第5話 アズマギクの餞別 3

◆海陵(フェイリン)謝( シェイ)の場合

  ――兄、海陵瑳(クォ)の主張


 こぽり、

 こぽり、

 泡の弾ける音がして、男はゆっくりと瞼を持ち上げた。

 何度か瞬きをして視界が鮮明になるのを待つ。

 ぼんやりとした思考が徐々に明瞭になっていく。

 まず、目が覚めたことに驚いた。

 こぽり、

 こぽり、

 下から上へと飛んでいく水泡の声が絶えず聞こえてくる。

 なんとなく手を伸ばして、そのうちの一つを握り潰した。

 ごぽ、

 こぽぽ、

 水泡が更に小さな泡になって指の間から逃げていく。

 一面青い視界の中で、前に伸ばされた色白の腕だけが残った。

 それが自分の腕だと気付くのに数秒を要した。まだ寝ぼけているらしい。

 ごぽり、と、口から出たため息が水泡となって昇っていく。

 水面が遠い。

 こぽり、

 こぽり、

 男はここで眠るに至った経緯を思い返す。

 ずきんと胸が痛んだ。

 そっと首に手を当てる。

 どうやら首は繋がっているらしい。


(……甘い子だなぁ、まったく)


 それともやっぱり弱い子だったのかな。

 男は青い目を細めてくすりと笑った。

 こぽり、と、水泡が弾けた。

 さて、どうしようか。

 男は遠い水面を仰ぎ、ゆっくりと伸びをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る