世界は偶像が好き 中
それは完全にこちらを見ていた。
奈良の大仏程の大きさで、不動明王らしき形。と言うのが一番しっくりくるだろう。
しかし、巨体の形は曖昧でホログラムの様に映像が乱れたり、ドロドロと泥の様に溶け出したり、真っ黒の煙の様なもので形を模ったりと毎秒ごとに表現が変わる。だから巨体の形はなんとも捉え難くしっかり形成出来ていない。
この場合、分からない、が正解か?
「貴方にはどう見える?」
「どう……。そうだな……。強いて言えば不動明王?」
「なるほど。そう言う認識ね」
「認識?見え方が人によって違のか?」
「そうね。あの化け物は
「ってことは、誰かには動物に見えたりするのか」
「そういう人もいるかもね」
「俺たちの直感とか言葉で形が表されるんだな。霊と魂が同じようで違う認識化なのと似たようなもんか。でも見えない彼らには何を言っているのか理解できないんだろうなぁ」
「形なく、目で捉えられず、証拠もないから、仕様がないね。それを聞いてそう思うならそうだと思えば良い話くらいに考えてるよ」
「一つの考え方として受け捉えてもらえばいいくらいか」
「そんな感じ」
「…………ああ。そうだな」
「どうしたの?」
「いや、感情も霊も言葉も見えないものって人によって捉え方はそれぞれでさ。それってつまり自分の思いとか、
「確かにそうかもね」
「因みに
「私は鬼ね。黒衣は大体そう見える。貴方の言葉を借りるなら私は黒衣を悪魔とか鬼とか、恐怖であり、危険を脅かす存在として認識しているんでしょうね」
過去に何があったかは聞かないでおくが、相当深く抉られた傷口が垣間見える。
俺はその言葉を無言で聞いて、「そっか」と一言だけ添えた。
『ぇえ?そいつ動くのぉ!?』
「今更?……お前が驚くのかよっ!」
「
『いやまじか…本当に怒りのエネルギーで化け物呼び出しちゃったよ。…迷信だと思ってた。どうしよ』
迷信にかける労力か!?これ!!
「那由多君!!」
「えっ?」
ツッコミを入れている場合ではなかったことに気づいたのは、顔を真正面に戻した時だった。
目の前が巨大な拳で埋まっている。
「…わお」
大きいにしろ、歩いてたにしろ、化物はまだこの施設の突き当りにいた筈だろうが。俺たちは入口付近に居た筈だろうが。
ナンデコブシガココマデトドイテルンデスカ?
「知らねぇえよぉお!!!」
しかし次の瞬間、視界は彼女の顎から上が占領していた。
「はっ。えっ…///えッ………??///」
俺は乙女になった。いや、おかまになった。いや、なってねえわ。
でも口調と顔は完全に乙女だっただろう。
だって空中でお姫様抱っこされてるんだもーん!!!
決して頭の中がお花畑になったわけではない。
因みに俺をお姫様抱っこする王子様はもちろんお眠り王子。
……………胸もないしな。
おっと、何故か握る力が強ま…「痛い痛い痛い!皮膚千切れる!」
心を読まれた!?
………禁忌にはこれ以上触れないでおこう。
それはそうと彼女の力は何がどうなってんだろうか。
車椅子を小指だけで持ち上げている怪力晴瀬。
いや、今そんな事を考えている場合ではない。
黒衣に見つからない様、彼女は俺を抱え浮遊しながら移動する。
そうして俺は先程まで黒衣が居座っていた場所の隅の方に降ろしてもらった。
そこから入口。自分らの元いた場所を見て目がかっ開いた。
「まじ……で……」
入口が何倍にも広がり、エレベーターから更に奥に新たな道が現れた。
あの巨拳が壁を貫き、トンネルを開通させたのだろう。
そして現在黒衣はキョロキョロと俺たちを探している模様。床に寝ている人々には目もくれないのはなんでだ。
俺は彼女に後ろから両手を掴まれ、車椅子の手押しハンドルを握らされた。
車椅子をお願いということなんだろうか。コミュニケーションが取れないから良く分からんが、とりあえず車椅子を守ろうと思う。
車椅子を盾にしそうだけど。
ま、どのみち拳がぶつかれば、Tシャツみたいにペラペラになっちゃうし関係ないか!あはは!
由羅が結局車椅子を盾にしている時、彼女はこのだだっ広い施設どころか、自分すらも客観的に俯瞰していた。
彼女は本当に眠っている。
あまり良くないということは自覚している。けれどこれが今の彼女の精一杯の
夢の中。
それは自覚があり、思い通りだと思えば、全てを成す事の出来る自分の世界だ。
しかしそれも結局起源が表現を担ってくれているという事。
つまり夢の中でしている頭の中の妄想やら想像やらは精神世界で起源が表現しているに過ぎない。
頭の中で心で表現が出来るのであれば寝ていようが寝ていまいが現実で思い通りの表現が出来るのは当然の発想なのだ。
夢は夢に在らず。夢もまた起源という素粒子達が表現を成している現実だ。
彼女はそこに着眼していた。夢の中ならばなんでも出来る。だったらそれを現実に持ってこれれば現実で全てが思うがままに実現が可能だという事。
しかし前述した様、これは邪道だ。
しかし彼女は、ただ素粒子を思い通りに動かす工夫をしているに過ぎない。
それに、夢の世界はどこまでいこうが夢だという事。現実で無から生み出すという思創師としての根本を無視している。制作も考察も度外視だ。
それはつまり思創師として、思創師のやろうとしていることは無謀だと、
思創師としての力と呼んでいいのかどうなのか。だから、思創師としては邪道と呼んだんだ。
ま、そんなことはどうでも良くてだな。
彼女は今キョロキョロ見渡すデカブツの、人で言う顔に当たる箇所の前に浮いている。
そして、それを見つけられない巨体を良いことにゆっくりと右の掌を顔面に向ける。
するとその掌から真っ赤なプラズマ製のショットガンが形成される。
プラズマがショットガンを模っている。
ただレバーアクション等の弾を装填する様な機能は見当たらない。
あるのは銃口とトリガー。
彼女はそれを脇に抱えて片手で持つ。
トリガーに指をかけ、銃口はもちろん黒衣の方へ。
トリガーを引く。
すると、ショットガンプラズマは形を崩して黒衣と同じかそれ以上の大きさの弾丸に変化する。
そして、弾丸は形を成したと同時にジェットの様に噴射し飛んでいく。
彼女は無いはずの反動を受け、身体をのけぞらせた。
刹那、黒衣の顔面にプラズマは撃ち込まれ、爆ぜた。
「グガガガガッ!」
黒衣の全身がその爆撃と電撃に覆われて、行動が一旦停止する。
体制を崩す事はなかったが、謎の奇声も発し、ダメージは与えられたようだ。
しかし、それは、一旦。
ほんの一瞬だ。
怒りは全てを攻撃して消し去る様。
黒衣は咆哮し、プラズマ、爆撃、自らの傷すらも消滅させた。
視野を確保した黒衣は完全に彼女を捉える。
刹那、拳が凄まじい勢いで飛んでくる。
「まずッ!!」
先程とは違いほぼゼロ距離。こんなものが当たればそれこそ自分自身が起源になってしまう。
彼女の視界が拳で満たされた。
人は考える生き物である。新時代の異端はそう言った。 ぐりーなー @gleaner
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