婚約破棄の理由があなたをかばい顔に傷を負ったことですか、なおその後

uribou

第1話

「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」

「はあ」


 今日はお妃教育の日ではないのに王宮に呼ばれたと思ったら、婚約者であるバーナビー王太子殿下に面と向かって言われた。

 バーナビー様のそういうストレートな物言い自体は、わかりやすいので嫌いじゃないけれども。


「王太子としては世継ぎを儲けることも重要な任務であるからして」

「ごもっともなことですね」

「その顔では役目を果たせんのだ」


 国王陛下も王妃殿下も困ったような後ろめたいような顔をしている。

 どうしてこの場に父様母様が呼ばれず、私だけが呼ばれたのか理由がわかった。

 いくらバーナビー様とはいえ、理屈としては必ずしも間違ってると言えないとはいえ、父様がこの場にいたら素っ首刎ねてくれるとか言いそう。

 我がトラクスタン侯爵家は武門の家だし、父様も王虎騎士団の団長だから。


「また将来の王妃として、その顔はちょっとな。王妃の顔は国の顔だ」


 それはそうかも。

 私が王妃だと周りの人に気を使わせてしまうだろうな、と容易に想像できる。


「であるからシンシア、そなたとは婚約を解消したいのだ」


 婚約解消の打診だったか。

 これはちょっと予想外だった。

 何故なら私のお妃教育は、既にかなり進んでいたから。

 後宮のトップとして側妃をまとめるとか、そういう役割を振られるものと思っていた。


「どうだ、シンシア」

「シンシア嬢には言いたいこともあると思うが……。無論賠償には最大限の配慮をさせていただく」

「はい、婚約解消承りました」


 陛下が賠償のどうのと言い出すのだ。

 婚約解消は既定路線。

 渋ったところでどうにもならないことくらいわかっている。

 王陛下夫妻は見るからにホッとしているし、バーナビー様は大きく頷いている。

 寂しい気持ちがないわけじゃないが、これでよかったのだ。


 しかしこんな判断を下すとは、我がミフテーラ王国は大丈夫なのだろうか?

 いや、私はもう心配するなどおこがましい立場なのだった。


「では私は失礼させていただきます」

「うむ、侯爵には後日正式に連絡させてもらう」


 王宮を辞す。

 バーナビー様の婚約者となって五年か。

 王宮には随分通ったし、大事にされていた時期もあったのだが。

 もうここに来る機会はないだろうなあ、と何となく思った。


          ◇


「婚約破棄だと!」


 父様の怒声が響く。

 帰宅後、王宮での話を報告したらこれだ。

 まあ怒るとは思ったけど。


「父様、正確には婚約解消です」

「同じことだろうが! バーナビーの小童が!」


 王太子バーナビー様が小童扱いですよ。

 予想通り過ぎて何だかおかしい。


「シンシア! トラクスタン侯爵家の女ともあろう者が、そんな屈辱的な条件を呑んでおめおめと帰ってきたのか!」

「父様こそ落ち着いて御身の重さをお考えくださいませ。王虎騎士団の団長なのですよ? 王家と対立して国の安寧が保たれましょうか」

「む? それを言われると……」


 父様は猪武者的傾向はありますが、愚かではない。

 自分の役目は重々把握しているはずだ。

 もっとも今回の件で、王家に対する父様の忠誠度は大分下がると思われる。

 王家の奢侈な傾向に対しては、元々物申したいこともあったようだから。


「しかしあんまりではないか。シンシアの顔の傷は……」

「私の未熟さゆえですわ」


 私の顔の傷は、バーナビー様を襲おうとした暴漢に斬られた時に付けられたものだ。

 バーナビー様をお守りした名誉の傷とも言えるが、あれは私がドジった。

 暴漢の剣術など知れたものであったし、いかに無手と言えども、もう一歩踏み出せていれば刃が顔には当たらなかったのだ。

 パーティーでドレス姿だったため、軽快に動けないということが頭から抜けていた。


「そなたはそれでいいのか?」

「もちろんですわ」

「何故だ? 未練はないのか?」

「残念ではありますが、未練は特にありませんね。顔に傷ができたからと私を捨てるような男に、拘る理由がないではありませんか」


 父様が目をパチクリする。

 父様の目は大きくて丸いので、この仕草は可愛いのだ。

 本人に言ったことはないけれど。


「ハハッ、それもそうだな」

「むしろタダで高度な教育を授けてくれたことには感謝しているくらいです」

「お妃教育か。シンシアはポジティブだな」


 うん、ポジティブなところは私の長所だと思う。

 婚約解消こそ私の目標が失われたようでガッカリしたけれども、バーナビー様に対しては特に恋心もない。

 美丈夫ではあっても、独善的で考えの足りない人だなあと思い知らされていたし。

 婚約者という縛りがなくなって、何でもできるような解放感もある。


「わかった。シンシアの考えを尊重しよう」

「ありがとうございます」

「シンシアの方から婚約を辞退する建前になるのだな?」

「はい」


 傷物になった侯爵令嬢を雑巾のように捨てたとあっては、ミフテーラ王家の求心力が弱まってしまう。

 バーナビー様が何を言っていようと、ここは私の方から辞退した格好にしないと収まらないということだ。


 ただ貴族もバカじゃないから、発表通り受け取るわけではないだろう。

 多かれ少なかれ王家の支持率は下がるが、そこまでは私の知ったことではない。

 もう私はバーナビー様の婚約者ではないのだから。


「まあせいぜい王家に貸しを押し付けて、慰謝料をふんだくってくれる」

「それがようございます」

「シンシアはこれからどうするつもりなのだ?」


 王太子の元婚約者で、顔に大きな傷のある侯爵家の娘。

 我ながら結構な地雷だと思う。

 どう考えてもこれから先、いい縁談などあるわけはないから……。


「冒険者をやってみたいのです」

「はん? 冒険者?」

「私には父様に教わった武術がありますから」


 自慢じゃないが、私は身体強化魔法ありなら騎士団長である父様とも互角に戦える。

 一方で我が国は、女性は騎士や憲兵に採用されない。

 傭兵もほぼ不可能。

 女性でしかも武術を生かしたいとなると、私的なボディーガードか冒険者しか道がないのだ。


「幼い頃から憧れてはいたんですよ」

「冒険者にか」

「はい」


 これはウソじゃない。

 トラクスタン侯爵家の娘に生まれてそんな夢が叶うわけはなかったから、今まで言ったことがないだけだ。


「知らなかったぞ。冒険者になりたいなどとは」

「私の戦闘スタイルは、父様よりも冒険者向きだと思うのですよ」

「ふむ、シンシアの魔法は大したものだからな」


 素の剣術はまだまだだと言われているも同じだ。

 まあ父様と比べればそうですね。


「わかった。やってみればよい」

「ありがとうございます!」

「トラクスタン家の名を辱めるでないぞ?」

「当然ですとも」

 

 冒険者活動でトラクスタンを名乗ることはおそらくないですけれども。

 ああ、楽しみだこと。


          ◇


 ――――――――――半年後、ハンドレール辺境伯家領にて。


『王太子の新しい婚約者、教育が進んでないらしいぜ』

『婚約者交代も唐突だったしな。いきなりじゃムリだろ』

『お披露目は一年先になるそうだ』

『外国にも舐められちまうな』


 冒険者は楽しい。

 ゴブリンの集団戦術や薬草の見分けなど、最初は戸惑うこともあったが、全然問題なく務まっている。

 今では素材の剥ぎ取りも慣れたものだ。


 それよりも様々な情報が豊富なことに驚いた。

 冒険者は腕よりも情報なんだと実感した。

 当然私の身元もすぐバレた。


「ねえ、お嬢」

「何かしら?」


 目の前の若い男は情報屋で、名をジョンという。

 辺境には珍しい、スマートで人当たりの良い好男子だ。

 私の正体を誰よりも早く見破った鋭いところもある。

 私の知っている王都上流階級の情報と引き換えに、辺境での冒険者生活のノウハウを一から教えてもらった。

 ウィンウィンの関係でもある。


「お嬢に会いたがってる人がいるんだけど」

「また? 今の私は何も持ってないんだってば」


 私が王太子殿下の元婚約者シンシア・トラクスタンと知られた時、私は好奇の視線に晒された。

 特に商家から多くのコンタクトがあった。

 が、王家とも実家とも無関係で純粋に冒険者として辺境に来たことがわかると、身辺は落ち着いた。

 そんな私に今頃会いたがるって?


「わかってる……ここだけの話だけど、聖女様なんだ」

「えっ?」


 聖女とは、非常に珍しい聖属性の素養と強大な魔力を併せ持った女性のことだ。

 それが国に認められて初めて聖女と呼ばれる。

 回復や治癒くらいならともかく、祝福・破魔・浄化ともなると聖女クラスの聖魔術師でないと使えないとされ、もちろん大変尊敬される。

 確か現在のミフテーラ王国に聖女は一人もいなかったはずだけど?


「大体聖女様が辺境にいらっしゃるわけがないじゃないの。王都で囲われるでしょう」

「正確には元聖女だな。聞いたことない? 恋愛のゴタゴタで追放された過去の聖女様の話」

「あ……」


 聞いたことがある。

 当時の王太子と婚約していたものの、揉めて聖女認定を取り消されたとか。

 詳しくは知らないけど、四〇年くらい前の話だったはず。


「お嬢の境遇と重なるところがあるだろう?」

「そうね」

「会ってみない?」

「でも……」


 昔の愚痴なんかこぼされても困惑してしまうのだけれど。

 私自身はもうバーナビー様に対して何の感情もないことではあるし。


「聖女様が人に会いたがるのは珍しいんだ」

「そうなの?」

「人嫌いなんだ。辺境に来た事情が事情だからね。知る人ぞ知る、くらいの知名度だし」

「あなたは聖女様に会えるのね。どうして?」

「子供の頃から面識があるんだ。聖女様が辺境に流れてきた時に、オレの爺さんが力になったからって聞いてる」


 なるほど。

 そういう繋がりか。


「ジョンは私が聖女様に会うのを勧めると?」

「勧める。会おうと思っても簡単に会えない実力者なのは間違いないからね。それに……」

「それに、何?」

「いや、何でもない」


 何だろう?

 ジョンにも企みがあるみたいだけど。


「まあいいわ。ジョンの見る目は信用してる。お会いしてみましょう」

「やったっ!」

「どうしてあなたが喜ぶの?」

「こっちのことだよ。じゃあ行こうか」

「えっ? 今から?」

「いつでもいいから、早く連れてこいって言われているんだ。すぐ近くだよ」


 そういうことなら。

 聖女様の家にお出かけだ。


          ◇


「まあまあ、あなたがシンシア・トラクスタン嬢かい?」

「はい。聖女様と伺いました。初めまして」

「ハハッ、嫌だよ。聖女なんて昔の話さ」


 その老女は魔法薬屋を営んでいた。

 本当に人嫌いなの? ってくらいニコニコしているんだけど。


「お嬢、他に人がいる時は聖女様って言うのナシね。アニエーゼ様と呼んで」

「そうしてもらえると助かるね」

「わかりました。アニエーゼ様」

「バカ王子に追い出されたんだって? 大体のところはジョン坊に聞いてるけど」

「追い出されたというか」


 パーティーで当時婚約者だったバーナビー様を襲う暴漢がいて、庇った私が顔にケガを負ってどうのこうの。


「ひどい話だろう?」

「アタシの時よりとんでもないね。呆れたもんだ」

「聖女様はどうだったの?」

「ん? ジョン坊は知ってるんだろう?」

「聖女様本人の口から聞いたことはないから」

「そうだったかね?」


 先代の陛下が王太子だった頃、聖女として絶大な人気と実力を誇っていたアニエーゼ様と婚約が取り決められた。

 しかし平民出身のアニエーゼ様は、貴族社会に受け入れられなかった。

 貴族の離反を恐れた王家は、王太子とアニエーゼ様の婚約破棄を決めた。

 しかしただ婚約破棄したのでは平民の反発を招くため、アニエーゼ様に無実の罪を着せて追った……。


「十分ひどいではないですか」

「そうかね? 少なくとも先代王はアタシを庇ってくれたよ。ケガさせといて放り出すようなクズではなかった」


 当時の状況が平民聖女を受け入れる土壌じゃなかったということか。

 それはそれで切ない。


「まあアタシとしては面白くはなかったがね」

「面白くしてやろうと思ってお嬢を連れて来たんじゃないか」

「何を言っているんだい。ジョン坊がそうしたいだけじゃないか」

「どういうことですか?」

「その前に」


 ニッと笑うアニエーゼ様。

 何かしら?


「シンシア嬢はジョン坊のことをどう思う?」

「頼りになる情報屋だと思っています」

「だってよ」

「ちぇっ、お嬢。もう一声お願い」

「田舎には珍しい洒落た人だと思ってる」

「好きか嫌いかで言うと?」

「嫌いな人間を近付ける趣味はないわ」

「ジョン坊、もう一息だね」

「何なのです?」

「ジョン坊はシンシア嬢を気に入っているんだよ。恋愛的な意味で」

「えっ?」

 

 そうだったの?

 でも私は……。


「ダブルの意味で傷物なんですけれど。ジョンのような素敵な男性に相応しくないわ」

「ああ、まず顔の傷を治しちまおうかね」

「いや、でもこれは……」


 王都一の魔法医でもこれ以上どうにもならなかったのだ。

 傷は塞がったけれども、大きな醜い跡が残ってしまった。


「シンシア嬢は顔の傷があったっていい女だよ。でもジョン坊は、その傷のせいで人生の道を狭めていると考えているんだ」

「今、お嬢は冒険者が楽しいかもしれない。でもいつまでも続けられる仕事じゃないよ。お嬢の持つ教養も生きない」

「それは……ええ」


 理解してはいた。

 でももう私は結婚という道を考えられなかったし。


「治る?」

「アタシを誰だと思ってるんだい」


 アニエーゼ様が私の顔に手をかざす。

 強い魔力を感じる。

 ああ、温かい。


「ま、こんなもんだろう」

「すごいすごい! 綺麗だよ、お嬢!」

「信じられない……」


 鏡を見たらすっかり治ってる。

 いかに元聖女アニエーゼ様と言え、どうして?


「ただの傷じゃないから、魔法医では難しいね」

「そうなのですか?」

「ああ、特殊な毒が使われていたね。そして強い恨みが呪い化しちまってるんだ。回復魔法以外に、解毒と解呪を併用しないと快癒しない」

「やっぱりね。呪いが絡んでると思ったんだ。解呪は聖女クラスの力がないと手の施しようがないから」

「それにしても……」


 えっ?

 ジョンもアニエーゼ様も何なの?

 じっと見られると恥ずかしいのだけれど。


「やっぱり美人だ……」

「えっ?」

「わかっちゃいたけどね。王家の男は代々面食いなんだ。バカ王子もそうだと思ってた」

「ということは、聖女様も昔は美人だったの?」

「アタシゃ今でも美人だよ!」


 アハハと笑い合う。

 わかる。

 アニエーゼ様魅力的だもの。


「で、シンシア嬢どうだい? ジョン坊を夫とする気はあるかい?」

「はい、ジョンがいいなら喜んで」

「やった!」


 ジョンは感じのいい人だ。

 頭も切れるし、物事を解決するのに色んな手段を持っている。

 一緒になるならこういう人がいいと思う。

 父様からは自由にしていいと言われているし、特に問題はないだろう。


「シンシア嬢に話してるのかい?」

「話してない」

「何をです?」

「ジョン坊はハンドレール辺境伯家の御曹司なのさ」

「えっ!」

「うちは伝統的に王都の学校には通わないから、お嬢もオレのことは知らなかっただろうね」


 今までそんなことは一言も言ってなかったじゃない!

 辺境伯家なら家格的にも全く問題なくなるけど。


「オレはお嬢の顔を知ってたんだ」

「そうなの?」

「以前王都に行った時に見てね。バカ王子にはもったいないと思ってた」


 私を見初めてくれていたのか。

 少し嬉しい。


「バカ王子に未練はないんだろう?」

「ないわよ。政略で決められた婚約だったもの」


 今から考えれば結構無神経なこと言われてたし。


「王都に行こうか。義父になる王虎騎士団長に挨拶しなくちゃ。王家に報告して悔しがらせてやらなきゃいけないし」

「アハッ、そうね」

「お嬢の後のバカ王子の婚約者、お妃教育に苦労してるみたいだしね。トラクスタン侯爵家とハンドレール辺境伯家が結んだってことを知らせてやらないと」


 ジョンの何げない言葉だが、気温が急に下がった気がした。

 トラクスタン侯爵家とハンドレール辺境伯家が結ぶということは、王国の戦力の三分の一を握ったことを意味する。

 いつでも王家に取って代われるぞということだ。


「遠慮したい?」

「いえ、血が騒ぐわ。私も武門の家の娘なのね」

「さすがお嬢だな」

「もうそのお嬢って言うの、やめてよ」

「シンシア」


 不意を突かれてドキッとした。

 ジョンったら精悍な面を急に見せるんだから。

 アニエーゼ様が言う。


「さあさあ、店仕舞いだよ。シンシア嬢も辺境伯に挨拶してきな」

「はい、そうですね」

「シンシア嬢の魔力はなかなかのもんだよ」

「そうなのかい? 美人だけじゃなくって、そういうところも評価されて王太子の婚約者だったのか。ますますあのバカにはもったいなかった」

「ハハッ。こっちに嫁に来たら、アタシが少々魔法を鍛えてやろう」

「ありがとうございます!」


 アニエーゼ様に魔法を教えてもらえるなんて!

 逆に言うと、聖女様も王家に見切りをつけてトラクスタン侯爵家ハンドレール辺境伯家連合にベットするということだ。

 今日、私の運命は大きく変化した。

 そしてミフテーラ王国の運命と私の運命は複雑に交差する。

 私もまた、横で甘やかな表情を見せる男ジョンに賭けることにしたのだ。


「よろしくね」

「オレこそよろしく」


 獰猛な表情になった。

 その顔も好き。


          ◇


 後世の史書は語る。


 『愚鈍王』『好色王』『失策王』などと呼ばれるクセルクセス朝最後の王バーナビー二世は、実際には決断力実行力等に優れた素質を垣間見せていたが、自らの行動が何を引き起こすかについての想像力を決定的に欠いていた。

 後のハンドレール朝第二代ジョン王の妃シンシアを婚約者としながら、バーナビーの命を救った際に得た顔の傷を理由に婚約解消したのはその最たる例である。

 臣民の心はクセルクセス王家から離れた。


 辺境から挙兵したハンドレール家に、トラクスタン家を筆頭として多くの有力貴族が呼応した。

 かくしてクセルクセス朝は滅び、ハンドレール朝が興った。

 ハンドレール朝初代モーガン王は、即位後五年で王位を嫡男ジョンに譲る。

 賢妃シンシアは元聖女アニエーゼに教えを乞い、夫ジョン王をよく支えた。


 王都陥落後、クセルクセス家の家督は愚鈍王バーナビーの甥クラレンスが伯爵となって継いだが、子なくして一代限りで絶えた。

 バーナビーは死を免除され放逐された。

 しかし以後の行方は杳として知れない。

 一説にルンダン山脈を越そうとした際、クマに食われたとも言い、不義理を働くとクマの糞になるという童歌が一時期流行した。


 ジョン王とシンシア妃は仲睦まじいことで知られた。

 二人の間には、後の秀麗王ユリシーズをはじめ二男二女が生まれた。

 ハンドレール朝全盛時代の幕明けである……。

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