第9話 蜷局に潜む脅威

 植物型のモンスターはたくさんの蔦を部屋の中いっぱいに暴れまわらせる。しなる鞭のような動きと勢いからフィークスの剣ではたたき切るどころかこちらがへし折られかねない。と、そんな中で副隊長がモンスターの中央に向かっていった。もちろんそれを防ぐためにツタが襲い来る、がそれすら副隊長は切り裂いた。豪胆な斧さばきはさすが一騎当千と言われるだけのことはある。しかし、もう少しというところでその攻撃も防がれた。

「ぬぅ、こいつの子分か、親と違って独立して動いてこちらの邪魔をしているのか」圧倒的な硬度を誇る種の皮が攻撃をはじいたのだ。と、その後ろからゲイルが、矢に炎を着火させて放った。しかしその一矢は本体の蔦が防いだ。二つの防御手段を適したところで活用するコンビネーションにフィークスたちは苦戦を強いられた。そして本体のつぼみの部分が大きく膨らんでいった。誰の目から見てもこの後大技が来るという構えだ。

「みんな伏せろ!」ライオットが叫ぶ、そしてつぼみが一気に花開き、ぶわっと大量の花粉ーーというよりも毒の粉がまき散らされた。この閉所ではこの攻撃を避けることはできない、吸い込んですぐに体がぐらつく一気に体の力が抜けて苦しくなってゆく、ライオットたちはおろか副隊長はそれでも戦おうとするが、まともに動けていない、もはやここまでか、そう思ったとき

「兄ちゃん!」ルチェスの声が聞こえた。ルチェスは持っていた短刀をしまい、弓を展開した。そして持ってきていた袋を取り出した。弓に取り付けて発射する。袋は途中で開きこれまた不思議な粉末が広がった。すると、フィークスたちの体は一瞬で軽くなった。

「説明するのが遅れたな。こいつはヤトラズナ、といってもここまででかくなる奴は今まで、村の誰一人として見つからなかったんだ。さっきのはあいつの毒を打ち消す薬さ」

「あの蛇龍石の力で急成長したってわけか、確かにあいつの硬さ、普通のモンスターの比じゃないな」

「ゲイル!あいつの弱点はどこだ!」ライオットが迫りくる蔦を何とか弾いて言った。

「そうだな。あいつの弱点はあの中心の頭みたいな部分なんだろうけど、蔦やあそこの種個体を止めなきゃだし、ってん?」不意にゲイルにルチェスが何かを渡した。ライオットもそこの話に加わる。フィークスが副隊長とともに迫りくる攻撃をさばいていると後ろライオットとルチェスが二人に加勢する。

「みんな!あいつの蔦に集中するんだ!副隊長はあのモンスターの中心部をお願いします!」

「わかったぞ!若き部隊長よ!」こうしてフィークスたちはヤトラズナへと特攻を仕掛けた。もちろんヤトラズナも応戦する。蔦や種たちがおそいかかってきた。が、種のほうはフィークスたちの背後からの攻撃で壁に貼り付けられた。

「ふうん、これが獣人族の調合術か、ネンチャク花の特性をここまで活かす方法があったとは、まだまだ、俺も勉強不足だな」撃った本人のゲイルは、早速調合の種について考え始めた。もう価値を悟っている振る舞いだ。そんなことも知らないフィークスたちはそれぞれの役目を果たし、ヤトラズナを追い詰めていった。蔦での攻撃も種たちによる援護もなくなったヤトラズナの前に副隊長の斧が迫る。先ほどの攻撃をもう一度しようとするも再びためるには時間がなかった。王国随一の実力を誇る副隊長の渾身の一撃は万全の体調ではなかったとしても十分すぎる威力だった。最後にヤトラズナはすさまじい断末魔を挙げ、その後息絶えた。

 「な、なんとか助かったのか」ライオットが言う。副隊長は部屋にある蛇龍石をとってきた。洞窟を紅く染め上げるほどの輝きを放つ石は、間近で見ると禍々しい気配がした。触れてみると普通の石とは違う不思議な感覚がした、だが、その感覚を言葉には表せなかった。次第に意識が遠のいてくる。

「フィークス?フィークス‼」ライオットの声を聴いたのち、フィークス

は気を失った。

 「う、うーん」いつの日と同じ声でフィークスが目を覚ます。

「おおフィークス!起きたか!」そばにいたライオットが嬉しそうに言った。部屋に入ってきたゲイルもフィークスを見ると少し笑って

「やっと起きたのか、フィークス」と小さく言った。

「帰ってきたのか?蛇龍石は?ハックはどうした?」

「そう焦るなよ。お前だって大変だったんだぜ?蛇龍石に触れたとたん急に倒れたんだ。ほんとに心配したぞ」

「そうだったのか、悪いな」体自体はなんてことなかった。が、時間的にはなかなか経っているようで部屋には朝の陽光が差し込んでいる。うっそうとした森の中でも開けた村ならさんさんとした太陽を浴びられる。外に出てそんな太陽を目いっぱい浴びていると村長の家のほうから副隊長が帰ってきた。副隊長はフィークスの姿を見ると小走りで戻ってきた。

「よかった。もう大丈夫なのか。あの時はいったいどうしたんだ?」

「いえ、閉所の戦闘で息が苦しくなったのだと思います。」

「ふむ、そうなのか?ひとまずは何ともなさそうでよかったよ」

「すみません、変な心配を、」フィークスはライオットたちにも副隊長にもあの時に感じた感覚の子とは話さなかった。触れた時よりもその感覚がわかるようにはなったものの、その感覚が、遠いような近いようなやはり普通の感覚とは違う何かだったからだ。話してもうまく説明する自信がフィークスにはなかった。

「何もなければそれでよかった。ライオット君たちが蛇龍石を私に行きたいそうだ。君も一緒にね」

「そうだったんですか」

「もう少ししたら行くのだろう。私も部屋に戻って帰る準備をしよう」

部屋に戻ってフィークスも準備を済ませ、石を渡してハックを開放してもらいに村長の家へと向かった。

 「まさか、ヤトラズナが洞窟の中にいたとは、おかしなものじゃ、異常成長して強化されていたであろう奴をよくぞ倒してくれた。村を代表して礼をしよう。さて、こうして村の危機を人間であるおぬしらが救ってくれた。人質は解放しよう。それに、我々の人間たちに対する態度も変えねばなるまい」

「そんな、こうして人間と獣人族の友好が進展したこと、非常にうれしく思います」

「しかし、ヤトラズナの攻撃から私たちを救ったのはルチェス君です」ゲイルが村長に言った。

「そうじゃったな。そのことも踏まえてなのだが、ルチェスをおぬしらの仲間に加えてはもらえぬか?こいつはわしらよりも人間について知りたいと昔から言っておった。これも、わしらのこれからのため、こちらからもお願いしたい」

「副隊長、どうしましょうか」

「...討伐隊は入団試験もある、いくら種族間の関係の兼ね合いがあっても特例として認めては逆に混乱を招いてしまう」副隊長はしばらく考えて、

「隊への正式な入隊自体は、今すぐにとはできません。しかし、かられの部隊の援護という形で参加してもらえばこちらでも対処させていただきます」

「おおそうか、ではそのように頼む。さて、おぬしたちは人間たちの町のブレイミーに行くのだろう。見送りをしよう。森を出る案内はルチェスに任せる」こうして獣人たちの見送りを受け、フィークスは開放してもらったハック、そしてルチェスと共にブレイミーへと戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る