ある男女の場合
物部がたり
ある男女の場合
世の中には、ズボラで身の回りのことがまったくできない人も存在し、男性なら「そんなものだ」と許されるが、女性はそうもいかない。
男女平等と叫ばれながら「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という価値観が根強い。
そして、れいは身の回りのことがまったくできない「ズボラな女」だった。
本人にしても「何故、わたしはズボラなのだろう?」と不思議であった。
食事はインスタントばかり、整理整頓ができない、服は脱いだら脱ぎっぱなし、身なりに無頓着。
両親からも「あなた、男みたいよ」「もっと、女らしくしないと嫁の貰い手がないぞ」と注意されるが一向に治る気配はなかった。
れい自身も逆の立場に立って考えると、自分のように家事のできないズボラ女を嫁にもらいたいとは思わなかったので「私を嫁にもらってくれる人はいないな」と早くに諦め「お一人様を満喫してやろう!」と開き直っていた。
そんなある日、れいは同じ会社に通う同僚の、はじめに「これ、食べろよ」と弁当をもらった。
「いいの?」
「いつもそんなのばっか食ってたら、栄養取れないだろ。病気になるぞ」
はじめの言う通り、れいはダイエット中のOLのような栄養調整食品やサラダ、パンなどばかり食べていた。
「ありがとう」
はじめのくれた弁当は栄養士が作ったのかと思うほど、栄養とカロリーが計算され、味もプロ並みだった。
「良い彼女だな。わたしもこんな彼女が欲しいぜ」
とれいは、はじめの彼女を羨ましく思いながら弁当を美味しくいただいた。
「ありがとう、久々に食べたって感じがしたよ」
「そうか……」
すると、はじめはその日から頼みもしないのに、れいの分の弁当を持参してくれるようになった。
ありがたいが、さすがのれいでも気を遣う。
「さすがに毎日は悪いよ。彼女さんも大変だろうし……」
「彼女? 何が」
「え、いや、だから弁当、二人分作らせるの悪いしさ」
「気にするな。好きでやってることだ」
「わたしが気にするの。知らない女の弁当を作らせるって……さすがに無神経だって……」
はじめは「ああ、そういうこと」と何かを納得したようだった。
「俺が作ってるから。一人分作るのも、二人分作るのも変わらないし」
「あ……そうだったの。わたしはてっきり、彼女か作ってると思って」
「彼女いないから、気にする必要ないぞ」
という経緯で、それ以来はじめに弁当を作ってもらえるようになった。
健康的な昼食を摂れるようになってから、体の調子だけでなく精神面でもよくなった気がした。
タダで弁当を作ってもらうのも悪いので「いくらか、お金払うよ」と申し出たこともあるが、はじめは受け取ってくれなかった。
仕方がないのでお金以外でお礼をしようと思ったが、金銭的な解決方法しかれいは知らなかった。
友達に相談したところ「食事に誘えば」といわれ、れいは「それ、採用」とはじめを食事に誘った。
たまに食事する仲から、たまに遊ぶ仲になり、いつのころからかお互いの家を行き来する仲になっていた。
はじめがれいの家に遊びに来ると、まるで家政婦のように掃除、洗濯、のみならず数日分、料理の作り置きをしてくれる。
ズボラな彼氏に彼女がしてあげることを、彼氏が彼女にしてやっていた。
そんな生活が一年を過ぎようとしていたとき、れいははじめに訊いた。
「家事でない女ってどう思う?」
「どうって、別にどうも思わないけど。急になんだよ」
「いや、女は女らしくって、男が求めるイメージ像があるじゃん。女は家事できなきゃ駄目でしょ。わたし何もできないから女失格じゃないかな」
「そう思う奴もいるだろうけど、俺は別に気にならないけどな。人には得意不得意があって当然だし、できる奴がやればいんじゃないの」
「ふ~ん……」
一瞬の間が空いて、れいはいった。
「じゃあ、はじめが、わたしの嫁になってくれる?」
「嫁って何だよ」
「嫁じゃん」
「日本語おかしくないか?」
「いや、おかしくない」
はじめは笑いながらいった。
「別にいいけど」
世の中は、男子力の高い女性も存在すれば、女子力の高い男性も存在し巧くつり合いが取れている――。
ある男女の場合 物部がたり @113970
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