第7話 無気力

「あれ?衣吹君は?」

「まだ来てませんよ」

「えっ?」




《おかしいなー?私より早く出たのに》




朝のH.R.


出席をとる前に気付いた。


斗弥君が席に座っていない事に。


私よりも早く出たのは確かだ。







✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕


~ 衣吹 斗弥 side ~



「…俺…何してんのやろう?」



俺は、屋上で仰向けに寝そべっていた。





そこへ──────





「なあなあ、知ってるか?ちょっと小耳に挟んだんだけどよ、うちの高校の先公に可愛い系の先公いるんだってよ」


「マジ!?そうなんだ!」




《そんな先生いてるか?》




人には見えない死角にいた俺に気付かず男子生徒達の会話だけが聞こえてきては、ふと考える中、関西のノリで軽く突っ込みも入れる。



「何処のクラスを担当してるんだ?」

「さあ?」

「調べとけよ!」



《知らんのかい!》



ほぼ同時に突っ込みを入れる俺。



「名前も知らねーの?」

「知らないんだよなー」

「でも噂だろ?確信じゃねーんだろ?」

「いや、いるんだって!」

「そうか?」

「そうなんだって」

「とりあえずさ調べて呼び出そうぜ」

「いいな」




「………………」



《つまり呼び出してヤるっちゅー事か?》

《あてはまる先生はおらんと思うんやけどな~?》

《せやけど…唯南さんが来てから、唯南さん男女問わずそこそこ人気…まさかな…》






そんなある日の放課後────





「愛村先生」



他のクラスの男子生徒の2人が、教室にいる私に声をかけてくる。




「ちょっと相談があるんですけど」

「相談?」


「俺は付き添いなんで気にしないで下さい。一人じゃ無理って言ってたから」


「そう」



《何処のクラスの生徒かな?》

《臨時だからな~》




「私で大丈夫かな?」

「全然大丈夫ですよ」


「そう?その前に、この作業済んでからで良いかな?もうすぐ終わるから」


「全然大丈夫ですよ」

「ありがとう」




そして作業をしようと手に取ると───


突然背後から抱きしめるようにされた。



ビクッ


驚くと同時に私の視界に入ってきたのは、ナイフだった。




「ねえ、先生って彼氏いるんでしょ?」

「つーか、結婚してるって話だし」



「………………」



「痛い目に遭いたくないなら付き合ってよ。先・生」

「夫婦関係ないわけじゃないんだろうし」



《つまり…それって…相手しろって…事…》





最悪だ。


下手に抵抗は出来ない。


油断していた。


まさか自分が、こんな目に遭うなんて────




私は男子生徒達に連れて行かれるまま後をついて行くしかなく、校舎から離れて行く男子生徒達。



「…ねえ…何処…迄…行く気…なの?…校舎から離れているんだけど……」


「当たり前じゃないですか?先生」


「誰にも邪魔されない場所に行かなきゃアウトでしょう?」




私は足を止める。



「薄々、気付いてるんでしょう?」

「ほらっ!先生」




腕を掴まれ強引に連れて行く。

ビクッ




「………………」




使われていない倉庫。



ドサッ

彼等は私を押し飛ばすようにすると2人で押さえつけた。



「きゃあっ!…や、やだ…!」



口を手で塞がれた。


ボタンが外され、唇が首筋から、うなじ、洋服が肩までずらされ肌が露になり、胸元へと唇が這う。




怖くて仕方がなかった。


下手に抵抗なんてしたらお互いの立場も悪くなる。


先生というのに


自分の力の無さに


正直 腹立だしかった




その後の事は覚えていない。



どれくらいの時間が経っていたのだろうか?


私はハッと我に返る。



「そうか…私…まだ…学校……帰らなきゃ…」



私はゆっくりと起き上がり、足取りの重い中、教室に戻る。




「…先生…?」



ビクッ



「………………」




私の名前を呼ぶ視線の先には、まさかの意外な人影があった。




「…えっ……?……斗…」



名前を呼ぶ前に両頬を摘ままれた。




「…ここは学校やで?先生」



私は頷くしかなかった。




バイトのはずの彼が


どうしているの?



パッと離す斗弥君。


そして、私が途中までしていた作業をしてくれてたのか、既に終わっていた。




「…ごめん…もしかして作業してくれた?」


「あ、まあ…だって、そのままやったから。トイレにでも行って糞詰りで出て来れへんのかと思うて。もしくは腹下したとか?」


「ちょっと!レディーに対して失礼だよ!…そっか…でも…ありがとう」


「いや…別にええねんけど…」

「助かった。それより…バイトなんじゃ…」

「体調悪い言うて休み貰ってん」

「…えっ?…そう…だったんだ…大丈夫なの?」

「俺は大丈夫。大丈夫やけど…」



フワリと抱きしめられた。


ドキッ



「唯南さんは大丈夫なんか?」



ドキン


2人にしか聞こえない声で言う斗弥君。


学校って斗弥君は自分が言っておきながら私の名前を呼んだ。





「えっ?私?どうして?私は大丈…」



言い終える前に斗弥君が言葉を遮るように



「んなわけないやろ?脅されてヤられたんやろ?」



ギクッ



「えっ!?…や、やだな~そんなわけ…」


「隠しても無駄やで?ある生徒が妙な会話してんの聞こえてん。気になって教室に戻ったら作業が中途半端やったし。バイト行ってる場合ちゃうな思うて…心配で」



抱きしめた体を離す斗弥君。



「…まさかとは思うてたけど…」


「大丈夫だよ。大丈夫。だけど…先生失格だよね…注意も出来ないんじゃ…ありがとう。私は大丈夫だから」




笑顔を見せ書類を手に取る。



「これ、職員室に持って行ってくるから、もう帰って良いよ。ありがとう」



教室を出ようとする次の瞬間。



背後から抱きしめられた。



ドキン



「すまん…唯南さん守れんくて…家族守れんくて」

「と、斗弥君…ちょ、ちょっと、ここは学校だよ」

「家帰ったら圭兄いてるのに慰められへんやん!」

「そ、それは…そうだろうけど…」



パッと離れる斗弥君。



「…すまん…先…帰るわ…」

「う、うん…」




その日の夜─────



私は食事も喉に通らず横になっていた。



「唯南、体調悪いのか?」

「…うん…」

「疲れているのか?大丈夫か?」

「…うん…」

「そうか…」

「…どうか…した?」




私は重い身体を起こす。



「…いや…斗弥から聞いて…」


「えっ!?」



《何を?生徒と関係持った事?》




両頬を優しく包み込むように触れる。




「…圭……」



私にキスをした。



「俺、浮気なんてしてないから」

「えっ?浮気?」


「シャツに口紅の跡があったの見かけたって?斗弥にも見たって言われて…」



《あの事、話したんだ》

《じゃあ学校での出来事じゃなかったんだ》



「あ…うん…まあ…」


「不安にさせてごめん!ぶつかった拍子に付いたやつだと思う。俺も付いてるって本当知らなくて」


「…そっか…大丈夫だよ」



《何回か付いていたのに、ぶつかった拍子?》

《故意に付けた可能性…》



「もし今後そういうの見掛けたら唯南から聞いて欲しい。俺も気を付けて行動するし確認するようにするから」



「うん…分かった」



再びキスをされる。



「俺は唯南を愛してるから。例え何があっても唯南しかいないから」


「…圭吾…」


「唯南…無理にしようとは思わないけど…」


「…大丈夫…」



再び私にキスをすると深いキスをし更に進めていく。




《…私…圭吾の事…好き…なの…かな……?》




圭吾の気持ち嬉しい気もしたけど


どこか複雑で


今日は何も感じない


私の身体は


どうなったんだろう?




あんな事があったから…?


心も身体も


ボロボロになってるのかな…?




私は涙がこぼれそうになった……




だけど……



私はグッと堪(こら)えた



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る