Wonder Hope

龍之世界

第1話 希望の始まり

 今宵は満月、神流の力が満ちるとき。フィークスたちは突如現れたモンスターの討伐にやってきていた、しかし、初任務の彼らには荷が重すぎた。隊員の一人をかばってフィークスは崖際に追い詰められてしまった。このままでは自分が危ない。必死に剣をふるうも、じりじりとモンスターに追い詰められてゆく。嫌だ、死にたくない。こんなところで死んだら、誰も守れず死ぬなんて嫌だ。そんな思いもむなしく、フィークスの足元は崩れ始める。谷底へと落ちていくフィークスに仲間たちが悲しみの叫びをするまさにその上空、空にできた裂け目から光る球が現れた。不思議なその玉は何かを探すようにふわふわと浮遊したのち、落ちてゆくフィークスに向かって飛んで行った。そして、フィークスの体の中へと入りこんでいくと、そこから光が四方に放たれその後フィークスは見えなくなってしまった。

 「う、うーん。」フィークスが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。そこら中に本があり、窓はなくろうそくの火だけで薄暗かった。ゆっくっり起き上がろうとすると、

「ぐあああ!!」体に激痛が走る。すると部屋の扉がぎぃと開く。

「あれ、もう起きたの?、でも安静にしておいたほうがいいわよ?」

フィークスの前に一人の女性が現れた。顔立ちはよく、艶のあるきれいな黒髪がろうそくの炎に照らされていた。

「君は?それにここは一体...」

「私?私はセティ、まだまだ未熟だけど魔法使いをしてるの。ここは私の...今は私の家ね。そこの谷、ユインの谷の底にあるの。」

「ユインの谷...そうだ!俺はモンスターと戦ってて崖に追い込まれてそれでそのまま...って痛っ!」勢いに乗って動こうとして体を痛めてしまう。

「ああ、無理しないほうがいいわよ。まだ全然治ってないんだから。これでもあなたラッキーなのよ?戦ってたモンスターが下敷きになってくれててあの崖から落ちたにしては無傷みたいなものよ。3週間もすれば回復すると思う。」

「そうか、ありがとう。」

「お構いなく。」

それからフィークスはしばらく、セティの下で手当てをしてもらった。彼女には薬草調合の心得があるらしく、そのおかげでフィークスはあっという間に元に戻っていった。いつの間にか三週間も過ぎ、自分の力で動けるようになった。いつの間にか二人でとるようになっていた食事をしながらセティがフィークスに話しかける。

「さてと、あなたもだいぶ動けるようになったみたいだし、そろそろ出て行ってほしいんだけど、」

「ああ、世話になったな。本当にありがとう。君がいなかったらこんなところで誰も来ず、俺はそのまま死んでいただろう。」

「そういえばだけど、あなた、討伐隊よね?」いきなり自分のことを言い当てられて驚くフィークス。

「ど、どうしてそれを?」

「あなたの装備、どう考えても旅人って感じじゃなかったもの。物資が少なすぎる。この国で町や村の外に出てこんな重装備の人なんて討伐隊くらいしかいないわ」

「そうか、その通りさ。俺は王国の討伐隊、それも初めての任務だったんだが、仲間をかばって谷に落ちて...それで今に至るってわけだ」

「ふーん、大変だったのね」セティはさらに続けて

「それで?これからどうするの?」

「うーん、一度ブレイミーに帰るかな。本部に行かなきゃ仲間たちにも会えないし、これからの方針も決まらない。」

「まぁそうでしょうね。でも、あなたここから直接ブレイミーにはいけないわよ?」

「へ?」

「崖を上るってんなら別だけど、ここから行くならヒルミを経由しなきゃダメね」

「そ、そうなのか。それじゃそのヒルミに行ってみるよ。それじゃごちそうさま。そろそろ出る準備をしなくちゃ。」そういって部屋に戻ろうとするフィークスをセティが「ちょっと待って」と呼び止める。

「ここまで介抱させておいて、まさかタダで帰ろうってわけじゃないわよね?」

「い、いやでも俺、まだ働き始めたばっかりでお金なんか」

「そんなこと想像くらいできるわよ。そうじゃなくて、あなたにも使ったみたいに私、薬草を調合して薬を売ってるの。あなたに頼みたいのは薬の運搬兼私の護衛ね。魔物程度なら私だけでもなんとかなるけど、最近モンスターが増えてきてて危ないでしょ?だからお願い」

「そんなことか。もちろんいいよ」そういうとセティは笑って

「ありがとう!それじゃあもう少ししたら出発しましょうか」

 先にセティの家を出てしばらく待っていると彼女が出てきた。魔法使いらしい帽子とローブを着ている。古びてはいるが素材自体はかなり高級なものを使ってとても丁寧に作られたもののようだ。

「ペガサスの毛皮?」

「そう、よくわかったわね。地図のことはよく知らないのにこういうことはしってるんだ?」

「いや、子供の頃に村に来てくれた魔法使いが教えてくれたんだ。俺。訓練兵時代はそれこそ鍛えたりしかしてなかったから、大概の知識はその魔法使いさんの受け売りさ。」

「なるほどね。そんな魔法使いにまた会いたいな。さあ行きましょ!」

セティは少し考え事をして歩き始めた。フィークスもそれについていく。

しばらく二人で歩いて谷を進んでいくと道の先で大勢の魔物に襲われている男と子供が見えた。

「フィークスあそこ!多分町の人だわ!騎士さんもいるけど、どうしてあんなところに」

「とにかく助けよう!話はあとだ!」

「ええ!」二人は急いで男たちのもとに向かう。

 「うぬぅ、まずいな」

いつものように慌てて街を飛び出してきてしまった手前、目的の子供をみつけ、周りの魔物を倒したのだがこの魔物たち、ゾンビやスケルトンは倒しても倒しても復活してしまう。さらに自分たちの匂いを嗅ぎつけてさっきよりも数が多くなっている。そろそろ限界か、そう思い、せめてこの子だけでもと子供に覆いかぶさるようにしゃがみ込む。背後からゾンビの攻撃が襲い掛かる。その瞬間。男の後方で炎が弾ける音がした。

「大丈夫ですか⁉」遠くから聞き覚えのある少女の声が聞こえる。

「ま、魔法使いさん?」男がそう言うと

「どけええ!!」と聞き覚えのない少年の音が聞こえてきた。そして、振り返ると群れていた魔物が弾き飛ばされる。だが彼らはゾンビやスケルトン。衝撃を与えた程度では倒せない。

「スケルトンは頭を砕けば再生できない。こいつらは俺に任せろ!セティはゾンビを頼む!」

「えぇ!あなたは確かトーマスさんですよね?子供はお願いします!」

「あ、あぁ任せてくれ」

吹き飛ばされていたスケルトンたちもすでに元に戻っていた。そんなスケルトンたちをフィークスは的確に切り伏せていった。否、切り伏せるというより頭の骨をたたき砕いていくのだが、それでも次々と魔物を裁くその姿は数週間戦ってとは思わせないほどの動きだった。対してセティも負けていない。彼女の打ち出す炎の魔法はゾンビたちを次々と焼き払っていく。炎の狙いも正確で高度な技術を要する魔法の軌道を曲げて当てる芸当も見せた。

(あんな動きの魔法今まで任務にあたった魔法使いで誰もできたとこなんて見てない、特技が薬草の調合だけなんて噓っぱちじゃないか。)

こうして二人はあっという間に魔物たちを片付けてしまった。すぐに残された二人のもとに駆け寄る。

「大丈夫ですか?トーマスさん」騎士の男---トーマスは

「はい。お二人ともありがとうございます。ですがまだこの子が、魔物によるものではないのですがけがをしてしまっていて」

「すぐに町へ行こう。えっとトーマスさん、この子は僕が連れていきます。セティ、売らない薬があれば二人の応急処置を頼む」

「売らない薬なんてないわ、けどこういう時のために薬を調合してるんだもの、任せて」

「お二人とも本当にありがとうございます」

「処置が終わったら町に戻ろう。トーマスさんは案内をお願いします」

こうして、二人の処置を手早く済ませた後、一行はヒルミへと急ぐのであった。







 

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