第8話 解放の試練

 ウィリスの森でゲイルが見つけた道を進んで行くとそこには、獣人たちの住む村があった。といってもそこまでの道中もかなり入り組んでおり、ここに来るまでにかなりの時間がかかってしまった。いきなり出ていくわけにもいかず、一行は村の様子を見ることに。すると、先ほどフィークスたちを攻撃したとみられる獣人たちが、中央の小屋から出てきた。

「こいつが、例のやつに関係してるのか?」

「わからん、最近は森も人間も動きが妙だ。が、こいつは俺たちの領域に入っていた。一時的に捕獲したのち、身代金として貴重なものを人間からとれる」

(こいつら、ハックを利用して)

「どうしますか、このままじゃ、獣人との関係一層悪くなっちゃいますよ」

「わ、わしに言われても困る」副隊長も困ってしまっていた。そんな時4人の背後から軽い足音とともに

「人間さんたち、こんなところにいたんだ」そんな声がした。

「誰だ!」振り返るとそこには奥で話している獣人たちより一回り小さい獣人がいた。

「落ち着いてくれ、僕は君たちを仲間に売ろうとは思っていない。むしろ僕は取引をしたいと思っているんだ」

「なんだって?」

「僕が仲間たちに話して、あのつかまってる人を解放してあげる。その代わり、その後は僕を君たちの仲間に入れてほしいんだ」

「なんだって⁉」思わず同じことを二回繰り返してしまう一同、

「あ、でも多分試練みたいなものはあると思うよ。ただじゃ返してくれないらしいから、けど、この話を聞かないなら僕のほうからも何もしてあげない」

「君は一体、」

「そんなこと後でいいじゃない。それでどうするの?この話、受ける?」

「噓はないのだな?それに我々の仲間になりたいというのも」

「うん」ライオットが副隊長に

「すみません。この話、私たちの大切な仲間なのです」

「何、仕方ないさ」

「話は決まったね。それじゃあ僕は話をつけてくるからまた少し待っててね」そう言ってその少年は村のほうへと走っていった。彼が帰ってくるまでフィークスたちは獣人族に関して話し合っていた。

「そういえば、獣人族は人間に対してあまり友好的なイメージがないですよね。何か歴史的な経緯があるんですか?」ゲイルが続ける

「歴史書にもそんな話はなかった。人間側がいいように改ざんしているのかもしれないけど話を聞くことのほうが少ない」このことに関して副隊長が口を開いた

「獣人に関してはどうも昔から住んでいた種族というわけではないようなのだ。ある時期から突然ウィリスの森にすみ始めたと聞く。友好的ではないのは彼らの風習の部分で人間を嫌っているのではないかという考えが有力だ。今こうして我々が接触していることも実はかなりレアなケースなのだ」

 この後、フィークスたちは、一度武器などを預けたのち、この村の長の住む場所へと通された。村の中で見てきた獣人たちと比べてもかなり老いた風貌に低い背丈ながら長いひげを垂らした立派な雰囲気のある老人、否老獣人であった。副隊長がまず初めに

「皆様の村域に無断で立ち入ってしまい誠に申し訳ない。私はアルル王国討伐隊副隊長モーガンと申します」それに続けてフィークスたちも名乗った。

「なるほど、ワシはこのマノウォー村の長、パモアじゃ。今回はわしの孫であるルチェスが、人間に興味を持っておってな。おぬしらの力を見極めたく、これよりわしの依頼を達成してほしいのじゃ。もちろん達成すれば今捕らえているものは解放しよう。どうじゃ?」フィークスたちは迷わず

「その依頼、受けさせてください」と言った。パモアはその内容の説明をした。

「この森のさらに奥に洞窟がある。わしらは蜷局の洞窟と呼んでいるのじゃが、中にはすさまじい強さのモンスターが住み着いてしまってなそいつのせいで近々の儀式ができないかもしれんのじゃ。おぬしらにはそのモンスターの討伐を願いたい。それが条件じゃ」

「わかりました」

「儀式の道具と案内にはルチェスを行かせよう。それでは、よろしく頼むぞ」

こうしてフィークスたちは、森の奥にあるとされる蜷局の洞窟へと向かうことになった。その道中、フィークスはルチェスと話をした。

「ねぇ、君はどうして人間に興味があるの?」

「そうだな、僕たち獣人族は、人間を嫌っている。でも何か大きな出来事があって距離を置いてるわけじゃないんだ。どうしてそんなに人間を嫌うのか、なんとなくじゃなくて自分で確かめてみたいんだ」

「なるほどな」

「あと君、僕を年下だと思ってるでしょ、獣人って人間よりも寿命が長いんだ。あんまり子ども扱いしないでほしいな」と言われてしまった。それでも兄ちゃんと呼んでくれているのはなんだかおもしろいなと思った。

そうして一行は森の中でも特に光の当たらない、くらい大きな洞窟についた。間近に来てしまえばわからないが、その洞窟の入り口はまるで蛇の口を開けたようだった。こうなると中の形状も何となく想像してしまうが、それより不思議なのは

「ここが蜷局の洞窟か、」ライオットが呟いた。フィークスたちは洞窟の中へと進んでいった。洞窟の中は赤く光る鉱物が壁に埋まっていた。それがまるで生き物の血肉のように見えてなんだか生々しい。あたりに生えている植物類はまるで血管のようだ。

「獣人族はこの洞窟で一体、どんな儀式をするんだ?」副隊長がルチェスに聞いた。

「この世界に流れる魔法の源、属性エネルギー。人と違って俺たちはこのエネルギーを必要としているんだ。けど、エネルギーは時期によって量が変わるんだ。そしてここの赤い石、人間たちの間では蛇龍石っていうんだっけ?それにエネルギーをためておくんだよ。だが、そのエネルギーを狙ったモンスターが現れたってわけだ。まぁ、最悪蛇龍石を持ってくれば村長の家で儀式をすることもできる」

「つまりは蛇龍石の回収でもなんとかなると」その後さらに奥へと進んでいくと光がひときわ強い広い場所に出てきた。その中央には赤い光の光源であるオーブが安置されていた。

「あれが、蛇龍石」神々しい、というよりはどこかまがまがしい、邪悪な雰囲気をもったオーブだった。

「これを持って帰ればいいのか?どうやら噂のモンスターはお留守のようだな」そう言ってフィークスがオーブを取ろうとしたその時、洞窟の中がぐらぐらと揺れ始めた。壁に張り付いていた植物も動き出す。

「まさか、この植物自体がモンスターの体だったのか!」そうして起き上がった植物の球根はその花びらのような口をガバァと開く。そして、これまた見た目からは想像もつかない、甲高い絶叫をあげる。フィークスたちはあまりの音量に思わず耳をふさいだ。しかし、そうしているばかりではいられない。

「どうせ、こいつを倒さなきゃ医師はここには返せないんだ。こいつには悪いけど倒させてもらうぜ!」ルチェスの一声でフィークスたちは戦闘に入る。

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