コンビニエンスストア。
しおじり ゆうすけ
第1話
コンビニエンスストア
昔々の話じゃ、、
ある県の大きな街の郊外の山荘に一人のご老人が住んでおりましたそうな。
ご老人は沢山の社員がいる大きな大きな会社を一代で築きあげた人だそうじゃが仕事引退後、会長職として会社に一週間に一度ほど、電話で連絡すりゃあよかったそうでいつもは山荘の書斎でくつろいでいたり、近所を散歩したりしたそうな。
その山荘の近くの旧街道沿いには、歩いていける距離に、
小さな雑貨屋、があり、やさしいおじいさんとおばあさんと2人が経営しておったそうな。周りにはスーパーも無く、同じような店も無かったし、旧街道沿いなので通りすがりの車も寄って土日は賑やかなで食料品と共に近所の農家の余った野菜果物、消耗品、台所用品、大衆誌、文房具、駄菓子、地酒、手作りジュース、手作り弁当、春は桜餅、夏は冷やし飴、
へぇえーーっと、
秋はキノコごはん、栗赤飯、冬は、おでん、猟師の持ってくる猪肉の味噌漬け、山菜を甘味噌で炊いて詰めた焼き饅頭まで作って売っていたそうな。
老人はそこの饅頭が好物だったそうで、自分で買いに行くのが好きでここの老夫婦と世間話をしたり、お茶を頂いたり、そこにいることがえらく楽しかったそうな。
「ありゃあ、昔なぁ台所にガスが来たんを憶えちょる、それまで薪(まき)か炭やったのが、プロパンと言うボンベでガスがくるっての、意味がよくわからんでなあ。
まあ便利なもんが出来た思うとりましたわ。ガス会社の人がカロリーがどうとかこうとか、いってなあ。ガスの燃える力ですか、熱量がなんとかかんとか言われましたわ。この焼き饅頭の銅の型を作ってもらいに、大阪の道具屋筋まで買いにいきましたわ。こいつもいっしょに、いきまして二人で下げて帰りましてなあ。」
後に向いてなにやら片付けをしていたおばあさんが、付けているエプロンをはずしながら口を挟んだ。
「赤がね(銅)でできとるけえ、もう重とうてねえ、それを持っての帰りに省線(国鉄のこと。今のJR)に乗るときに、うちの人が駅員さんと些細なことで喧嘩になってねえ。大きな荷物じゃから、別料金を払えと、、」
「ああ、そやったなあ。よお憶えとるなあ、ばあさん、周りに人だかりが出来てしもてなあ。」
「ちょっと、たこ焼き食べる?ソースつけるで?」
「はあ、いただきます。」
そんな話をわいわいと話してくれる雑貨屋での、たわいもない会話が、お金持ちの老人は気に入っていたそうな。
自分も昔は若い頃、何度も仕事で道具屋筋に行った話をしたかったが、
身分が知れるやもしれん、と言わなかった。
その老人、若いころは食品スーパーに勤め、がむしゃらに働いた、同僚に負けまい、いつか社長になってやろうと、日本中の市場、食品会社、卸会社、東京は合羽橋、大阪は道具屋筋の食器類、料理道具類の販売している店を駆け巡り、調理の機械化を考え、そのノウハウを貯め、ありとあらゆることを考えたものだった、、ライバル業者を蹴落とすため、寝る暇も惜しまず勉強をし、チェーン展開のために独自の物流システムを構築していったそうな、本人は友達付き合いもせず、酒も女も賭博もせず、仕事仕事の毎日だった、、
ある年は、年の休みが二日しかなかったこともあった、それでもなんともなかった、今から考えると、無茶をしたものだ、ライバル店の隣に派手に出店し安売り戦争で相手を潰し、社内の能力のある同僚先輩後輩をこき使い、会社の中でも外でも嫌われ者になったそうな。しかし、自分のやり方が正しいと突き進んだ結果、大企業に成長し、チェーン展開も成功、そしてスーパーから発展させたコンビニエンスストアを次々と展開させていった。
そもそもどの町にもあった自営業の仕事、パン屋、弁当屋、おにぎり屋、酒屋、米屋、味噌屋、卵屋、漬物屋、惣菜屋、和菓子洋菓子屋、本屋、ドライブイン、土産物屋のいいとこ取りをし、二四時間開けることを常にした。そのコンビニエンスのフランチャイズに加入し業態転換した小売業者も多くはいたが、それまでの地域の人たちと店主店員との、日々の交流や話し合い、人と人との繋がりは無くなっていった。
特に!、お年寄りが買い物に寄ってくつろぐ雑貨店は無くなっていったのである。
老人が若い頃はそのような事はまったくわからなかったが自分が歳をとり
くつろげるところは、こういう店なのだと気づいた。
その店に行くのが日常となり、定休日の時にはいくところがなく淋しい思いもしだしたくらいじゃったそうじゃ、、。
そうだなあ、自分がもし人生をもう一度やりなおして新しい小売り業態を作るのなら、こういう店を全国展開させたいなあ、高齢者が喜ぶ店を、と考えたが、若い頃のような大きな欲も失せ、もう自分だけ楽しめればよいということで、毎日を過ごしておったのじゃが、それが、ある日、雑貨屋の近くに、その”24時間営業のコンビニエンスストア”ちゅうもん、が出来る噂がきたそうな。それが出来てしまうとこれからはその雑貨屋さんは商売上がったり、もうやっていけなくのでは?と思ったそうな。
「もうなあ、お客さんが来んようになってしもうとなあ、車も通り過ぎるようになって下手、この先やっていけへんから、そろそろ店を畳もうかとおもっているんやけど。体が動かんようになる前に引退して、どこか他所でゆっくり暮そうかと、」
「それは、、うーん、もったいないなあ。私もああいうコンビニとかいうところ、を、そりゃあ便利かもしれんけど、あそこは店の者との会話とか交流はできないので、」
そう言う事は自分が社長時代に、しなくても良いと命令した事であったのだ。
「昔なかったときには、それはそれで生活してなあ。あれもそうじゃ、銀行のキャッシュカードや、クレジットカードもなあ。昔はなかったもんじゃ。それが便利がええちゅうて、皆、もっとるようやけど、あれも無かった頃は、午後3時まで銀行にいっていたし、分割で買うようなことは、なんや、うしろめたいことやったしなあ、昔は月賦というとったですなあ。それが、あのカードとかで分割払いやなんやで、高いモノでもすぐ物が変えるようになった。」
「しかし、ここの店閉める、となると、あとどうしてやっていくつもりですか?」
「さあ、どうするか、わしもようわからんですが、年金二人ぶんあれば
喰うてはいけますけど、、。」
「そうやなあ。」
などと色々話しをしていたそうな。
老人は車で出かけ、コンビニ開店まであと数日という店を観に行った、看板を観た、なんと自分が作ったコンビニチェーンではないか!と知ったのである。
電話
「もしもし、あ、わしや。」
「はっ会長、どうされました、いつもの連絡のお時間とは違いますが?。」
「わしの山荘の県内統括部門の責任者をうちの家に、直ぐ来させてくれるか?」
「はいわかりました」
山荘に車でやってきた社員。初めて直接会長と面と向かって話すので緊張している、、
「御用件は、なんでございましょうか?」
「率直に言う、この県内のコンビニの出店をやめろ。計画全部やめろ。」
「え、え?今まで出店した店もやめるのですか?」
「それは良い。新規の店だけだ。これ以上増やすな、今から出店するために募集した経営者たちや建設する工務店には熨斗をつけて違約金を支払え」
「しかし県内の他店の物流基地計画もございます、今の規模を倍にし弁当工場を新設する予定もありますし、一般家庭の改築やら自営業店主への違約金のほうもございますし、十数億円の損失になりますが、、」
「うん、それくらいは大丈夫だ、つまりこの県は現状維持ということだ、社長にはワシからよお言うておく。」
これで、あの雑貨屋も続けていける。これでまたあそこに遊びにいける。
雑貨屋に行った・
「ああ、あんさん、あそこのコンビニ、急に作るのやめてしもうたらしいですわ。どうしたんやろう、もうあと数日で開店の予定じゃったそうなのになあ。」
「そうらしいなあ、これでこのお店もまだ続けられますなあ、」
、、それを自分の力だと一言も言えない老人であったが、心の中で老人はうれしがっていたそうな。
安心した老人は海外旅行に行ったそうな、、
でーーー、、一か月後帰国して帰ってみたら、
なんと、あの雑貨屋は、ライバル会社のコンビニエンスストア、になってしまっていたのです。
老人夫婦は土地と店を売ってどこか他所の土地に行ってしまったのでした。
ありゃりゃー。
おしーまい。
コンビニエンスストア。 しおじり ゆうすけ @Nebokedou380118
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