想い出

 私は彼のことが大好き!


 好きで、好きで、どうしようもない。


 いつからだろうか。この高校に入学して彼と出会った。


 たまたま同じクラスの、たまたま隣の席だった。


 その時から私は、彼に恋をした。


 あれ? …ない。どうしよう教科書忘れちゃった。


「教科書忘れちゃった? 俺のを一緒に見ようか?」


 そう言って彼は、私の机に彼の机を寄せてきた。


「あ、はい、ありがとう…」


 恥ずかしかった。教科書を忘れたと言う恥ずかしさもあったが、たまたま隣の席になった彼を一目見た時から彼を異性として意識していたからだった。


 それ以来、彼とはよく話しをするようになった。でも彼との距離はそれより近くなることはなかった。

 良きクラスメイトと呼べるかも知れないが、親しい友達とは図々しくも、呼べなかった。


 一年間、隣の席だった彼とは、二年になっても同じクラスだった。でも席は私が前で彼が後ろと離れてしまった。その距離が二人の距離に感じられれて、とっても寂しかった。



「なあ! 一緒に帰らないか?」


 彼が私を呼び止めた。


「うん!」


 私は振り返って笑顔で返事した。



 これまでに何度、彼の夢を見たことだろうか。

 私はその夢を見るたびに、それだけで、私はいつも幸せな気分でいられた。

 これまでに何度、彼に私の気持ちをメールしようと下書きしたか。

 私の友達は、私のことを爽やか系で、さっぱりとした性格と言うけれど、でも私は自分のことを小さなことにいつまでもクヨクヨとするし、こっそり一年から今まで彼の写真を撮り溜めていた。


「あのさぁ…」


 これは正夢!


 気のせいだった。振り返った私は笑って誤魔化した。


 彼の隣には、私の友達がいた。彼女とは、同じ地元の小学校三年生からの友達だった。その時、初めて同じクラスになり、それから同じ高校に入るまで、時々、同じクラスになった大親友だった。

 二年になって久しぶりに同じクラスになった彼女は、今は彼の隣の席だった。


 彼女は、私の大親友なのだが、彼女に私の彼に対する想いは、これまで一度も話したことがない。

 それは彼女が彼の隣の席になって、彼と親しく話をしているところを見ると尚更、私の本当の気持ちは話せなかった。


 もう一度、私は振り返った。


 歩きながら彼の隣で、彼の顔を覗き込もうとする彼女の顔を見たら、『なんとなく分かった』。そして彼女は、私の顔を見た。


 私はどうして良いか分からず、前を向いて歩くことにした。


 私は足早に、何度も瞬きしながら、改札口を通り、連絡橋の階段を登った。


 あれ? おかしいなぁ………。一段上がることに、辛くなってくる。



 私は無造作に鞄の中からハンカチを探していた。

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