第15話 女帝久美子





 詩織の子供達は工作船で北朝鮮に送られたのに、何故日本に戻れたのかという事だ。それは、詩織が岸田雄介に頼んだからに他ならない。


 実はこんな経緯があった。パチンコ最大手の『キシマル』からの送金が、途絶えたら北朝鮮側は大打撃だ。


【以前は在日北朝鮮企業は脱税対策、人質状態の親兄弟達の為に相当額の資金を北朝鮮に送金していた】


 北朝鮮も大スポンサーにゴネられても後々困るから、渋々子供達を日本に戻す事を認めた。


 そして愛する詩織のたっての希望で、再び子供達と生活出来るようになった。


 だが、詩織の身辺を執拗に付け回す怪しい影。


 それはそうだろう。北朝鮮の現状を暴露されては困るだろうし、他にも諸々の事情が隠されている。


 金・色・秘密・そんな諸々が入り混じって、詩織親子は無惨に殺害された。




 *******


 スホは韓国に戻り父親との会話の一部始終を、ジアンの父親ミレ自動車社長に詳しく説明している。


「父親は絶対無実です。誰かの手によって陥れられたのです………あの日のあの男の手掛かりさえ掴めれば……すべてが分かるんだが……あの朝鮮なまりの眉間に三日月形の傷跡のある男だった……etc.」


「それは気の毒な事だ。私の方も可愛い娘の大切な人だから探偵を使って調べさせる!」


 詳しく父親の疑惑を説明して来たが?それでも難色を示している社長を横目にスホとジアンの交際は一層深いものになってる。



 2010年、27歳のスホの人気は凄まじく、その人気は世界を席巻している。



 *******


 一方の北朝鮮では祖父の高日「偉大なる首領様」が1998年に永眠してからというもの、久美子の実質上の夫で星日国家主席政権時代の幕開けとなったが、とは言っても国民の生活は改善には至っていないのが現状。


 2010年久美子も韓流ドラマに心酔して、とりわけキム・スホの大ファン。繊細な中にも、男らしい抜群のルックスを兼ね備えたスホに夢中だ。まさか自分のお腹を痛めた我が子だとは露程も思わない。


 それでも……今尚4歳で無理矢理引き裂かれた息子の事を、忘れた事など一度もない。イヤ!一目だけでも会いたい。その思いは益々強くなるばかり 。


 いっときも忘れた事のないスホを、思い出しては人知れず瞼を濡らす日々。


 そんな日々の中の2012年9月に、星日が肝硬変であっけなくこの世を去った。

 肝癌を患っており、その悪化により肝硬変で亡くなった。



 そして……2013年4月弱冠28歳で同国の3代最高指導者となった満正。久美子は押しも押されぬ最高指導者の生母にして、この国の裏の女帝となった。


 この国の王となった、弱冠28歳の息子満正を守る為に、久美子はとんでもない悪女に変貌して行く。


 それはそうだろう。大切な息子スホを弱冠4歳で手放し、今度は弱冠28歳でこの国の最高指導者となった息子満正には、色んな最高幹部たちが隙あらば利用するだけ利用して、後は自分達が「権力を我が物に!」と目論む輩ばかりなのだ。


 うかうかして居たら……息子満正ばかりか?久美子にもいつ危害が及ぶやもしれない。


 周りの高官達は、表向きは平身低頭、さも従うふりをして低く構えているが?腹の中はこの若干28歳の何も分からない若造を、隙あらば失脚させる。もっと言うなら邪魔な若造の暗殺を目論む輩ばかり。



 そんな折、ハユン妃の娘婿一派が、満正暗殺を企てた。実は星日の弟で満正の叔父もハユン妃側についている。



 ある日満正がハユン妃の娘スアの婿最高幹部キム・ハジュンの一派にさらわれて行方知れずになってしまった。


 それを知った久美子は怒り狂っている。


 一体満正は何処に消えたのか?


 再三息子満正の解放を要求したにも拘らずなしのつぶて。果たして生きているのか?生死の確認も出来ないまま日々だけは過ぎて、とうとう我慢の限界を超えた久美子。


 そんな折最高幹部キム・ハジュンが暗殺された。


 暗殺されたのは、久美子の息子満生を暗殺しようと企てた、ハユン妃の娘スアの婿で最高幹部キム・ハジュン。


 これを知ったハユン妃は暴れ狂い、犯人追求に血眼になっている。


 一体誰の手によって暗殺されたのか?事態は益々悪化の一途を辿って行く。

 また…久美子の息子で最高指導者満生はどこに消えたのか?


 暗殺されたともなれば……この国は二分して恐ろしい内紛が勃発するかもしれない。


 そして恐ろしい殺戮が?





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