第15話 今回の合宿の目的1

「恵くん、今回のテーマは、一人キャンプならぬ一人野営と要人警護だよ」

「要人警護?一人野営は分かるんですが、警護とは?」

「冒険者の仕事は、魔物討伐やダンジョン攻略などと別に、旅人や要人の警護があるんだよ。特にS級になればその手の要請は、星の数ほどと言うくらい来ているのさ。当然君にもね。」

「私にもそんな依頼が来ているのですか?どうすればいいんですか?」

「慌てる必要はないよ、君はまずは野営をマスターしてから女性の用心警護を主に受ければいいのさ。」

「それでは何時から訓練ですか?」

「今からだよ、さあ向こうに見える山に向かうよ。」

と言うと部長は収納から馬車を取り出すと、馬を二頭繋ぎ御者席に座ると

「君も御者を覚える必要があるから横に座って。」

と言われ御者席に腰を下ろす。

さあと言う感じで出発しようとしたが、「あ忘れてた。」

と言いながら屋敷のメイド2名を馬車に乗せて出発した。



1日目の夕方


 王都から50kmほど移動して来た私たちは、最初の野営をすることにした。

街道のある程度の場所には、野営ができるようなひらけた場所が設けてある。


「恵くん、ここで野営をしようと思う。君にテントを張ってもらおう。」

と言うと部長は薪になる枝木を集めに林に入って行った。

私は、地形を眺めながら少し高台に移動すると土魔法で街道と反対側に高さ2m程の壁を建てると地面も平らにならした。

テントは地球から持ち込んだ2人用と6人用の物を説明書を見ながら組み立てる。

組み上がったテントを地面に固定すると、物理耐性、魔法耐性を付与する。

テントを囲むように結界を張り許可した者以外の侵入を禁ずる。

テント内にキャンプ用のテーブル椅子にベットを配置し、食器などの入ったブックスを取り出すと冷蔵庫にカセットコンロや調理用の水を用意した。

テントの裏手に簡易トイレを設置し、パーテンションで周りを囲み謎スライムをセットする。

トイレの横にシステムバスを設置し給排水の準備をする。

給排水は、調理場にも繋げて魔道具に繋げるのだ。今回の準備は慣れていない事もあり約2時間かかった。


既に日が落ち始めていたので、魔道具のランプを数箇所設置して灯りを確保、レトルトのご飯やおかずを湯煎しながら待っていると部長らが帰って来た。

「おお、チョット文明過ぎるがコレも良いかもしれないな。薪は君の収納に入れて置くように。」

と言うとメイドのうちメイド長の方に

「今回君は要人の役だ、もう1人のメイドに恵くんが使い方を教えて風呂やトイレを使ってくれ。」

と私にも聞こえるように話すので、私はメイドのメイド役にシステムバスとトイレの使い方を説明して調理についても話をした。


2人が入浴と着替えを済まして食事をする時に、部長から

「警護をする場合、警護員は風呂や睡眠が十分に取れないと考えてくれ。特に単独の場合はほぼないと言えるが複数の警護員がいても信頼できる者でなければ油断できない。」

結界やテントの物理、魔法攻撃耐性の付与を確認した部長は

「これと後は周囲半径3kmにサーチの魔法と半径100mに危険感知の魔法を常時発動していれば、君もゆっくりお風呂と睡眠をとることが可能だろうね。」

と教えてくれたので、その魔法のスキルを余ったポイントで取得すると、今回の訓練で練度を上げることにした。


料理については、メイドの2人も大絶賛で

「ご主人様、お風呂やトイレは屋敷のようで料理は別の意味でご馳走です。」

と言ってくれた。


寝具は簡易ベッドではあるけど、マットレスにあの有名な物を使っているのでとても寝心地が良かった。

警護の者は2人用のテントに寝起きして狭くはあるが、部長が

「空間拡張魔法を使えば、いくらでも大きくできるから場所に余裕がない場合は、大きなテント内にシステムバスやトイレを設置するのもいいかもしれないね。」

と教えてくれたので、空間拡張魔法のスキルを取り、気配察知のサーチ同様一晩中使いながら練度を上げて行った。


2日目の朝


テントをそのままの状態でアイテムボックスに収納する。アイテムボックスなれば設置した状態で収納取り出しができるのだ、コレで次の設置はかなり時短できる。


馬に飼葉と水をやり身体強化の魔法を付与して出発する。

馬の進み具合が2倍になるが、振動を減らす工夫を満載している馬車にはほとんど揺れが伝わらない。


昼頃に上手い具合に盗賊が現れてくれた、部長は

「模擬戦でもしようと思ったが、こちらの世界の盗賊の実力と生死感を養ってもらおうかな。殺すべきは躊躇する事なく殺し事、出来れば一太刀で。」

と言う部長の言葉に緊張を隠せない私、でも馬車の前の飛び出して来た盗賊が

「女は楽しんだ後に売り飛ばす、男はここで死んでもらうぜ。」

と言う言葉を聞いてスーッとレイセイnなる自分が分かった。

「エアーカッター!ファイアーボール!アースニードル!」

続けざまに範囲指定で魔法を連発する私。

弓矢が飛んできたのを感知し、結界を張る。

「カーン!」

弾かれた弓矢の音、切り刻まれ焼け爛れて朽ち果てる盗賊たち。

残りの盗賊がぶが悪いと逃げ始める、私はサーチの魔法でそれぞれに印をつけ追跡のファイアーアローを打ち出す。

「グアー!」

数人の悲鳴が聞こえ、生きているのは僅か2人、そこに剣を持って近づくと

「助けてくれ!お願いだ。」

と命乞いをする盗賊に

「男はここで死ぬのでしょう。」

と言いながらとどめを刺す、意外と忌避感や迷いは無かった。

「コレで君も一端の人間冒険者だね。」

と言ってくれた部長の言葉に、自信を持った私は親玉と思われる盗賊の首を切り落とし収納、盗賊らの寝床をサーチ魔法で探すと、人質になっている女性3人を見つけ残党の盗賊を討伐して馬車に人質と共に戻る。そのままその日の野営の場所に移動すると、野営の準備を始める。


2日目の野営


 今回は3人の盗賊に囚われた女性がいるので、まずはキュア・ヒールで体の怪我や病気を治す。

6人用のテントの中を空間拡張魔法で約3倍に広げると、中にシステムバスを設置する。

メイドに3人の世話を頼んで、自分たちのテントも空間拡張を行う。


こちらの世界の女性は精神的に強いようで、風呂と美味しい食事でかなり元気になっていた。

服は盗賊の戦利品の中から適当に取り出して着替えさせ、しばらく私たちの訓練につき合わせた後王都に連れて帰ることにした。

3人とも旅をしながらこの国に来た家族の生き残りで、ほかに行くあてがないようなのだ。


3人ともお風呂やトイレに食事にとても興奮していたが、寝る時にはあのマットレスであっという間に深い眠りについたようだ。


2日目の夜は静かに過ぎて行った。

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