第14話
夏休みに入った。
すでにあの女と別れてから二月くらいは経っている。
この間これと言って動きはない。たまにあいつを見かけることもある。以前とは違い精気のない表情にギョロついた目だけが印象に残る。
「兄ちゃん、勉強教えてよ」
「珍しいな、ヒトミが勉強するなんて」
「宿題をちゃんとやらないと部活動禁止になるんだよ」
「なんだ、仕方なしか」
表面上は平穏な日常を取り戻している。あいつの家族との絶縁状態は変わっていないが近所にもバレていないようだしこのまま継続する。
夏休みはゆっくりしたいので宿題はとっとと片付けるに限る。
ヒトミと一緒に自分の宿題もやったり、ヨースケやミユキと図書館で勉強したりもした。
迎えた八月。弾む歓声、光る汗、満ち足りた日々。ミユキとプールに行ったり夏祭りに行ったり、たまにヨースケと遊んだり……。すべて嫌なことを忘れて楽しんだ最高の夏だった。
全ては過去のものになった。そう思っていたのだが。
夏のピークも過ぎ秋の気配も感じる晩夏。夜の
「誰かしら? はい」
『すみません。
千川。ミナミの小母さんだった。
「………何の御用ですか?」
『忙しところ申し訳ないですが、うちのミナミは来ていませんか?』
「は? 来るわけ無いでしょう? おたくの子がうちのカズヒトに何したのかわかっているでしょ?」
『すみません……夕方にふらっと出ていってまだ帰ってこないんです』
「申し訳ないですが、知りません。では」
すげなくプツリとインターホンのスイッチを切る。
「まったく! あの子がうちに来るわけ無いでしょうに。どの面下げてくるっていうのよね? どうせまた男の子のところにでも行っているのでしょ」
久しぶりにあいつの名を耳にしたが、何も思うところはない。
あとは寝るだけだが、眠るには時間的にはまだ早い。
隣の部屋からはヒトミの笑い声が聞こえてくる。友だちと電話でもしているのだろう。
ピピピピピッ♫
買ってからただ積んでおいただけの文庫本を手に取りペラペラと捲っていると不意にスマホに着信がある。
《
ミユキんちの小母さんから。
「もしもし、
『もしもし、カズヒトくん? ミユキの母です、夜にごめんなさいね』
「はい大丈夫ですよ」
『あの、もしかしてうちのミユキはカズヒトくんのお家に行っていないかしら?』
「いいえ、来ていませんし、今日は会ってもいませんよ。どうかしましたか?」
『夕方くらいに誰かから電話があって、ちょっと出てくるって言って出掛けたまま、まだ帰ってこないの。心配になって……』
時計を確認すると、夜の一〇時を過ぎたところ。
誰かに呼び出されたとしてもちょっと遅い時間だ。
「俺の方でもちょっと調べてみます」
※※※
お読みいただきありがとうございます。
せっかくなので★付けていってください。
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