは意識してなかったし、何よりもこの街本当に人が多いんですもの。探そうと思っても探しきれないわ。私事でなら、お目当ての素材がどこ探しても売ってないことね」
「そんなに貴重なものなのか?」ルチェスが質問した。
「あら、この子は獣人よね?」彼を見て驚くセティ。話を知っていたとしてもこうして自分の目で見たのは初めてのようだ。
「獣人も部隊にいるなんて、珍しいことよね。って話がそれちゃった。そこまでのものでもないわ。薬の効果を高められるもので、量を間違えるとかえって毒になっちゃったり、少なすぎても必要な効果にならないのよ」
「それだけで、人体に影響は?」とっさにライオットが聞く。有害なら、かなり危険だ。が、
「いいえ、それだけでは影響は少ないわ、それにこればっかり集めたところで元となる毒なんかの量が少なければ、必要な量以上の効果はあまりないはずよ。無限に高められるわけではないから」
「だからこそ逆に怪しいな」もし龍帝軍がセティのお目当ての品を買い占めていたのだとしたら、目的はわからないがよからぬことを思いついていそうだ。以前フィークスたちが戦った蜷局の洞窟の中にいたヤトラズナだが、龍帝軍が未知の方法でもってヤトラズナがあそこでも成長できるようにしていた可能性が高いと王国では判断された。彼らは今の魔法技術とは異なるちからをもっているらしいとなったのである。
フィークスは薬屋の店主に買い占められた薬草屋の店主に聞いてみることにした。
「あの、その買い占められた素材を買ってった人ってどんな風な人でしたか?」
「ん?魔法使いの服を着ていた男だったよ、顔は隠れていてよく見えなかったな」
「そうですか。ありがとうございます」どうも買い占めをしたという男の正体も怪しい、みんなのもとに行って話をすると
「ううん、怪しいは怪しいけど」
「魔法使いの中にはほかの魔法使いを警戒してフードをかぶって町にいる人もいるわ」
「それだけじゃ、証拠にはならねぇか。まぁ、仮にそいつが龍帝軍だとしても今どこにいるのかはわからないもんなぁ」
「いずれにしても情報が欲しいな」
「ねぇ、フィークス。あなたたちはここにしばらくいるのよね?」
「そうだな」
「私も何となく探してみるわ。街の人に話したりはしないようにするけれど、何かつかんだら、そうね。あそこの酒場に書置きを預けておくわ。セティさんからっていえばわかるはずだから」
「そんなことできるのか?」
「言ったでしょ?私それなりにこの街来てるの。行きつけのお店だってあるわ。それじゃあ、他の店も回ってくるね。まだ残ってるかもしれないし、また会ったらよろしく」
「あぁ、話してくれてありがとう」フィークスたちはセティを見送った後、ゲイルが戻ってくるまでの間に不審な人物はいないか、他に情報がないか騎士団に聞くなどして情報を集めようとした。そんな時、ルチェスと一緒に行動していたフィークスはとある騎士に呼び止められた。
「貴様、討伐隊のものだな。連れているそいつは、モンスターか?」
「俺は獣人だよ騎士さん」
「獣人?あのウィリスの森にいる種族のことか。そんな奴がなぜここにいる」騎士はルチェスに怪しむような冷たい目線を投げていた。
「彼は、アルル王国と獣人族との友好の一つとして、暫定的に討伐隊に参加しているものです。怪しいものなどではありません」フィークスは見下すようにする騎士に反論した。
「ふむ、そうかね。龍帝軍はモンスターを使役すると聞く、言いにくいのだが、その身なりでは勘違いされてしまうぞ、気を付けてくれたまえ」身勝手な物言いの騎士により強く出ようとした。その時
「失礼、このようなところで討伐隊と騎士団が小競り合いですか?そこにいる獣人は討伐隊に関する者だと言われたではありませんか。今はこんなことをしている場合ではありません。互いに互いの仕事を全うしましょう。では」ゲイルが間に入った。騎士の二言を聞く前にゲイルは二人を連れてさっさとそこから離れていった。
「人間もくだらないよな。自分たちを守るためなら、そのほかすべてを拒んでしまうんだから」だいぶ歩いた先でゲイルが口を開いた。少し頭の冷えたフィークスは
「ごめんね。勝手に俺が話しちゃって、つらいのはルチェスだったのに」ルチェスはそんなそんなフィークスに
「知っての通り、俺たち獣人族も人間のことを毛嫌いしていた。どちらも同じさ。自分たちと違うものを受け入れる事は誰にだって難しいんだ。けど、フィークスたちみたいに俺を認めてくれる人もいる。今はそれで十分さ。この状況を変えるために僕は村を出たんだからね」身長ではフィークスよりも低いはずのルチェスがすごく大人に見えた。あの騎士相手にむきになっていた自分が恥ずかしい。3人はもう一度広場に戻ってきた。しばらくするとライオットとハックが戻ってきた。
「何か手掛かりはあったか?」
「いいや。今日の収穫といえばフィークスを助けてくれた薬師ちゃんがかわいかったことくらいだ。はーあ俺がフィークスも助けて崖から落ちてたらなぁ、討伐隊に帰らずあの子と一緒に薬師やるぜ?ちくしょー」ぼやくハックにライオットは
「お前、みんなと別れてから酒飲んだだろ、」と突っ込んだ。
「なにぃ?酒なんか入ってなくたってかわいかったろ!お前そういうとっころデリカシーないぞ!」
「ぐぬぬ」
「あくまで、酒を飲んだことは否定しないんだな」
「!ぐ、ぐぬぬぬ」ゲイルの一言でハックまでも黙ってしまった。こうしてフィークスたちはグリンヘックにある討伐隊の宿舎へと帰っていった。が、
「フィークス!さっきから黙ってるけど一番はお前だからな?お前はあの子のことどう思ってるんだよ!フィィィィクス!!」
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