第16話 斗弥の想い

その後


私は愛村家・衣吹家の両親に


実家の事情でという嘘の理由をうまく言って


しばらくは帰れない事を伝えた



しかし友達の所にしばらくいる事にしたのだ


それから私が家を出て帰らなくなり


学校で会えるはずの斗弥君と


会う事がなくなる




いつもいるはずの


あの席に


腰をおろしている彼の姿が


見られなくなった





「…斗弥…君…」






こんなに淋しくて


空しい気分になるのは


どうしてだろう…?






そんなある日の夜─────





私に1本の電話。




「はい」



「もしもし?私、警察署の者ですが…○○高校のあなたの生徒さんが傷害事件を起こしまして…お迎えに頂けないでしょうか?」


「…えっ…!?…傷害…事件…?あの…本当に…?学校の方には…?」


「いいえ。どうしても、あなたにご連絡をして欲しいとの生徒さんからの要望でして……家族だからという事も言われていたので…」


「…家族…?」




私は嫌な予感がし、ある人物が脳裏に過る。


私は行く事にした。



「…斗弥…君……?」




駆け寄る私。


斗弥君は、小さな子供のようなイジケモードで不貞腐(ふてくさ)れている様子が伺える。




私は警察官に尋ねた。




「…あの…何かの間違い…うちの生徒がそんな…」

「事実やで?」

「…斗弥君…」

「あんまりムカついたから殴った」

「…どうし…」

「そのまんまや」



「……………」




「ともかく今日の所は一方的に殴ったという、一点張りで話にならなくて…保護者や家族を呼んだんですよ。相手側と話が合わないし成立せず一致しなくて」



「…そうなんですか…あの!相手側に怪我は?」



「大丈夫です。高校生に良くいる不良ですし、相手側は普段から学校でも有名で、ちょくちょく、警察にお世話になってる相手です。今日の所も引き取りに来てもらいました。まあ、子供の喧嘩と言うべきでしょうか?ご心配なさらないで下さい」




「…分かりました…ありがとうございます…お世話になりました…衣吹君、帰るよ!」


「帰るけど家には帰らへんで!」


「何言って…」


「家に戻っても、つまらへんもん!」




「………………」





「実は彼、家の方じゃなくて、あなたの携帯に直接の連絡を求めたんですよ。家には帰らないと言い張って何かご存知じゃないですか?家庭環境も、こういう暴力に繋がるんですよ」


「そうなんですね……すみません…お世話になりました。失礼します。ほら!帰るよ!」




私は帰り始める。




「カツ丼食べたかったな~」

「あのねーーっ!」

「嘘や」


「学校に来なくなったと思たったら傷害事件で呼び出し!全く呆れた!」



「しゃーないやん!そんな怒らんといてーな」

「怒りたくもなります!」

「なあなあ、カルシウム摂ってる?」

「摂ってますっ!」


「じゃあ欲求不満か?」

「斗弥君っ!」

「なんなら、お相手しましょか?」

「結構です!生徒とそんな……」

「じゃあ、生徒やなかったらええんや?」



「あのねーーっ!ともかく今日は家に帰って貰います!」


「えーーっ!エエやん!唯南さんの友達の所に泊まらせてくれへん?」


「変な気、起こされても困るから」

「変な気って、どんな気なん?俺、唯南さん以外は手出さへんで」



ドキッ



「そ、そう…」



そして、私は斗弥君を家に送る。



「ほら!おりて!」

「嫌や!」

「我儘言わないの!」



「………………」



「唯南さん学校おらんくなったら俺つまらへん。家に帰っても唯南さんいてへんもん。なあ、一緒に連れてって」


「あのねーーっ」

「ほんなら戻って来てくれへん?」

「今は圭吾と一緒にいない方がいいから」

「せやけど圭兄は離婚する気にないんちゃう?」



「………………」



「そうだとしても…現状は厳しいよ…ほら!」



私は車からおりるように促し、斗弥君は渋々、車からおりると運転席に来る。


窓を開ける私。



「じゃあ、また。おや…す…」



ドキッ


言い終える前にキスで唇を塞がれた。



「……離婚…成立せんくても…油断しとったら俺に全て奪われるで」




ドキッ




生徒であるあなた


義理弟(おとうと)でもあるあなた


あなたに唇を奪われた瞬間


男の子ではなく


1人の男(ひと)になった瞬間



高校生だからって


油断していたら


私の心も身体も


本当に奪われてしまいそう……


普段見た事のない彼に


私の胸はざわつく
























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る