第7話 獣人の森

 アルル王国の中でも屈指のおおきさを誇る森林。それがここ、ウィリスの森だ。そこかしこに雑草のごとく生えている植物も、中には貴重な効能を持った薬草なんてこともある。そんな草たちを見てゲイルは、宿舎の時の態度とは打って変わってかなりの上機嫌だった。

「お前、やっぱり薬草とか好きだよな」ハックが言うとゲイルは

「まあな。昔からこういうのを集めるのは好きだったんだ。うまくいったらお前らに使ってやるよ」

「さすがゲイル。都会育ちなのにいい趣味してる」

「それは余計だ」ゲイルは、王国ではブレイミーに次ぐ大都市、グリンヘックの出身で、この4人の中ではもっとも裕福な暮らしをしていた。それでもこうしてフィークスたちと一緒に討伐隊にいることが、すこしだけフィークスには不思議だった。そんな薬草学に詳しいゲイルとみんなの話を聞いてフィークスはセティとここまでで出会った仲間たちのことを考えていた。

「ここの薬草ってどんな効果があるんだ?」

「ん?これはモンスターの麻痺なんかに効果のある薬草だな。それに向こうのちょっと枯れてるようなやつは土属性のモンスターの角なんかと合わせて調合すると魔法による一時的な石化なら解除できるような薬になるんだ。昔はそんな厄介なモンスターもいたみたいだが、今のアルル王国のどこへ行ってもそんなモンスターはいないらしい」

「珍しいな。フィークスがそんなこと聞くなんて」

「いや、戻ってくるまでに助けてもらった人も薬草の調合をしてたんだ。その人がいなかったらそれこそ今ここに俺はいないよ」そうして話していると、

「君たち討伐隊だろう?こんなところで何しているんだ!」森の奥からそんな大声が聞こえてきた。現れたのはフィークスたちと同じ討伐隊の装備を着た壮年の男。しかし、同じ装備といっても装飾はかなり凝っており、同じ階級はおろか自分たちよりもかなり上だ。いや、この人どこかで

「モーガン副隊長⁉すみません!しかしなぜここに?」ライオットが真っ先に反応した。三人はぱっとは思い出せなかった(というか今まであったことはないはずである。逆にライオットが知ってるのが不思議なくらいだ)のでこれには助かった。しかし、装備はまともとはいえ、それに付着している草木や泥は二、三日の任務のそれとは思えなかった。

「むぅ、少し前にこことは別の場所で任務の指揮にあたっていた時に突然モンスターの襲撃を受けてな。私も戦ったが、まるで歯が立たず、おまけに吹き飛ばされてこのざまさ。この森を通ったのが、運の尽きだったな。

まるでどこだか分らん」

「そりゃあこんな大森林じゃあな」

「とにかく一休みしましょう。携帯食料もあるのでまずはそれを食べてください」突如現れたモーガン副隊長のためフィークスたちは一度、休憩のためにテントを張ることにした。

 「何⁉君もモンスターに一度やられかけたのか、それでもこうして生きて帰ってきてくれて、そしてまだ討伐隊の仕事を続けてくれるとは、危険なことはわかっているが、同業として、そして君の、君たちの上の立場として本当に感謝する。君たちがいなければ私は今もこの森をさまよい続けていたのかもしれないからな」

「そんな、ありがとうございます」

「しかし、モーガン副隊長を吹き飛ばすなんていったいどんなモンスターだったんです?」

「ああ、見たこともないモンスターだった。能力からも風属性だということは想像できるのだが、見た目が、およそこの国の生物の風体ではなかった」

「フィークスを襲ったモンスターも教本のイラストでも見たことなかった。ほかの国の本はうろ覚えだが、そこでも見た記憶がない」ゲイルがそう言った。

「いったいこの国で何が起きているのだ。そうだ、君たちはまだ任務の最中なのだろう?良ければ私も同行してもいいかね?」

これにはライオットのみならず全員が驚いた。

「そんな!モーガン副隊長が僕たちと一緒に?」ハックも質問してしまう。

「せっかくの機会だ。私も久しぶりに前線で積極的に戦ってみたいのだ。ここの指揮役はだれかね?」ライオットが恐る恐る手を挙げ、

「わ、私です」モーガン副隊長はにこりと笑って

「おお、そうかそうか。それじゃあ頼んだぞ」

「そんな、恐れ多いです」

「そんなこと言っていてどうする!これからも仕事していけば、年上の隊員や、自分よりも上のものに指揮する機会も増えていく、これもいい経験だ」そんなこと言われてもライオットの緊張は取れてはいなさそうだった。その後、フィークスたちは眠りにつき、しばしの休憩をとった。

 朝になり、支度を済ませた一同はいよいよ任務に戻った。相変わらずうっそうとした森ではほとんど日が差し込んでいない。そんな中でもさすがは熟練の討伐隊員、副隊長の体内時計の正確さには驚かされた。

「副隊長の指揮されていた部隊は大丈夫でしょうか」

「私と同時に彼らも攻撃で吹き飛ばされてしまったよ。執拗に追い掛け回されていなければ何とかなっているだろう。それに彼らも討伐隊の精鋭だ。簡単にやられはしない。それに、私よりも彼らは方向感覚がいいからな。ここだけの話だが、私は方向音痴でな。ゆえにこんな森のほうに来てしまったというわけだ」副隊長にも弱点があったのかと思うフィークス。

さすがのハックも副隊長のことはいじらないようだ。いつも仲間のちょっかいを出しているくせにこういったときはきちんとするのか、ちょっとからかってやろう。そう思い隊の後ろにいるハックのほうを振り向く。が、そこにはハックの姿がない。

「ハック?」そう言った時、前にいたゲイルが何かの気配に気づく。

「伏せろ!」次の瞬間彼らの樹上を矢がかすめた。

「なっまさか獣人か!私としたことが、油断していた!」副隊長も臨戦態勢だ。フィークスも周りを見ると奥の木の枝の上に弓をもった人影が見えた。(あいつが狙ってきたのか!)

「あ!待て!」ライオットが走り出した。

「あれはハック君!あいつらが仕掛けていたわなに引っかかっていたのか!」4人は連れていかれるハックを追いかけた。が、人ひとり運びながら森の木々を身軽に跳躍していく獣人に追いつけるはずもなく、やがて森の奥へと見失ってしまった。

「この先は森の中心部だ。奴らの拠点はそこにある」

「奴ら、我々とは気づつけ合わないとしていたのに、明らかに退陣用の罠を張っていた。昨日、我々がキャンプしていたところを見つけたのか」

「こっちの道なら木に邪魔されにくそうだ。こっちから行こう」ゲイルがいち早く道を見つけた。フィークスたちはハックを取り戻すためウィリスの森の深部にあるとされる獣人族の村を目指して進んでいった。

 一方、檻のような中に入れられたハック。その前には一人の獣人が立っていた

「いったいなんだよ!こんな野蛮なことするような奴らだったのか!お前らは!」珍しくハックが叫ぶと獣人は

「悪いな。俺は逆にお前たち人間のことがわからない。だから知りたいんんだ。人間のことを、こんなことをして悪かったと思ってる。でも許してくれ」

「許せるわけないだろ!って負いどこ行くんだ!戻ってこい!」不思議なことを言っていた獣人はハックのもとを去っていった。

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