第7話 気まぐれな風は突風にも、そよ風にもなれる
気まぐれな風は突風にも、そよ風にもなれる。とは双頭のミャドルの過去に記した叙情詩の一節だ。彼は同じ詩の中でこうも詠っている。染まる河を宵闇が隠し、野犬が屠る。残忍な戦場の光景の悍ましい一節だが、読んだ当時の僕は、情感豊かな起伏あるその長い詩に反して、不思議と彼が目の前の光景や、自らの言葉にすら何も感じていないように思えた。
先生に呼ばれ、学園の客間の椅子に僕たち四人は並べられる。緊張して待っているとガラッと黒い腕で扉を開き、ミャドルの黒猫が入ってきた。そしてテーブルの上に飛び乗ると、僕を見て
「……あー……不安定だにゃー」
と残念そうに一言言い、他の三人もジロジロ見回し、バーンズの前に座り
「お前、シーレム君とついて来るにゃ」
アグリャが焦った顔で
「俺も行きたい!」
声を荒げると、黒猫は首を横に振り
「死ぬのは早いにゃ。すぐ戻るから焦んにゃ」
と言うとジェムルスの前に行き
「シーレム君を守るには、あとちょっとお金いるにゃ」
「わ、分かりました。パパに伝えておきます」
彼は焦って頷いた。黒猫は悪い表情で
「蛇の道は蛇ーニャの道は金だにゃー」
と言いながらテーブルから飛び降りると、振り返り
「ほら、2名はさっさとついてくるにゃ」
と言った。
僕とバーンズは、黒猫に校舎屋上まで連れて来られると、古木でできた小舟のような魔法船が置かれていてその後方には鬼の飾りが付いた杖を縦に持った先ほど講演場に現れた黒子があぐらをかいていた。周囲には誰もいない。黒子の頭に黒猫は飛び乗ると
「さっさと乗れにゃ」
と肉球を見せて手招きしてくる。吸い込まれるように僕たちは魔法船の前方に座り込んでいた。
瞬く間に魔法船は青空へと舞い上がり、王都の街並みを下に、速度を上げていく。そういえばどこに向かってるのかな?と少し呆けたような頭で考えていると
「戦場は二十四時間営業だにゃー。今も兵卒たちがはったらいてるにゃー」
と黒猫が気持ちよさそうに言い、黙っていた杖の先端の鬼の顔も口を開き
「今から戦地で、ニコラウスの尻拭いを可愛らしい方のお前さんにやってもらう」
耳を疑うようなことを後ろから言ってきた。
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