第5話 岸田隼人の出自




 母親詩織とすみれ、百合姉妹が殺害された背景には、恐ろしい陰謀が隠されている。


 それは「岩田忠士」リ・ドハと、日本人である幸子の怪しい関係に、端を発した大事件となって行く。


 ドハは幸子から吸い取れるだけ吸い取り、利用価値がなくなった幸子を疎ましく思っている。


「結婚すると言って私をこき使い、お金も散々吸い取り、本当に結婚の意思が有るの?ハッキリ言ってよ!」余りの結婚願望の強さにドハも辟易している。


 工作員としての任務の為に付き合っていただけの事。結婚する意志など最初からさらさら無かった。


「私を騙したのね?今まで貸したお金と店の売り上げも返してよ!」


 ドハは(この女を生かしておいても何の役にも立たない。邪魔なだけ……)


 拉致同然の形で、北朝鮮の工作員によって幸子は無理矢理船に乗せられ、そして北朝鮮に連れ帰る工作船から生きたまま投げ捨てた。


 あいにく子供達にはその現場を知られる事無く、北朝鮮に連れ帰る事が出来た。


 幸子と子供達の戸籍を手にして、幸子と子供達に成り済ました工作員が日本にやって来て、またスパイ活動に従事する。


 その役目は勿論、お金儲けと日本各地に散らばったスパイ達の動向、秘密を、探るために動員されたスパイ達なのだ。




 ◆▽◆


 2002年朝鮮大学校1年の岸田隼人は、日本人の母親に育てられ日本の学校教育を受けていたのだが、母親詩織、更には妹すみれと百合の殺害事件で事態は急変する。


 隼人は父親の進めで、朝鮮大学校に通う事となった。


「何故日本人の母親から生まれた俺が、そんな大学に入らなければいけないんだ!」

徹底的に反発している。


 それはそうだろう。まだこの時は自分の出自など知る由も無かったのだから……

 父親の言う言葉を鵜呑みにしている。


「お前は日本人と朝鮮人のハーフで、母親と妹達は日本人に殺された。犯人の目星はついている」


 父親の岸田雄介が朝鮮人だという事は薄々気付いていたが、まさか日本人に殺されたとは……?


 そこで……今まで散々いじめにあった過去等を思い出して朝鮮大学校に入学した。

 復讐の炎がメラメラ燃え上がり(許せない!)


 復讐の権化となった隼人は怒り狂い、(今に見て居ろ!)


 留学同のサークルで朝鮮の歴史を学び、そこでスカウトを受け、冷酷な北朝鮮工作員になっていく。


 工作員は静かに*⋆✰直ぐ近くにじわじわと確実に⋆*。・我々の生活に忍び足で近づいている。


 親切を装って確実に………!


 事件の背景をよく知る、ある在日朝鮮人はその理由をこう語る。


「原因は差別が作り出す日本社会への憎しみです。職業差別、結婚差別、朝鮮民族の男性と結婚しようとした日本人女性は、当時親から勘当されたり、親戚づきあいを絶たれたりして酷い目に遭った。子供は親や周囲から自然と、色んな話を聞いて育っている。彼らが成長し大学生になって、留学同のサークルで朝鮮の歴史を学ぶと、自分の中の民族性に火が付き、朝鮮民族のために人生を捧げたいと思うようになるのです。差別を受けた者しか分からないが、疎外感を感じた者の反作用は激しいのです。北朝鮮の工作機関は、若者のそんな使命感を刺激して、利用しているのです」


 2000年前後までは差別は確かに有ったかもしれないが、それは過去の事……。

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