第6話 運命と試練

「唯南、しばらく出張になるんだ」

「出張?そうか。分かった」



とは言ったものの、今まで出張なんてなかったし、する事なんてなかった。


突然の上司からの出張命令!?


婚約して落ち着いたから?


それとも…他に理由がある?




そして圭吾は、出張に行くのだった。




その日の夜─────



「ねえ、圭吾君」

「はい」

「奥さんとは上手くいってるの?」

「ええ」

「そう?」


「どうしてですか?」

「ううん。聞いてみただけ。…ねえ」




彼女は、圭吾の首の後ろに手を回す。



「えっ?さなえさん…?」

「奥さんて、どんな人?」

「どんな…人って…」



キスをする。



ドサッ倒れる2人。




「ちょ、ちょっと…何…旦那さんいる…」

「私、バツイチよ♪」

「えっ?バツイチ?」

「あら?もしかして知らなかった?」

「まあ…でも!だからって、こういう事は駄目ですよ!」


「奥さんがいるから?申し訳ないと思うの?」

「当たり前じゃないですか!俺は彼女を愛してますから!」

「クスッ。そう?じゃあ、今夜だけ私が夢中にさせてあげる♪」


「ちょ、さなえさんっ!」








✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕




「唯南さん、圭兄おらんくて淋しない?」

「それは……」

「あっ!俺がいてるから淋しいも何もないか?」

「いや!それは一切、関係ないからっ!」


「ええーーーっ!!!冗談でも "うん" て言うてくれてもええやん!」


「えっ?いやいや!言う意味ないし!言う意味が分からないから!」




私達は騒ぐ。






✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕




「ちょ、ちょっと!上司と部下だし。こんな事は、あってはならない……」


「奥さんとやっている事よ。内緒にしていればバレないし大丈夫。私も誰にも言わないから2人の秘密♪」


「いや!そういう問題じゃ…」


「じゃあ、どういう問題?」


「えっ?どういうって…」





秘密の関係…



そんな事など知る良しもなく──────






そして、出張先から帰宅する圭吾。



「あっ、おかえり」

「…ただいま。唯南、まだ起きてたのか?」

「…えっ?あ…うん…まだ、そんな遅くはないよ」




いつもと同じように感じるけど


何処か素っ気ない


旦那の態度


会話が何処かぎこちない



「あ…そうだな。俺が疲れているからかもな?」

「…そう…かもね…」



「…………………」





「何や?チューせーへんの?」




ビクッ


背後からの声に驚く私。





「斗、斗弥君!?」



「それじゃ、俺は部屋に行くよ」と、圭吾。



「あ、うん…」

「で?」

「えっ?」

「この後は、勿論、夫婦やから、やることやって仲を育む……」

「…どうかな?」

「えっ!?せーへんの?俺やったらするで?」

「そ、そうですか!斗弥君はね!」



「……………………」




私は部屋に行くも、圭吾は既にベッドに横になっていた。




「…………………」





別に期待していたわけじゃない。


だけど……とは思ったけど


私は部屋を後にリビングにいた。




「あれ?唯南さん、ここで何してん?あー、仲を育んだ後の余韻なんか?」



「…余韻って…あのね~…」

「ちゃうんか?」

「違います!余韻とかなら流れで、一緒に寝るでしょう!?」

「いや!そうとも限らへんで?」

「えっ?どうして?」



「別々に寝る人もいるんちゃう?」


「…それは……いや…そんな訳……えっ!?もしかして斗弥君、そっち派?」


「俺?……俺はな~……」



話してくれそうな雰囲気にドキドキ、ワクワク胸を弾ませながら待つ。



「うん、俺は?」



「………………」



「……なーんて言うわけないやん!どアホ!」


「…なっ…!ど、どアホって…」


「待つだけ無駄や!なんで唯南さんに俺のHした後の事を話さなあかんの?」


「え、Hって……」


「Hやろ?あ、それとも、どストレートにセックスて言うた方がええか?」


「ば、バカっ!!」


「えっ!?ええーーっ!いや、なんでバカって言われなアカンの?ちゅーか唯南さん顔赤いで?」


「き、気のせい!」




ストッ

私の前の椅子に腰をおろす。


ドキン


「…な、何?」


「…いや…何もない。何もないけど、その様子やと圭兄、抱いてくれへんかったんやな?思うて」


「だ、抱いてくれなかったとか…普通に、直球(ストレート)過ぎだから!」


「しゃーないやん!俺、素直やから、ありのままやねんもん。16歳の高校生やから」




ニカッと笑う斗弥君。



トクン

胸の奥が小さくノックする。



「…なあ、唯南さん、結婚して幸せか?人生変わったんか?」

「…えっ…?」

「…最近の唯南さんの…本当の笑顔見た事ないで?」

「…そう…かな…?」



「そうや!心の底から笑ったっちゅー笑顔見てへん。圭兄の事、一人で悩むんやないで?」


「…斗弥君…」



立ち上がると私の傍に来ると抱きしめられた。


ドキン



「俺は唯南さんの笑顔見たいねん。幸せやないんかなー?って思うやん?好きな男(ひと)と結婚して幸せやないならおかしいやん」


「…今は……幸せだなんて思えないよ……」




「………………」




スッと抱きしめた体を離す。




「ごめん…ありがとう……いつも斗弥君に…生徒である年下であるあなたに元気づけられてる気がする。辛い時…淋しい時…必ずあなたは私の傍にいてくれる…」


「家族やから……一人の男やから」



ドキン



「例え生徒やっても家族やし、一人男や。所詮、アカの他人やで?特別な感情とか想いとか、一切あらへんとしても、一人の男と女やで?」



「…そう…だね…」



「家族や圭兄に話しにくいんやったら、俺に何でも話すんや。家族に一人くらいは話せる人、相談相手いてもええんちゃうん?だから一人で悩まんといてな。俺が誰よりも兄貴の傍におってんから相談位はのれる!上手く聞き出す事かて出来ると思うで」



「…うん…ありがとう…」


「ほな!おやすみ」


「…うん…おやすみ…」




斗弥君は去って行く。




パタン

ドアに寄り掛かる俺。




「…このままで、ええんかな……?…俺…あんな唯南さん見たないで…」




そうポツリと呟くと二階に向かう俺。





先生と生徒


そして 家族であり


私の義理の弟(おとうと)になる




そんな私は


彼にとって


義理の姉(あね)になる




例え兄と兄弟だとしても


血の繋がりはなくても


家族であり




そして


私とも姉弟となる




こんな微妙で複雑な中


神様は私達に


どんな運命や試練を


与えているのでしょうか……?






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