第41話 お礼(強制)と交流
「あ…」
「まさか休日にも貴方の顔を見る事になるとは…ですがこちらとしては好都合、今から予定は空いているでしょうか?」
「まぁ予定は空いてますけど…」
休日の昼、俺は再びWAONモールのフードコートで昼を食べながら読書でもしようと大通りを歩いていると、俺の横を高級そうなリムジンが通りかかった。
そして不意に窓が開いたかと思うと、そこからはあの沢城グループのお嬢様の沢城麗華さんが開いた窓からサングラス越しに俺のことを見ていた。
「そうですか、では乗っていただけますか?」
沢城さんにそう言われクエスチョンマークを頭に浮かべていると、急に俺の目の前の扉が自動で横に開いた。
…すごいな最近のリムジンにはこんな機能が付いているのか。
「えっと…どこに行くんですか?」
「乗ってから伝えますので、早く乗っていただけると幸いです」
「し、失礼します…」
そう言われ俺が車に乗ると、運転席にはあの時のメイドさん。広々とした高級感溢れる車内には沢城さんが一人だけ乗っていた。
俺は言われるがまま沢城さんから遠過ぎず、近過ぎない席に腰を下ろすとリムジンは静かに発進した。
「えっと…それで何処に行くんでしょうか…?」
「私の家です。貴方にお礼をお渡ししようと思っていたので」
「えっ!?い、家!?そんなの良いですよ?ホントに…」
「私にも助けられた恩を返すという権利があるはずです。安心してください、そこまで高価なものではありませんので」
「そ、そういう事なら………まぁ…」
確かに命を助けられた相手に何も返さないというのは、それはそれで問題なのだろう。
そして俺がそう言うと、会話が途絶えシーンと車内が静かになった。…気まずい
「………先日は感情的になってしまい、申し訳ありませんでした。別に貴方個人の事を否定するつもりは無かったのですが…結果的には貴方の行いを否定する事になってしまいました」
「い、いや…気にしてませんよ。沢城さんの立場で考えれば、急に現れた不審な男に助けられたと思ったら、そいつがお礼は何もいらないって……相当胡散臭いですしね、アハハ…」
「………」
俺がそう冗談めかして返事をすると、沢城さんはフイッと窓の外に視線を移したので、俺も移動する反対側の景色を座席から窓越しに眺める。
「(…少し似ていますねお父様に)」
何か小さく沢城さんが呟いた気がしたが、気にせず俺たちはそのまま沢城さんの家へと向かって行った。
◇
「では永井様…お茶をお持ち致しますので、この部屋で少々お待ちください」
そう言われて運転手の美人なメイドさんに連れてこられた応接室の様な場所のソファーに腰掛けながら、俺は一人残された部屋を見渡す。
(はぇ〜…想像してたとはいえ…すっごいところだなぁ…)
俺が連れて来られた沢城さんの家…いやお屋敷は当たり前だが俺が今まで見てきたどんな家よりも大きく、立派なものだった。
「…庭だけで俺が住んでるアパート何十個入るんだろう……中高とかにあった全学年のサッカーを同時に〜とか出来るだろ」
俺がソワソワと部屋で待っていると、さっきのメイドさんがお茶を持って帰ってきてからしばらく経つと、沢城さんが小さな何かを持って部屋にやって来た。
「お待たせしました、これが貴方にお渡ししようと思っていたお礼です。どうぞ。開けて頂いても構いません」
「ありがとうございます…では失礼して…って!?こ、これは…!?俺が好きな先生の限定キーホルダー!?しかも今作と前作の限定品の美品で未開封……こ、こんな凄い物を貰っていいんですか!?!?」
「構いませんよ、私としては貴方へのお礼としては少々安価すぎるかと思っていますが…」
「いやスッゲェ嬉しいよ!!!ありがとう沢城さん!大切にする!」
「…っ!?」
俺がそう笑顔で言ってもらった物を箱に戻すと、先ほどまで無表情だった沢城さんの表情が少し動いた様な…気のせいか。
「にしてもやっぱりレイ先生の作品は良いよなぁ…ファンタジーの中で垣間見える主人公との間にある仲間や家族愛…敵にも敵なりに理由の深掘りがあって…これからメジャーになるんだろうなぁ」
「…なかなか分かっていますね。ただの能力バトルではなく、点と点が共鳴しあって線にも図形にも立体にもなる……そんな作品なんですよ」
「なんとなく分かるなぁ…!かと思えばガチクズな敵がいたり、善良すぎて闇堕ちする味方キャラがいたり……キャラの関係と設定に魅力満点なんだよなぁ…。ちなみに俺は味方サイドの最強のヒーローのアイツが好きだな!」
「私は味方サイドで闇堕ちして敵になってしまった彼が好きですね。優しくて思いやりがありすぎるあまりに、汚い現実を知ってしまって敵になってしまう展開がとても好みです。……最期には一番仲の良かった味方キャラがトドメを刺すシーンは涙が流れましたよ」
「おお!あのシーンね!確かにあれは泣いたなぁ…生きてて欲しかったんだけどなぁ…。にしても沢城さんもしっかり読み込んでるんだな〜意外だった」
「読み込んでいるも何も全巻フルコンプ…しっかり発売初日に買いに行っていますよ」
そう言って紅茶を飲みながら少し得意げな沢城さんは無表情ではなく、歳相応の生き生きとした表情をしている。
先ほどまであった緊張感は漫画の雑談でほぐれ、お互いに自然体で会話ができている気がする。
「家族愛の書き方も最高で…作者さんは良い家族関係を築いてるのが分かるんだよな!」
「そうね………そうだったと思いますよ」
「?」
『困ります!予定もなく急に来られると…!』
『うるさいぞ汚らわしい愚民がっ!!この僕がわざわざ出向いてやったんだ!丁重にもてなせ!愚図が!!!』
バァン!!!
俺たちがそんな会話をしていると急に扉が開き、誰かが応接室に入って来た。
「やぁ!元気かい?僕のマイハニーの麗華っ!!!」
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