第9話 本心(ヴェイツ視点)
(俺との結婚を王命で望むなどさせたくない)
ヴェイツはそんな無理矢理な婚姻はしたくなかった。
自分の意志で求婚し、望んで妻にしたいのだ。王に命じられてだなんて、そんなのは嫌だ。
昨夜のうちに執事に頼み、夫婦の寝室などをエイシャス好みに改装してもらっている。
エイシャスにはまだ内緒だが、準備が整い次第伝えるつもりだ。
だが、少々怖がらせてしまったようなので、後で謝罪をしなくては。
申し訳なく思いながら、その後は国王の話を聞いていく。
「先程は怖がらせてすまなかった」
そう伝えれば笑顔を見せてくれる。
安心した。
焦るあまりにエイシャスに強い口調でぶつけてしまった事は失敗だ。
エイシャスは普段気が強いように見えて、とても脆い。
いまだ一人になる事が怖いそうで、殆ど自分と一緒に過ごすことが多い。
眠るときもそうだ。
婚姻前に手を出してしまった事は申し訳ないが、誰にも渡すつもりもないし、侍女たちも何も言わない。
寧ろ何としてもエイシャスを幸せにするようにと厳重に言われていた。
幼い頃から一緒に居たエイシャスはオルレアン家のお姫様だ。
皆の娘で孫で妹のような存在だ。
ここに居る者は皆エイシャスを家族のように思っている。
新参の使用人まではその限りではないが、余程の事がない限りは追い出すわけにもいかない。そんな横暴をしていては働くものがいなくなってしまう。
それが後々不利益になるとは思っていなかったが……。
夕飯の席でエイシャスはとても顔色が悪かった。
どこかうわの空で、食事も殆ど口にしていない。
「まだ本調子ではないようで、すみません」
そう言いながらふらふらした足取りで自室へと戻る。
もやもやしていた。
エイシャスが自室へ行くことは滅多にない。
一人になるのが嫌だとヴェイツの私室か侍女の誰かの部屋で過ごすことが多いのに、自室に行くのは余程思い詰めているという事だろう。
(やはりあの時の発言か?)
王の前でしたやり取り以降エイシャスは落ち込んでいる。
それならば早めにエイシャスに婚姻の話をした方がいいだろう。
だが、今エイシャスは部屋に籠っている、さすがに乗り込むのは気が引ける。一人になりたかったと嫌がられてしまうかもしれない。
余計に傷つけそうで悩んでしまう。
そうやって部屋で悶々としているとノックの音とエイシャスの声がした。
「どうぞ」
そう促せばしずしずと入ってきてくれた。
白い顔がより白いままで心配になる。
「まだ体調が悪いのでは? 無理をしてはいけない」
すぐにエイシャスをソファに座らせ、ガウンを掛けてあげる。
「ありがとうございます」
泣きそうにきゅっと唇をひきしめたエイシャスは俯いてしまった。
「エイシャス、なにがあったんだ? どうして先程から辛そうな顔ばかりをしているんだ」
エイシャスは何も言わずに俯いている。
「俺が婚姻についての話を遮ったからか?」
ぴくっとエイシャスの肩が震える。
「あの時は済まなかった。エイシャスが嫌いなのではない、王命で婚姻を決められるのが嫌だっただけだ」
「そうですか」
エイシャスの声はまだ震えていた。
「本当は改めて話をしようと決めていたんだが、今夫婦の寝室を整えているところなんだ」
「……存しております」
「そうなのか?!」
ヴェイツは驚いてしまう、エイシャスには言わないように言っていたのに。
「廊下で侍女たちが話しているのを偶々聞いてしまい、申し訳ありません」
聞き耳など淑女らしくないだろう。
エイシャスは下げていた頭を更に下げる。
「いや、聞こえてしまったのは仕方がない。本当は完成してから話そうと思っていたのだが」
ヴェイツは少し躊躇っていた。
改めての告白はこの年になっても勇気がいる。
しばしに沈黙にエイシャスが口を開いた。
「ヴェイツ様に皆まで言わせようとしてしまい、すみません」
決意を秘めてエイシャスは微笑む。
「今までお世話になりましたヴェイツ様。お力が必要な時はぜひお声掛けください。奥様になる人に悪いので、私はここから出て行かせてもらいます」
「え?」
間の抜けた声がヴェイツの口から漏れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます