第3話 乱入

 ダウェザム山の坑道を進んでいった先、少しだけ開けた場所で拘束された一人の修道女と二人の男がいた。

「やめてください!あなたたちの目的は何ですか⁉」その修道女、エルダは男二人に叫んだ。すると男のうちの一人が答える。坑道のためその顔はよく見ることはできなかったがその男は

「別に名乗るほどのものじゃねえよ。あんたをここに連れてきたのはまぁ、時間稼ぎみたいなもんさ。せいぜいあの騎士のおっさんが助けに来てくれるかどうか待ってることだな」そう返した。

すると、連れてこられたほうの道から別の男の声がした。

「おいアッジ、向こうから声が聞こえる。そろそろ来たみたいだぜほかの声も聞こえたな。あの話してた討伐隊と魔法使いも一緒か」

「そうか、よかったな。あんたを助けに騎士のおっさん来てくれたみたいだぜ」

(トーマスさん、やはり助けに、昨日のお二人も一緒みたいだから何とかここにはこれそうだけど)

 レギドを倒した三人は、その後も行動の先へと進んでいった。そして、「お前たちがエルダさんを!」

「あなたたちいったい何者なの⁉」セティが聞くと男たちは

「そんなことこと聞くより修道女さんを助けなくてもいいのか?」そんな挑発にトーマスは

「うおおお!貴様ら‼エルダ様を離せ!」こう言っていきなり男二人に向かって突進していく。しかし、身軽な男たちはその突進をいともたやすくかわしてしまう。その後は坑道の岩壁に勢い良くぶつかる。ごろごろと洞窟内が揺れる。それを見てフィークスとセティも加勢する。が、相手は人間である。モンスターのように全力で行くわけにはいかない。それに先ほどの突進のように洞窟内で大暴れしては落盤なんてことも考えられる。あくまで目的はエルダの救出のための鎮圧だということだ。フィークスは切りつけるというよりも彼らの持つ武器を弾き飛ばすような戦いをした。セティも魔法を加減している。一方、男二人はそれよりも有利である。そもそも武器が短刀のためこういった閉所では間合いを離せない相手に一瞬で切りつけられる。こちらも人であるとはいえ、彼らがどこまで命を大切にみているかわからない以上致命傷を入れられるようなことだけは避けなければならない。故にフィークスたちはどちらかというと防戦を強いられていた。フィークスたちを苦しめるのは彼らだけではない。暴走したトーマスもまた、彼らの邪魔になっていた。例えフィークスやセティが男たちと戦っている時でもトーマスがお構いなしに突っ込んできてしまう。幾度かあったチャンスはこれでなくなってしまっていた。

「トーマスさん!落ち着いて!」セティが声をかけても一向に聞く気配はない。それに坑道の内部に何度も当たっている。生き埋めだけは何としても避けたいところだがと思っていた時、エルダがトーマスに叫んだ。

「トーマスさん!もうやめてください!そんな罪滅ぼしのような戦い方は、それにあれはあなたのせいじゃない!」そう叫んだ声を聴いたのかトーマスは突進をやめた。「私は一体、」正気に戻ったようである。フィークスとセティはそこに駆け寄る。

「頼みます!トーマスさん。彼らを止めるために必要なのは安定した守りです。この閉所、連続攻撃にさらに磨きをかけることはできる。しかし、ここでは短刀のようなものを使う際の自在に間合いを取ることはできない。落ち着いて前線を上げていけば追いつめられるはずです!」

「しかし、私は今まで一体何を」

「話はあとで!行きますよ!」

そこからの三人の戦いはがらりと変わった。トーマスの大盾による鉄壁の防御に男たちの攻撃は届かず、こちらがだんだんと押していった。そしてエルダの拘束を狙えるところに来たところで

「今ですフィークスさん!」

「ああ!」トーマスのガードのところから抜け出し、一瞬のうちに拘束を解く。

「あ、ありがとうございます」

「大丈夫だ。それよりけがは?」

「いえ、特に傷つけられるようなことはされませんでしたので、校則によるもの以外にはありません」

「そうか。本当に良かった」エルダが助かったのを見てセティが男たちに話す。

「さぁ、もう人質は解放したわよ。もうあきらめなさい」

すると一人の男が「そうかいそうかい。別にいいんだ。連れてくときに死んじまったっていえば」

「どういうことだ!」フィークスが言うと

「ほら聞こえないか?あんたらが大暴れしたから起きちまったみたいだぜ」すると坑道の壁のほうからものすごい音がしてきた。すさまじい速度で地中を進んでいく音は次第に大きくなっていき、ついに間近にやってきたとき、ボガアアアアン!とすさまじい音と土煙を挙げて壁から何かが現れた。ここに来るまでに倒してきたレギドを巨大化させたような外見、しかし、その鱗はすでに頑丈そうな岩石によって覆われている。彼こそが、レギドの成長した姿、レギドラグスであった。グオォと唸るレギドラグスに思わずおののく一同に対し、落ち着いたような男たちは

「じゃあな、生き残られてあいつに見られでもしたら厄介だ。せいぜいここで死んでくれよな」そういってダウェザム山を抜けられる方の道へそそくさと去って行ってしまった。残ったのはフィークスたちだけ、もはや戦いは避けられなかった。レギドラグスは鉱物食だ。人間を食べるようなモンスターではない、しかし、より良い鉱物を得るために縄張り意識が強く、自分の邪魔をするようなものは断じて許さないだろう。残念だが戦いは避けられない。

「来るぞみんな!!」

レギドラグスの甲殻は岩石であり、フィークスの剣はおろかトーマスの槍ですら貫くことは不可能である。とはいえ、全身が岩だらけというわけではない。

(あのお腹に攻撃を叩き込めれば、多少は効くか、)そう考えていると、

「フィークス様!危ない!」トーマスにどんと押し飛ばされる。その後、トーマスをレギドラグスの剛腕が襲った。盾でガードしていたとはいえ、大岩が飛んでくるのと同じ衝撃を受け止めるのは厳しく、フィークスよりも奥へと吹き飛ばされてしまった。そのまま壁にぶつかるかなりの衝撃だ。流石にこれ以上は難しいかと思われたところ、トーマスを優しい光が包んだ。

「大丈夫ですか!」

「ええ、エルダ様ありがとうございます。ですがよろしいのでしょうか。先程まで」そういうトーマスに対してエルダは

「大丈夫ですよ。それよりも今はこの状態を脱しなくては」

一方、フィークスとセティは、必死の抵抗を見せていた。フィークスがレギドラグスの周りをまわりかく乱している間にセティが魔法を何とか当てようとする。しかし、このタイミングが難しい。体にあたっても岩に炎では分が悪い。そうこうしているうちに、レギドラグスの注意がセティに向かってしまった。トーマスですら吹き飛ばした攻撃をセティが食らってしまってはひとたまりもない。

「ダメだセティ!逃げろ!」


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