4#5



休日、僕は最近になって付き合い始めた彼氏と駅前で待ち合わせをしていた。所謂、デートである。


彼とは休日に何度か2人きりで出掛けた事はあったが、それは町内清掃だったり、ボランティア活動であったりと色気もへったくれも無いモノだった。


正式なデートとなると今日が初めてで、心做しか僕も浮き足立っているような気がする。


申し訳程度のおめかしをした。あまり気合いを入れすぎると今日を楽しみにしていたのがバレる。それはなんだか癪に触った。


そんな事を思いつつも”念の為”下着は持っている中で一番可愛いのを身につけてきた。初デートでそんな事にはならないとは思うが、あくまで念の為だ。


待ち合わせの10分前ぐらいに着くように家を出た。


30分前は恥ずかしい。1時間前はやりすぎだろう。10分前ぐらいが丁度いい。そう思った。



「「あっ……」」



待ち合わせ場所に向かう道中。ばったり彼と出くわしてしまった。



「おはようございます久保くん」


「おはよう佐藤さん」



挨拶を交わしたが、それからなんとも言えない沈黙が流れた。気まずい。


これから会う人と、約束した場所に行く途中で出会ってしまった。おそらく久保くんも10分前ぐらいに着くようにと僕と同じことを考えていたのでしょう。タイミングばっちりか。



「こんな所で会うとは奇遇ですね」


「そ、そうだねー」


「もしや誰かと待ち合わせですか?」


「あー……うん。彼女とデートの待ち合わせに向かうところ」


「それも奇遇ですね。僕も彼氏と待ち合わせの場所に向かっているところです」


「そっかぁ。それなら途中まで一緒に行こうか?」


「そうですね。待ち合わせの場所まで一緒に行きましょう」



2人でそんなすっとぼけた会話を交わしながら、待ち合わせ場所を目指して並んで歩き始めました。



「こんな偶然もあるんだね」


「僕ら、息ぴったりですね」


「それは、なんかちょっと嬉しいね」


「確かにその気持ち、わかります」



取り留めのない会話をしながら歩いて、待ち合わせの駅前までやって来た。



「きっかり待ち合わせの10分前に到着しました」


「考えてたことは一緒だったかぁ」


「さてそれではデートを始めましょうか久保くん」


「もう始まってたわけじゃないの?」


「いえ。何事もメリハリが大事ですよ。今、ここからが僕達の初デートです」


「なるほど。それなら……。佐藤さん、今日はいつもより可愛いね」


「ほぉ……よくもまぁこんな貧乳地味眼鏡女に心にも無いお世辞が言えましたね」


「……自虐?」


「客観的な評価です」


「そうかなぁ……。俺は佐藤さんのことちゃんと可愛いと思ってるよ?」


「ジョークですか?」


「違う違う。佐藤さんと付き合うってなってから、やたらと佐藤さんが可愛く見えるようになってきて……だから、素直に佐藤さんのこと可愛いって思う」



歯の浮くようなセリフに思わず心がムズムズしてしまいます。僕はそれを誤魔化すように言います。



「とんだ節穴ですね。これは不安です。他人には任せておけませんので僕が久保くんの面倒を見てあげましょう」


「よろしくお願いします」



どちらからともなく2人で笑いあった。



それから2人で映画を見たり、昼は地味で目立たない喫茶店で昼食をとったり、そのまま喫茶店にだらだらと長居して話をしたり、特に目的も無くショッピングモールを散策したり……。


ゆったりと、穏やかで、とても心地良い時間が流れました。


思いの外、楽しいですね、デート。


デートが楽しいのか、それとも彼とこうして一緒に過ごせることが楽しいのか、理由はおそらく後者が大部分を占めていることでしょう。



「そろそろ帰ろうか」



沈み掛けの夕日が、楽しかったデートの終わりを告げています。



「そうですね。帰りましょうか」



後ろ髪引かれる思いでしたが、これからまたデートする機会はいくらでもあるでしょう。僕らはまだ付き合い始めたばかりなのだから。



帰路、久保くんは不意に口を開きました。



「佐藤さん……やっぱり俺、まだもう少し佐藤さんと一緒に居たい。これから俺ん家来ない?」



確か、久保くんは一人暮らしだったはずです。


つまりこの誘いは……。


初デートの帰りにこれとは久保くんは案外、肉食系男子だったということでしょうか。



「なぁいいだろ?俺ん家来いよ!」



なんか口調が変わりましたね……。


心做しか目が血走っている気がします。


そうして久保くんは僕に断る間も与えぬまま部屋に連れ込みました。


というか一瞬で場面が切り替わった?


部屋に入り、扉を閉めるや否や久保くんは僕に襲いかかってきました。


壁に無理矢理、押し付けられ唇を貪られ。身体をまさぐられ……。



「さっさと脱げよ!オラッ!」



そうして、そのまま……。




…………。




…………。




「はぁ……」




実に、



実に、しょーもない夢を見てしまいましたね。


予想以上に僕は久保くんに恋焦がれていた……という事なんでしょうかね。


それとも単純に溜まっていただけか。


自分ではあまり気にしていないつもりだったんですけどね。



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