第5話 16歳なのに・・・

「先生」



放課後。


教室にいる私に声をかけてくる。


視線の先には




「あれ?衣吹君」

「らしくないやん。まだ未解決ですか?」




「…………………」




「調子狂うでーー。無理してんねんもん。普段通りしとっても分かるで?あんたの事」


「そうか…でも、大丈…」





スッ


言い終える前に私に小さなメモを渡す。




「俺のバイト先や!」

「えっ!?」

「…家で話しにくい事なら外ならええんやろう?」

「…衣吹…君…」


「教師と生徒やし。コソコソ会いとーないけど、そろそろ復帰してもらわへんとアカンで!クラスのみんなも心配してる。ええな!」





そう言うと教室を後に帰って行った。





その日の夜─────




「お疲れ様です」




店から出て来る斗弥君の姿。

ウィーン

車の窓を開ける。



「斗弥君」


「うわっ!唯南さん!ホンマに来よった!やっぱり外なら話せるんや!」


「…あのねー…」




斗弥君は車に乗る。



「ほな何処かドライブでも行きますか?」

「えっ?」

「えっ?って…何?えっ!?自宅に直行なん!?」

「いや…決めてないし…」

「じゃあドライブや!レッツゴー!気晴らし、気晴らし」



「気晴らしって…言われても、もう夜だし」


「夜だからええんちゃうん?暗くて見えへんもん。まあ、その分、明るい所はアウトやけどな」


「それは…ねー」



私は車を走らせる。



「で?本題いきますか?」

「えっ?あ…うん…そうだね…」



「………………」



沈黙が流れる。



ベシッ

オデコを叩かれた。



「…痛った!」



突然の出来事に驚きブレーキを踏む。



「うわっ!何やねん!急ブレーキ踏むなや!危ないやろっ!」



私は車を道路脇に停める。



「運動中に人のオデコをいきなり叩くの辞めてくれる!?」


「しゃーないやん!黙(だんま)りやから起きてんのかな?って思うやろ!?」


「起きてなきゃ運転は出来ませんっ!」


「だったら話さんかいっ!何の為に待ち合わせしたんや?」


「それは…そう…だけど…」



「………………」



私は顔を反らす。




頭をポンとする斗弥君。



ドキッ




「話しにくいとか話したくないのは、あるかもしれへんけど、唯南さんが俺のバイト先に来るっちゅー事は解決したいか誰かに話を聞いてほしいからなんちゃうか?」



「………………」




「一体、何があったん?」



私は勇気を出して話す事にした。




「えっ…?キ…キス…マークぅぅっ!? えっ!?身体に?何かの間違いなんちゃうの?」


「いや…その前に…身体じゃないから…」


「身体じゃない?じゃあ何処なん?」


「Yシャツ」


「ぶつかった拍子とか?」




「そんな何回もある?そうなると絶対に計画的だよね」


「そんな何回もあったんや…」




私はゆっくり頷く。




「夫婦関係ないわけじゃないねんから大丈夫とは思うねんけどな~…二股か…?」


「…えっ…?ふ、二…二股…!?」

「いやいや…すまん、すまん!」

「もうっ!何!?」

「何やねん!ちょっとポロッと言うただけやん!」

「そのポロッが、冗談にも程があるからっ!」


「そんなムキになったらシワ増えるで!」

「うるさいなっ!シワ増えたら責任取ってよね!」


「責任て何やねん!どんな責任やねん!シワとりマッサージ機でも買(こ)うた方がええんか?」


「そういうのより、エステにでも行って自分磨きするから!エステ代頂く!」


「エステ代って…義理の姉が言う台詞かいな!高校生にお金せびるて、ありえへん!」


「知らない!」




プイッとそっぽを向く。




頭をクシャクシャとした。


ドキッ



「小さな子供みたいに膨れんでもエエやん!ちゅーかな…圭兄が浮気とかする感じやないんやけどな~。だからって絶対しないなんて言われへんけど…男って単純やしな~」


「単純だから浮気するのっ!?」


「いや…そうやないねんけど…」


「…結婚して…自分のものになったから…浮気しちゃうのかな…?ていうより…そもそも、本当は好きじゃなくて婚約して…浮気されちゃうっていう私に隙があるのが問題なのか…」


「いやいや…浮気って決まったわけやないで」


「浮気だよ!浮気!きっと仕事が出来て超美人な人。もしくは、綺麗な人で…私みたいな子供っぽい…」




スッ


両頬に両手が触れ、横に振り向かせ、斗弥君と視線がぶつかる。



トクン


私の胸の奥が小さくノックした。



「自分を責めるんやないっ!」




「…………………」





「圭兄は、唯南さんを選んだ! 婚約したのも、唯南さんが好きやからや! もっと自分に自信持つんや!浮気する為に婚約するておかしいやろ?」




「………………」




「見た目やない。全てにおいて、圭兄は、唯南さんを選んだんや!」




「……………」




「とにかく、一人で悩まない!抱え込まない!家族なんやから何でも話すんや!どうしても話しにくいんやったら外出してもええし」


「…斗弥…君…」


「俺にだけは何でも話してくれてもええんちゃうか?全部聞いたるから!」

「…ありがとう…」

「ほな!帰るで!」

「えっ?」

「えっ?…って何やねん! 逃亡でもする気かいな?」

「いや…しないけど…」

「だったら帰るで!」

「…うん…」




年下なのに


彼が大人に見えた


16歳なのに


生意気だって・・・




だけど・・・


彼は大人だ


きっと誰よりも


私よりも


大人のような気がする







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