第5話 あなたの素晴らしさは、あなたにはわからない

あなたの素晴らしさは、あなたにはわからない とは最近王都内の寂れた路地裏の古本屋で手に入れた詩集の一節だ。自室で夜中に開いてみて、シンプルだけど、素敵な言葉で溢れていて涙ぐんでしまったのは秘密だ。


ジェムルスは自らについた影について

「いや木陰で寝てたら変なのとりついてて、腕とか動かしたら、俺の動き真似るんすよ。んで、今ならいけるなって思って。ほら俺のことデブとかいつも馬鹿にしてる奴らを……その悔しさ、先生ならわかるでしょ?」

などと普段、微塵も思ってもいないことをペラペラと並べ立て、さらに家から多額の寄付を学園にして、怪我をさせた生徒への補償金と医療費も即座にしかも多めに支払ったので、不問に付された。


そして、そのおかげで無事だった僕たち三人は今、ジェムルスと彼の父親との5人で、彼の邸宅の広い食堂の真ん中に置かれたテーブルに並び、正装をしてディナーを食べている。

「ジェムルス、お父さんに皆さんを紹介しなさい」

金髪を横分けした美中年が穏やかに彼に言うと

「はいパパ。可愛いのがシーレム、強そうなのがアグリャ、燃えるような髪がバーンズ」

素早くジェムルスはそう答え、美中年は満足げに

「宜しい。美点を簡潔に例えたね。次はもっと洗練された例えをするべきだ」

「はいパパ」

ジェムルスは借りてきた猫みたいに大人しい。彼の父親は上品に微笑むと

「シーレムさん、息子から先日の件を聞いたよ。ああ、お礼は良いんだ。私も息子と同じく、君をひと目見て気に入ってね」

僕はとにかく貴族の長男として失礼のないように鏡で練習した笑顔で

「ありがとうございます」

と微笑む。ジェムルスの父親は頷き返し

「自己紹介が遅れたね。ショウ・パイロニカと言います」

僕たち三人は一斉に頭を下げる。彼はジェムルスを見て

「息子は変わり者だが、我が家を大きくすると見込んでいる。今後とも仲良くしてくれると嬉しいな」

「もちろん」

僕がそう言うと、彼は安堵した表情を一瞬見せ、柔らかな物腰で

「済まないが、明日早いもので」

と中座した。父親の気配が完全に見えると、ジェムルスが大きく息を吐いて

「パパが言ってた意味が分かったやつ」

と問いかけてくる。僕が首を傾げていると、バーンズがニヤリと笑って

「坊ちゃまの才能に、誰よりも早く先行投資したいってことだろう?」

アグリャも真剣な表情で深く頷き

「そして、それをシーレムが完璧に読み取ったと、勘違いしたな」

「えっ?僕の才能?なんの?」

三人が同時に腕を組み真剣な顔で

「詩のな」「詩です」「詩の朗読の才能な」

僕がポカンと口を開けると三人は同時に大爆笑し始めた。

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