第6話 新たな任務

 ブレイミーへと帰る途中、フィークスは自分のいなくなった後のことについて聞いてみた。

「結局、その後の任務はどうなったんだ?」

「お前と一緒にモンスターも落ちていったんだ。お前が落ちていったとき、空から不思議な光が落ちていったんだ。そしてそれが谷のところで光ってな。あれは今でもわからずじまいさ。それで、昨日もあれだけ動けたってことは傷もそこまで深いものじゃなかったのか?」

「セティの薬のおかげでな。今ではすっかりこの通りさ。しかし、あそこから落ちたのに生きていただけでも信じられない」

「もしかしたら、俺が見た不思議な光がお前のことを助けてくれたのかもな」しばらく話しているとブレイミーの城門が見えてきた。さすがは王都、ヒルミやラスフィとは違い城門もかなり重厚に作られている。門番に通してもらい町の中に入る。馬車の泊る所で降りてそこからは討伐隊の本部へと赴いた。フィークスは期間報告などもろもろの手続きを済ませて、ライオットのところに戻った。

「あらかたこんなくらいかな」

「期待していたわけじゃないが、別にだれも驚いた風もないな」

「まだ入りたてのルーキーの自己なんて山ほどあるからな。もう少し階級が上ならもっと驚かれただろうさ」

「けど、俺にとってもあいつらにとってもお前が生きててくれたのは一大事だよ。命がけの仕事なんだ。命捨てるような仕事とは違う。それで、お前の今後については何かあったか?」

「また、みんなと同じ部隊に入れたよ。ゲイルとハックにも連絡が行くみたい。任務が出るのは4人そろってからだろうな」

「そうか、それならよかった。俺はいったん宿舎に帰るよ。お前はおばさんのところに帰るんだろ?行方不明って言われてすごい心配してたぞ」

「ああ、そうするよ。ライオット、ここまでありがとうな」

「おう、また会おうぜ」そう言って二人はそれぞれの帰路に就いた。

町の中央から少し離れた路地の先にある小さな宿屋。名前も見た目そのものな「三角屋根のユン」ここが、フィークスが済ませてもらっている家だった。フィークスはもう10年以上ここで暮らしている。そんな宿屋の扉をギィと開く。

「いらっしゃいませぇ」と聞きなれた声がする。部屋の奥から出てきた女性はこちらを見るなり驚いて

「フィークス!帰ってきたのかい⁉任務の時に行方不明になってそのまま、本当にフィークスなのかい?」

「うん。ただいまロミラおばさん」そういうとロミラはフィークスに駆け寄りぎゅっと抱きしめた。

「おかえり。よく帰ってきてくれたね」そうかみしめるように言った。

「怪我とかはないのかい?ユインのがけなんてまたとんでもないところから落ちたのに、」

「いろんな人に助けてもらったんだ。こうしておばさんのところに帰ってこられたのもその人たちのおかげさ」

「こうしちゃいられない。今日はごちそうだ。美味しいものいっぱい食べさせてあげるからねあなたの好きなステーキも用意するよ」フィークスは「ほんと⁉ありがとう」と満面の笑みを見せた。

もとから借りていた部屋でしばらくの間時間をつぶしていると階下から

「ご飯できたよー」と声がした。降りていくとそれはそれはたくさんの料理がテーブルには並べられていた。

「最近は、不安で宿、あんまりやってなかったんだけど、こうしてあんたが帰ってきてくれたんだ。腕はなまっちゃいないと思うけどね。ささ、一緒に食べよう」こうして二人は久しぶりの食事を楽しんだ。ロミラの料理の腕は落ちてなんていなかった。懐かしさからだろうか、それとも無事に帰ってこられたという安堵感からだろうか。今までよりもおいしく感じた。

「それで?あんたこれからどうするんだい?まさかまだ討伐隊で働こうなんて思ってないだろうね」ドキッとした。自分はてっきりまた戻って仕事を続けようと考えていたからだ。けどフィークスはそんなくらいでこの仕事をやめようとは思っていなかった。

「うん。まだ仕事続けようと思う」そういうとロミラは

「あなた、自分がどんな目に合ったか覚えてるの?これ以上、初めての任務でそんな危険なところに行かせるような組織、国がやってるとはいえ」

そう言った途中で口を止めた。そして、悲しそうにため息をついてから

「そうだった、あんたはずっとそのために頑張ってきたんだもんね。私はあんたの親じゃない。けど私はあんたの育ての親なんだ。今度はもう少し安全な任務に就かせてもらえるようにしてほしいものだけどね」

それからしばらくはロミラの宿屋を手伝いをして過ごした。最初のうちは客足も少なかったが、もとからそれなりに繫盛していたため、再開したといううわさが流れてからは段々とお客さんが増えていった。そんなある日、宿屋にライオットが訪れた。

「フィークス、二人とも戻ってきたぞ。それに次の任務の場所も決まった。今度の場所はウィリスの森だそうだ」これを聞くとロミラは

「そうかい、ついにきちまったんだね。頼むから無理だけはしないでおくれよ」

「わかったよ」

「支度が済んだら、一度討伐隊の宿舎に集まろう」

フィークスは支度を済ませて、討伐隊宿舎へと向かった。

「おいお前ら!フィークスが帰ってきたぞ」扉を開けると

「おお!フィークスよかった!本当に生きててよかったよ!」そう言ってフィークスに駆け寄ってくる隊員が一人

「おぉ、帰ってきたか」そう言って淡々と任務の準備をする隊員が一人。

「ハックにゲイル。ただいま。あれ?ゴウテムさんは?」

「ああ、お前が行方不明になってからやめていったよ。まぁ仕方ないさ、あれだけ俺たちに命令しておいて最後にはそのうちの一人であるお前に助けられたんだから。部隊としても俺たちと明らかに空気感が違ったしな」

「そうそう、フィークスも戻ってきてくれたし、結果的にはプラスってもんさ」

「そんな風に言わなくたっていいじゃないか」と口では言ったが、自分でもこれに関してはその通りだと何となく思っていた。

「それで、ライオット。今回の任務の内容は?」

「あぁ、ウィリスの森のモンスターが少し狂暴になってるらしくてな。それで元々いた駐屯部隊でも追いつかない部分の調査をするんだってさ」

「ウィリスの森ねぇ、確か獣人族が住んでるんだっけ?あの人たちに関してあんまりいい噂効いたことないけどな」

「まぁ、そのことに関しては向こうが人間嫌いの部分が強いだろう。刺激さえしなければ大丈夫なはずだ。出発は明日だ。フィークスも帰ってきたし、気を取り直して今度こそ同期組での初任務成功させるぞ!」

「「おおー!」」

「ってゲイルもやれよ」ゲイルは三人の様子を見て

「はぁ、その同期組っていうんなら俺がそういうの苦手って気づけよ」

「なにおーう。お前なんて訓練時代の悪ノリと言ったら俺らの中で一番だったぞ?例えば、受付嬢さんに」

「あああ!それは忘れようとしてたんだ!それにハック!そもそもお前がそそのかしたんだろ!」

「えーどうだったかなー?」

そうして久々に集まった四人はふざけあい、明日への英気を養った。

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