第13話 ルピナスと笑う 1

 日本 青森県むつ市 八月十三日


 ガタゴト、ガタゴト。

 たった二人だけの乗客を乗せて、バスはあまり整備されていない道を登っていく。

 無愛想な運転手は出発前にぼそりと「発車します」と抑揚のない声で呟くように言ったきり、なにをアナウンスする様子もない。

 謝がこそりと前方席を伺った限りでは、黒尽くめのもう一人の乗客も微動だにせず窓の外を睨みつけているようだ。

 謝は鞄の中の小鳥にもう一度静かにするように身振りだけでお願いして、窓の外を眺めた。

 最初の数分こそ、故郷とは違う形の山々の景色を楽しんでいた謝だが、十数分も経つと悪路故の不規則な揺れと座りっぱなしの環境に飽き始めていた。

 ぐねぐね、ぐねぐねと何度も曲がっては上り、降りては曲がってを繰り返していた山路の所為で、既に今どのあたりにいるのか把握しかねている。

 良い加減、臀部に軽い痛みすら覚え始めた頃、バスはようやく停車した。

 相変わらず抑揚のない、それどころか不機嫌とさえ思える声で運転手が終点ですと言い放つ。


「ここから先は車両では行けねぇ……ので、五分くらい歩いてください」


 謝ですらわかる、下手くそな敬語だか謙譲語だかを使おうとしたらしき口調で運転手が言う。

 長時間の悪路のせいか、軽く吐き気のようなものを感じて謝は少し顔をしかめた。

 ふらつく足元に気を付けながらゆっくりとバスを降りる。冷たくて新鮮な風が謝を打った。

 山を登る前よりもぐっと冷たくなった外気は、今の謝には有難く、気持ちよく感じられる。

 たった二人の乗客が降りたのを確認すると、バスはさっさと来た道を戻っていった。

 数回、深呼吸をして空気を楽しんで、謝は鞄からSGCからの案内図を取り出す。

 舗装されているんだかされていないんだか判断が難しい道が続くのが見えるが、確かにこれではバスどころか自転車ですら通るのは厳しいだろう。

 案内の看板も人も見当たらないのでおそらく更に自分で歩けということなのだろうが。


(どっちに行ったら良いんだろう)


 ぐるぐる悩むと胸のあたりのむかむかした気持ち悪さが悪化するような気さえする。

 なんだろう、これ。どこかに腰を下ろして休むべきか、それともなにかよくわからない病気にでもなってしまったのだろうか。

 大きな雲が謝の顔に影を落とす。

 そんなことを考えて不安になっていると、謝の隣に誰かが立つ気配がした。


「大丈夫か」


 ぎょっとして振り向くと、バスで見かけた黒尽くめの若者が謝を見下ろしていた。

 この人も同じところで降りたのかと当たり前の感想を抱く。

 山の上で気温が低いとはいえ、日本は今真夏だったはずではと首を傾げたくなるような真っ黒なコートとジーンズはやっぱり暑そうだし、同じく真っ黒なブーツはミリタリー仕様でずしりと重たそうだ。

 そんな黒尽くめの所為ではやはり白い肌が一層際立つ。ついでに不審感も倍増だ。

 黒塗りに更に黒を重ね塗りしたようなサングラスの所為で目は見えないが、鋭い視線がびしびしと刺さる感覚さえ幻視出来そうだった。

 首元の十字架のチョーカーがきらりと光る。基督教徒なのだろうか。

 コートのポケットに手を突っ込んで何やら探っている様子だが、ナイフでも出てきてもおかしくはない雰囲気だ。

 悲鳴を上げずに済んだのは、掛けられた声色がこちらを心配している様子だったと判断出来たからか。

 思わずぽかんと見上げてしまった謝を訝しんでか、その人はもう一度、大丈夫かと口を動かした。

 

  ☆


 怪訝な顔、というよりもむしろ不安そうに、不審そうに見上げてくる海色の双眸を受け止めて、煌夜はどうしたものかと思案していた。

 目の前にはバスの最後尾席に座っていた己より二つ三つは幼そうな少女。


「怪しい者じゃない」


 と言うべきだろうか。

 それを自分から言ってしまう方が怪しいか。

 そもそもサングラスが不審者じみているのかと外してみた。声を出さずに少女が息をのんだ。

 目付きが悪いのは十二分に自覚しているが、こうもあからさまに怯えられると流石に煌夜とて凹む。

 不用意に声をかけるべきではなかったかと後悔し始めたとき、ふっと吹き出す可愛らしい声が聞こえた。

 見ると目の前の少女の顔がほころんでいる。


「あの、ありがとうございます」


 心配してくれたんですよね、と、少女が微笑む。

 少し空気が軽くなった。思い切ってみるものだと胸を撫で下ろす。

 人付き合いというか、コミュニケーションというのは苦手ジャンルだ。

 雲の切れ目から太陽が顔を出し、二人の足元に短い影を作った。

 差し出そうとしてポケットに突っ込んだままだった手を突き出して、握っていた箱を少女の眼前に持ち上げる。頭の重量が体のバランスと釣り合っていない黄色い動物の絵が描かれた薬箱。未開封でないのが申し訳ないが。

 乗り物酔いに水なし一錠。念のためにと事前に全国チェーンのドラッグストアで買っていたものだ。

 気分が悪そうにしていたし、顔色も若干悪いのでおそらくバスに酔ったのだろう。煌夜も事前に飲んでいなければ激しい頭痛と吐き気に襲われていたかもしれない。

 あのぐねぐねとした道のりはいっそ嫌がらせかと思うほどだった。

 小柄な少女はそれと煌夜の顔を交互に見たあと、おずおずと両手で受け取った。

 こうして並んで立ってみると少女が小柄なのがますます際立つ。煌夜とて同年代との平均身長よりそう大きいという方でもないのだが、それでも少女の頭は煌夜の胸のあたりに来る程度だ。

 さらさらと風に揺れる黒髪は頭の左右でお団子にまとめられており、躑躅色のリボンで装飾が施されている。こういう髪を緑の黒髪と呼ぶのだろう。

 着ているのは、滑らかで細やかな風通しの良さそうな生地で作られたどこかの民族衣装だろうか。煌夜にはどこかまでは特定できなかったが、装飾の雰囲気からおそらく中華系かアジア方面かと当たりを付ける。

 そしてこちらを見上げた愛らしく丸い瞳は海の色。海外風景の写真集で見るような、深い深い藍色だ。

 曇りのないどんぐり眼を囲むふわふわしたまつ毛が、薬箱の裏書を読む少女の頬に影を落としていた。


「ところで」


 いつまでも少女を観察しているわけにもいかない、と煌夜は口を開く。

 少女はちょうど錠剤を取り出したところだったようで、飲むように身振りだけで勧めると素直に薬を飲み込んだ。

 少女が箱を返してくるのを待って、再び問う。


「その、驚かせるつもりはなかったんだ」


 謝ると、こくり、少女は微笑んで頷く。

 他にもいくつか言い訳じみた言葉が浮かぶが、言っていても始まらないと飲み込んだ。


「……同じ関係者かと思ったんだけど、違う?」


 言って、鞄から出した封筒を少女の目の高さに掲げる。

 首を傾げてそれを眺めていた少女はすぐにそれがなにかわかったのか、ぱっと目を輝かせた。


「同じITの合格者の方だったんですね!」


 にっこりと、今度こそ本当に安心したのだろう、先程よりもずっと嬉しそうな笑顔だった。


「申し遅れました、私、海陵謝と言います。十四歳です」

「僕は黒崎煌夜。……十七歳」


 やはり同じくあのITに合格した者だったか。それにしても一般的には中学生だと名乗らないだろうか。やはり服装からしても、日本文化とは縁遠いように感じる。

 失礼じゃなければだけど、と前置いて、煌夜はすこし気になっていたことを口にしてみた。


「その服、どこかの民族衣装?」


 風にひらりとスカート風の裾が舞うのを見て、少女  謝がぱちくりと目を瞬かせる。

 そして、ああ、と頷いて笑った。

 よく笑う少女だ。


「私の村の、ちょっとした晴れ着なんですよ。ええっと、私、中国青海省の山奥から来たんです」


 そう言って、少女は煌夜の目の前でくるりと回ってみせた。

 頭と背中のリボンがひらりひらりと揺れる。


「……日本語、上手だね」

「本当ですか? ふふ、祖母に教わったんです。祖母はとっても博学なんですよ!」


 褒められたことが心底嬉しいとばかりに少女はにこにこと微笑んでいる。むしろ間接的に祖母が褒められたのが嬉しいのだろう。

 深藍色の真っ直ぐな瞳が煌夜を見上げている。

 先ほど少々カマをかけて試すようなことをしたせいか、煌夜にとってその純粋な目は眩し過ぎた。

 なんとなく気まずくなって、煌夜は目を周囲に漂わせる。


「……いつまでもこうしていても仕方ないし、歩いてみようか」


 そうですね、と少女も頷く。

 横道に逸れた場所にひっそりと、招待状に書かれていた名前と同じ名称の宿への看板が立てられているのが見えた。

 

  ☆


 結局、五分ほど歩いただろうか。

 簡単に補整されているとはいえ、歩きなれない山道に煌夜がうんざりし始めた頃にようやく、その建物は見えてきた。

 純和風の秘境温泉宿といった佇まいに謝はきゃっきゃとはしゃいでいる。

 疲れていないのかと遠まわしに聞くと、故郷は大変な山奥にあるらしく、これくらいの道なら慣れているとのことだった。大人しそうな外見に反して随分と活発な子だな、なんて思う。

 宿までの道と違って、宿周辺は随分しっかりと整備されていた。

 

 森山の奥に建っているとは思えない、大きな造りの宿だ。

 銀色に光る青い瓦屋根に傾き始めた日が当たり、きらきらと輝いている。鬼瓦の上に鴉が二羽、煌夜たちを見下ろしていた。

 日が落ち始めたからか、正面に下げられた提灯や周囲に過不足なく配置された燈籠にゆらりと灯が点っている。提灯には屋号らしき文字が書かれているようだが、崩し字なのかどれほど昔の字体なのかわからないせいで読みづらい。

 武家屋敷か小城かなにかを改築して宿にしたのかもしれない。

 何度か改修や縮小増築を繰り返しているのだろうという跡が、正面から眺めただけでも想像できる。そもそも壁自体がいやに真っ白で、最近塗り直したのだろうということが伺えた。

 こんな山奥で誰がそんな大変な作業をやっているのかと考えるだけでもうんざりしてくる。

 本当に、こんな、はっきり言って来る人を選ぶような辺鄙な場所に建っているのが不思議なくらいだ。

 そして、そんな場所に呼び寄せられた理由も、嫌でも考えさせられる。

 

 ぼんやりと周囲を観察していると、いつまでも宿に入ろうとしない煌夜を訝しんだのだろう、謝が首を傾げて名前を呼んだ。

 それに頷いて応え、煌夜も宿の戸に近付く。

 軽く横に引くと、からりと簡単に戸は開く。

 入ってすぐに目に入るのは広い玄関。派手にも下品にもならず、かといって質素や地味にもなり過ぎない色の絨毯が敷かれているのが目に入る。

 視線を巡らすと壁には古い白黒写真が飾ってあり、綺麗な曲線を描く花瓶台の上には美しい紋様が焼かれた高そうな花瓶がそうとは思わせない絶妙な配置で飾られていた。

 壁際や隅にひっそりと置かれた行灯もほのかな明かりを灯していて、安心感を起こさせる。

 何度目だろう、どうしてこんな場所に構えたのかと問いただしたくなるほどに、居心地の良さそうな旅館だった。

 ……それらをぶち壊す光景が玄関のど真ん中で繰り広げられてさえいなければ。


「やけん、白米に合うのは○原本家椒○庵の明太子ったい! 昆布明太子とごはんの夢の共演! これを食べんと博多めんたい通とは言えんとよ! ……ちっくと高いけん買いにくかばってん、あんまし食べられんけど……」

「はぁ? 米にはお好み焼きやろ。福○郎もええけど、自宅でまったりも捨てがたいな。主菜に豚玉、副菜にイカ焼きそば、ついでに味噌汁で最強や! あ、粕汁もええなぁ。鮭もええけど、今ならアカハタやカンパチも旬やな。あ! アカハタのアクアパッツアもええな! カンパチは鮨や刺身が定番やけど、マリネやアラ煮もうんまいんやぁ……あ、あかん、腹減ってきた」

「な、なして魚ん話ばなると? ああもう、やけお兄ちゃんと一緒はイヤやったったいっ」

「んなぁっ! なにや言うてんねや! 地震こわいーお兄ちゃん助けてー言うとったんは誰や? 俺おらんかったらぴーぴー泣いとったくせにぃ」

「だ、れ、が! 確かにちぃっとえずかったばってん、パニクっとったけ……ど……いや、お兄ちゃん助けては言うてなか!」

「はっはっはっ、恥ずかしがらんで兄ちゃんの胸に飛び込んだったらええねん」

「しゃーしか、こんハゲ! くらすぞ!」

「ハゲちゃうわー!」

「うっさいハゲ! 将来ハゲ!」

「ハゲ言うなや! 全国のハゲ親父に謝れや!」

「お兄ちゃんがごめんなさーい」

「こんのアホ娘がっ」


 等々。

 随分と騒がしい男女の二人組が今にも取っ組み合いを始めそうな距離で睨み合っていた。

 博多と大阪方面だろうか、方言が飛び交っている。

 ただの方言同士のやり取りなら煌夜もそう気には止めなかっただろう。ただうるさい奴らだな、という感想を即座に投げ捨てて旅館の従業員を探していた。

 だがそうしてしまうには目の前の二人組は少々風変わりだった。

 まず二人揃ってきらきらと綺麗に光る金髪だった。ぱっと見た感じ、染めているようには見えない、自然な髪色だ。

 そして自分たち黄色人種とは別種の白さの肌。二人ともそこそこ日に焼けているとはいえ、欧米の方の人間だろうと予測できる白さだった。

 顔立ち、身長、体格、他のどれをとっても日本人とは思えない出で立ちの二人だ。その上、男の方はどこで買ったのか、随分と目立つ真っ赤なツナギを着ているので更に目立つことこの上ない。

 それが流暢な日本語――それも別々の方言を操ってお互いに罵詈雑言をぶつけ合っている。

 随分と目を引く、異様な光景だった。

 いくら日本でもグローバル化が進んでいるとは言え、なかなか見られない光景だろう。煌夜としては別に見たいとも思わない光景だったが。

 謝はその様子に(意味が通じているのかいないのか)目を白黒させているし、男女の言い争いは終わりそうにもない。

 正直、この時点で煌夜はもうすでに東京の自宅が恋しくなっていた。

 そうだ、家に帰って夏休みの宿題しよう。帰ってノエル殴ろう……。

 なんて、現実逃避を始めたとき、二人の男女の首がぐりんと煌夜の方を向いた。

 よく見ると二人とも碧眼で、似た顔立ちをしている。

 そういえば先ほど女の方がお兄ちゃんと言っていたか、と考えていると。


「球界最強監督は王監督やろ!」

「ちゃうわ! 星野や!」


 声をかけられた。

 ああ、確か今はスズキが旬だし刺身もいいけどムニエルかホイル焼きもいいかもしれないなぁ。


「……こ、煌夜さん……現実逃避しないでくださぁいぃぃ……」


 追加で現実逃避失敗。横を見ると謝が半分涙目で煌夜のコートの袖を摘んでいた。

 煌夜はため息を吐いて、二人の男女を睨む。


「喧嘩なら外でやれ。ここはアンタらの家じゃない」

「アッハイ」

「スンマセン」


 そういえばサングラスは外したままだったなと思い出す。どうでもいいか。

 こういう時ばかりは目付きの悪さに感謝しなくもない。因みに売られた喧嘩は買う方だ。

 ビシリと固まった二人組を放置して、謝に奥に入るように目で合図する。

 正しく理解した少女と並んで靴を脱いで揃えたところで、ぱたぱたと軽い足音が近付いてきた。


「お待たせ致しました。――……あら、増えてる?」


 和服姿の若い仲居だった。二十代前半か、むしろ未成年と言われても通じるかもしれない。

 だが、肩口で切り揃えられた髪、きっちりと着こなされた衣服、伸ばされた背筋、洗練された一挙一動を見るに、若さとは裏腹に常日頃から己に厳しく働いているのだろうということが伺える。

 彼女は、人手が少なくてすみません、と謝りながら、煌夜たちの方を向く。名前の確認をと言われ、一瞬考えたものの、ここで言い淀んでも仕方ないと煌夜は本名だけを告げた。謝もそれに倣う。

 若い仲居はにっこりと笑顔を作ると、お部屋の準備ができております、と続けた。

 


 ぞろぞろと連れ立って廊下を案内されながら、最初に口を開いたのは二人組の女の方だった。


「ねぇねぇ、もしかして二人もテスト合格した人?」


 黙ったまま頷いてみせると、女――といってもまだ少女と言ってもいい年齢だろう、おそらく煌夜と同年代の――は嬉しそうに笑った。


「ホント? よかったぁ。難しそうなテストの合格者だっていうから、みぃんな年上の眼鏡かけて白衣が似合うような学者さんみたいな人ばっかりだったらどうしようって思ってたんだー」


 さすがにそれは偏見が過ぎる。


「あ、私、エア。エア・F・ネイチャー。んで、こっちがお兄ちゃんの……」

「おん、アクアや。アクア・S・ネイチャー」


 男――アクア・S・ネイチャーがにっこりと笑う。兄妹というだけあって、妹  エアと似た笑顔だった。

 年齢を聞かれたので答えると、エアも同じ年だとはしゃがれた。ちなみにアクアは二つ上だという。


(……十代男女が、四人……?)


 あんなテストに合格したのが?

 煌夜の胸に言いようもない疑問と不安が巻き起こる。

 それとも、テストの合格ラインに到達する、以外にこの場に呼ばれた理由があるのだろうか。

 まさか本当にこの場にいる四人の「子ども」だけではあるまい。


「ねぇ、仲居さん。他にも人、来てるの?」


 煌夜が口を開く前に、前を歩いていたエアが仲居に尋ねた。

 仲居は足を止め、わざわざエアの方を向いてから答える。


「はい。昨晩、男性が一人。――男性にいうのもなんですが、とってもお綺麗な方でしたよ」


 大きな犬を連れた、変わった方でしたけど。と、仲居は言う。


「まだ来ていない方はいらっしゃるんですか?」


 謝が続けて尋ねると、仲居は首を振って、


「いいえ、皆様で全員お揃いですよ」


 と答える。

 本当に、たったの五人だというのか。

 煌夜は知れず、眉をひそめる。

 目の前で出身がどうの、住んでいるところがどうのと騒ぐ三人を眺めながら、煌夜は例のテスト前後を思い返していた。

 不審な点なら探せばいくらでもあった。

 そもそもこんなテストの実施自体が不審なのだ。

 決定打が見つからない。

 なんの?

 ぎり、と奥歯が鳴る。

 なにに焦っているのだろう。

 言い知れぬ不安のようなものに、煌夜はただただため息をこぼす。

 なにかがそっと這い寄るような、そんな漠然とした恐れのようなものが徐々に近付いているような気がした。

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