それは善意と共に①
真っ白な高級車がドコドコと心地よい低音を奏でながら郊外の街を駆けていく。傷一つないボディが春の日差しを受けキラリと輝いていた。それに反して運転席に座る祥貴の顔は暗かった。思い悩みながらハンドルを握る姿は車の販促ポスターになってもおかしくないほど絵になっていたがそれを見て喜ぶ彼のファンはこの寂れた小道にはいなかった。目的地の駐車場を見てみると一台の車が止まっていた。時代遅れのステーションワゴンタイプの車だったが、丁寧に整備をされていた。
(車がある…ということは"彼"は在宅のようだ。不幸中の幸いと言ったところかな。)
祥貴は慣れた手つきでハンドルを切り、ワゴンの横に車を停めた。最低限の荷物を手に車を降りる。お世辞にも綺麗とは言えない一軒家。ここが祥貴の目的地であった。玄関のインターホンを押すと不機嫌そうな男の声が返ってくる。
「東雲か。警察のエース様がこんなボロ屋に何のようだ?任意同行なら拒否する」
祥貴は少し驚いた。このインターホンはカメラがないタイプだ。彼はその疑問をそのまま口にした。
「どうして僕だとわかったんだい?」
「そんな特徴的なエンジン音出す車なんざこの辺にはないからな。で、何のようだ?」
祥貴はそうか、と合点がいくと同時にそのような簡単な事にも気づかないほど疲れているのを自覚した。彼は自嘲気味に笑い、少しでも早く目的を達成しなければならないと思い、言葉を紡ぐ。
「綿奈部くん、君に依頼があって来たんだ。君ぐらいしか頼る人間が思い浮かばなくてね」
「依頼?お前が俺に?珍しいこともあるもんだ。明日は嵐だな」
皮肉めいた台詞と共に扉のロックが解除された音がした。
「入れよ。話は中で聞く」
綿奈部がそう言うとインターホンがブツリと音を立てる。祥貴はドアノブに手をかけ、扉を開ける。綿奈部が祥貴対して突っかかるような物言いをするのはいつもの事だった。どうにも嫌われているらしい。祥貴も仕事柄人に嫌われる事は当たり前にあったし敵を作りやすい性格だと言う自覚もあるので、普段なら気にする事でもないのだがこの男に対してはどうにも感情的になってしまうことがあった。なので共通の友人を介すなどして直接会わないようにはしていた。その一方で綿奈部の能力を評価もしているからこそ今回この男の家を訪れたのだ。乱雑にものが置かれた廊下を通り半分物置と化した客間兼リビングへたどり着く。埃っぽい部屋には不快感があるが、背に腹は変えられないと祥貴は諦める事にしたのだった。
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