第2話 人生とは花のように咲き誇り、そして枯れる
人生とは花のように咲き誇り、そして枯れる。と詩人は詩の中でよく詠う。
我が家は、そして僕は、優秀な兄弟を二人も同時に失った。執事がお風呂から出た僕に告げてきた時は、世界が一瞬真っ黒になったのを覚えている。帝国の包囲作戦に兄たちの指揮する補給部隊はやられ、全滅したという。日課のお気に入りの詩集を読むことも、ヴィコム家の男子たるための教本の勉強も葬儀の日まで一切手につかなかった。
葬儀の日は雲一つ無くて、まるで兄様たちの笑顔のようだった。僕は両親に申し出て、兄たちが天国から喜んで見てくれるように去年まで着ていた女もののドレスとカツラで葬儀に出席した。これは近年まで性別を選ばなかったものができる、最高の餞だ。死者が喜ぶ格好をすることで、その魂をいたわることができる。……そう、信じられている。自分だけ色のついたドレスという服装は恥ずかしいが、並べられた二つの棺に横たわる兄様たちに少しでも安らかになって貰いたい。
真っ黒なスーツや、灰色の軍服の出席者の中、見慣れぬ、軍帽を目深に被り、勲章をいくつもつけた軍服を着た線の細い青年が歩いてきた。彼は僕の隣に立ち
「ケイレブ・ヴィコム中佐の戦友であるニコラウスです。この度は、お悔やみ申し上げます」
と丁寧に挨拶をしてきた。気の弱そうな雰囲気の、クセの強い栗毛を耳にかかるほど伸ばした青年は軍服を着ていなければ軍人とはとても信じられない。僕が
「はあ……兄がお世話になりまして……」
と生返事していると、喪服に身を包んだ母が足早に近づいてきて
「ニコラウス様、どうぞこちらへ」
と墓の近くで悲しそうに佇んでいる父の元へ連れて行った。少し離れた場所から僕を警護している男物の喪服を着たバーンズを手招きして
「お偉い方なの?」
と気の抜けた質問をすると
「……王家の御三男で、第一空中魔法部隊長のニコラウス・ヴェルヘルム様です」
「もしかして……鬼のニコル……?」
バーンズは黙って真剣な眼差しで頷いた。鬼のニコルの名は近隣諸国に轟いている。昼夜問わずどんな地形でも奇襲を仕掛けて、相手部隊に大損害を与える天才指揮官だ。
「兄様とどんな関係が……?」
バーンズは言いにくそうに僕の耳元に小声で
「ケイレブ様と、恋仲だったとのお噂です」
衝撃的なことを言ってきて、また僕の視界は真っ黒になる。
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