第2話 修道院と騎士

ヒルミに到着したフィークスたちはすぐに修道院へと向かった。もともと修道院があったことで大きくなった町のこともあってその建物の周りを囲うように町ができている。修道院に入ると、ちょうど修道士さんが祈禱をしているところだった。この国、アルル王国で信じられているのは「主神讃唱」というもの。主神ルガールと創世神話から成り立つもので世界中でも信じる地域は多いらしい。

「エルダ様、申し訳ありません!この子が町の外で魔物に襲われ、けがをしてしまいました!どうかお力を」トーマスが修道士を呼ぶ。ちょうど祈禱も終わったところであったためすぐに反応した。いや、そうでなくとも止めてくれるのだろうが。

「まぁなんてこと、待っていてください。今治療を、さぁその子をこちらに」その後は修道女---エルダの白魔法によって男の子のけがはみるみるうちに治っていった。治療の途中で男の子の母親も迎えにやってきた。一通り治った後に親子はセティからほかの薬も買って帰っていった。その後は修道女によるトーマスへの説教が始まった。フィークスたちはそこに残りその話を聞いていたのだが、

「トーマスさん!また勝手に一人で飛び出したそうですね!魔法使いさんとそこの方がいなければ、あの子はおろか、トーマスさんだって危なかったのですよ?」

「申し訳ないです、エルダ様。しかし、そういった話を聞いたらやはり自然と体が動いてしまって、」

「まだあの時のことを言っているのですか?もうトーマスさんも昔ほど無理できないんですから、自分の体もいたわってください」そういわれてトーマスは「はい、そうします」誤ってその場を去っていった。フィークスたちも今日は町の宿屋に泊まることにした。そんな動向を陰から見ていたものが二人

「あれが、あの大男が言ってた修道女か」

「ああ、計画の実行は明日だ。いったん引くぞ」

「そういえば相棒、あれは持ってきたか。

「ああ、当然だ。じゃないと計画が台無しだ。こいつであの間抜けに一泡吹かせてやる」そんなことを言って去っていった。

 宿屋のベッドでしばらく横になっていたフィークス。珍しく考えごとをしていた。ひさしぶりに魔物と戦った。相手自体は訓練時代に習った相手のため倒すことができたが、もしあれがこの前の...自分と崖から落ちたモンスターであればどうなっていたかわからない。あれは、自分の一人勝ちだった。戦い方もわからないくせに仲間とモンスターの間に入って、案の定押されていたところを幸運にもがけが崩れてその上自分だけが助かったのだ。あんなものは勝利でもなんでもなかった。今すぐあいつと再びまみえることになれば、自分は間違いなく殺されるだろう。そのためにももっと強くならねば、討伐隊に戻ったら再度訓練に励もう。それに座学も、セティに言われたのもあるがちょっとした知識一つでモンスターとの戦いの有利不利は大きく変わる。仲間たちは蘇ったのかなんて言うのだろうか。あの日から、もう二度と自分のように悲しむ人がいなくなるように討伐隊に入った。せっかく助かったこの命、今度こそ誰も悲しませないために使おう。改めてそう思い、フィークスは眠りについた。

 次の日、宿屋の支払いを済ませて外に出たフィークスはセティと話していた。

「じゃあ、あなたは王都に戻るんだっけ。ここから北側の道に行けばつくはずよ。」

「ああ。これまで本当にありがとう。また会えたらその時はよろしく。」

そう言って二人が別れようとしたとき、修道院の方から何やら走ってくる人影が見えた。のしのしと聞こえてきそうな足取りの主はトーマスだった。こちらの様子が見えないのか一心不乱に走ってゆく。ほかの町の人の声も届いていないようだ。

「トーマスさん⁉どうしたんですか?」セティが尋ねるとトーマスはようやく止まり

「ああああああええっとセティさんにフィークスさん?いえ、これは緊急事態なのです!あなた方を巻き込むわけにはいきません!」

「関係ないかどうかは今はいいんです!まずは何があったか教えてください。もしかして、いつもそうやって一人で突っ走っちゃうんですか?」

ギクッとなるトーマス。よく見ると手に何やら紙を持っている。それに気づいたフィークスが質問する。

「その紙に何か書かれてるんですか?」トーマスは少し落ち着いたのか、二人に紙を見せてくれた。紙にはこう書いてあった。

<修道女は頂いた。返してほしければダウェザム山まで来い>

どうやら、これを見てトーマスは焦ってここまで来たらしい。

「トーマスさん。僕も手伝いますよ」

「そんな、大丈夫ですよ。あの子を助けてくださっただけでもありがたい。私も勇気が持てたのです。これ以上迷惑をかけるわけにもいきません」これにはセティも気づいたのか、

「やっぱり、自分だけでなんとかできるって言って突っ走ってるんじゃないですか!そういう時こそほかの人を頼ってください!私も手伝いますから」

「皆さん、かたじけない。それでは改めて行きましょう!」こうして彼らはエルダの連れ去られたというダウェザム山へと向かった。

 アルル王国の南方にあるダウェザム山、鉱山でもあるこの山は洞窟を通じて、隣町に続いている。フィークスたちはセティの出した光の玉を頼りにして奥に進んだ。これもなければトーマスは何も見えない中、それこそあちこちぶつかりながら進んでいったのだろう。光に反射して時折見える色とりどりの鉱物たちは、アルル王国全土の武具や防具に広く扱われており、フィークスに支給されている討伐隊の武器もここで取れた鉱物から作られている。基本的に、目立った動物は、コウモリくらいしかいない、しかし、こういった場所は魔物や、モンスターの巣窟だ。と、フィークスたちの歩いている近くの岸壁に穴が開き、さっそくモンスターが現れた。モグラのように大きく発達した両手といかつい見た目、今はまだだが成長するにつれ地上でも生活するための目ができ始めている。そんなこのモンスターたちの名はレギド。特にこうした成長期の個体は気が立っているため、危険だ。若干感じているだろう光とフィークスたちのにおいからこちらに敵意を向けてきた。

「悪いな、こっちも急いでるんだ。俺たちに会ったことを後悔するんだな」そういってフィークスが一気に間合いを詰め切り込む。レギドは鉱物食で摂取した鉱物を体表にまとうことで防御力を上げていくのだが、成長段階であるがゆえにこうして剣での斬撃が通るのである。あっという間に倒してしまうフィークス。モンスターを倒したものがすることはただ一つ

「少しだけ鱗をもらってもいいかな、」と言ってはみるがさすがにセティから

「今それどころじゃないでしょ!ほら行くわよ」と即却下されてしまう。そりゃそうだと思いつつフィークスは先を行く二人のところに戻った。

 

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