第16話 消息不明の満生が?





 2013年小気味よく晴れ上がった雲一つない真っ青な秋の日に、満正は消息不明になった。


 そして今満正は、北朝鮮の海沿いにある都市、軍事と経済発展の中心となっているウォンサンから更に、小一時間程の山あいの街に捕らえられている。


 そこで満正は、ある家庭で捕らわれの身となっている。


 一般家庭の金高日総合大学教授リ・ジホ55歳と専業主婦リ・ユナ53歳の家庭で、生活し始めて半年が経つ。


 ある日、金満正最高指導者は、御付きの者5人と猪や鹿狩りに出掛けた。そこで銃撃されて、ある家庭の53歳主婦のユナと言う女性に助けられた。


 その家庭は、一般家庭の父親の金高日総合大学教授リ・ジホ55歳と母親の専業主婦リ・ユナ53歳、それに娘リ・ジウ24歳の3人家族。


 傷も相当深かったので、治療がてらこの家でしばらく生活する事になった。傷の手当は、もっぱら24歳のジウの役目。


 いつしか満正は、優しく美しい金高日総合大学の研究員ジウを、女性として意識し始めた。勿論ジウも品位のある佇まいと優しそうな、この最高指導者に興味津々。


 傷も回復してやっと邸宅に戻る事が出来たのだが、一体どうしてこんな事になったのか?

 

 実は、この事故?事件?は、ある者の企てによるものなのだ。


 そんな事など知る由もない満正は、ジウ家族を第二の故郷、第二の家族と思って疑う余地などなかった。


 銃撃され瀕死の状態の満正を助けてくれた命の恩人に、只々感謝しかない。窮地に陥った自分を親身に介抱して助けてくれた知的で美しいジウに夢中だ。


 満正は母親久美子に「結婚する。もう子供もお腹にいる。王たる者がデキちゃった婚では見苦しい。バレない為にもすぐ結婚する!」


「そんな事言ったって、どこの馬の骨とも分からない身分の者との、結婚なんか国民が認めない!」


「大丈夫!全部調べさせたから……」


「まあ~!お前が好きな女性なら仕方がない!」


 こうして29歳の最高指導者満生と25歳ジウは、結婚した。


 敵対する正妻ハユン妃と女帝久美子との確執の根深さ、更にはまだ星日の死から幾ばくも経っていない事から簡素な結婚式となった。 一国の国王の結婚としてはあまりにも簡素なものだ。


 まあそれは致し方のない事、世界各国からの拉致被害の数々、それと国民を人間扱いしない冷酷無比な独裁国家。


 この国を擁護する言葉など到底見つからない。

 国際社会から、その暴挙により捨て置かれた国。



 だが、この結婚にはとんでもない策略が隠されている。

 妻のジウの正体、それは実は……?




 ******


 一方のスホは、母親詩織の過去を忙しい最中探偵に調べさせている。


 そこで詩織が、AV女優をしていた時の共演男優の一人、カク・ヨヌと言う眉間に三日月形の傷のある北朝鮮出身の男に、辿り着いた。


 忙しい仕事の合間を割いて、日本との往復の日々。


 それはそうだ。愛するジアンと結婚する為にも、何としても犯人を捕まえて汚名挽回したいばかり。


 そして…幼い頃から辿って、母詩織の正体を突き止めなければと必死になって居る。 そんな時に、スホは時折過去の記憶が薄っすらだが?蘇る事が有る。


 それはボヤ~ッとだが、徐々に断片的に……。

 一番幸せだった4歳くらいまでの……幼い頃。母の愛を一心に受けていた日々の事。その顔がおぼろげながら浮かんでは消え……。


 母の久美子も、3歳で手放さなくてはならない事を重々承諾していた?承諾させられていたが為に、その一瞬一瞬を我が子に濃密な異常なまでの愛情を注いでいた。


 雑誌やテレビ画面では、拉致被害者の人々の画像が、連日のように取りざたされている。


 日本では取り分け久美子の画像が頻繫に、雑誌やテレビ画面から飛び込んで来る。だが…スホは日本にいた昔から久美子の画像には、何かしら違和感を感じていたのだが?


 だが…ある日どういう訳か……うっすらと?鮮明に?母親の顔がオーバ-ラップして来た。


(久美子と言う人は、母親にそっくり???イヤイヤ違う。違う。あんな北朝鮮を裏で牛耳っている恐ろしい女帝が、夢にまで見るあの優しい母親の訳がない……)


 そして何故幼少期の頃が、一番幸せだったのかと言うと?

 例えパチンコ大手の御曹司といっても、小学生時代はスホもまた虐め、差別に耐える日々だったのだ。

 おぼろげだが…幼い頃の母は自分の身を挺して、自分の身を投じても子供を守ろうとしてくれていた。

 

 だが…まま母詩織は、どこか取っ付きにくい何かしら……時折思惑のある目付きに怪しい行動を取る詩織に子供心に不信感を募らせていた。だから…辛い目に遭い相談に乗てもらおうと思っても、それ所ではない……何か…言いしれない不安を抱えている詩織に、足を踏み入れさせない何かを感じて相談どころでは無かった。


 

 やはり子供とは残酷な面を持ち合わせているもので、それは目の色や肌の色が変わって居たり他人と違うと、虐めの標的されやすいという事だ。


 子供の頃は4~5人の悪ガキに、待ちぼうけをされて石をぶつけられたり、殴られたり阿鼻雑言を浴びせかけられる日々だった。

「朝鮮が!日本に住むな————!、キムチ!キムチ!キ・モ・イ!」


「ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 毎日、毎日、泣いて帰った日々の事を今でも鮮明に覚えている。


 また、時折不気味な行動を取る母詩織の行動に、不信感を募らせていた子供時代。子供ながらに感じる母詩織の言動、行動、あれは一体何だったのか?


 詩織はいったい何者なのか……?







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