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佐藤さとう紫音しおんと申します。


小、中、高とずっとクラス委員ーー即ち委員長を、やらせてもらってまして、かれこれ勤続11年目になりました。


生粋の委員長です。ちゃんと眼鏡も掛けています。伊達眼鏡ですが。顔が地味で印象に残りずらいのでアクセントとしての眼鏡です。それに委員長に眼鏡は必須ですから。


最初に委員長になったのはジャンケンで負けたからでした。


委員長を決める話で誰も委員長をやりたくなく、結果としてジャンケンになり、負けたのが僕だったと。


そこから1年、そして2年目も去年やったからと押し付けられ、3年目もなあなあで押し付けられて委員長を続けました。


最初は乗り気ではありませんでしたが4年目ともなるとかなり慣れてきて、さらには僕自身も委員長が楽しくなってきました。


地味顔眼鏡女の言うことをみんなが聞く、皆に指示を出し先導出来る、皆が僕を頼りにする、そんなことが楽しくなっていました。


それからは進んで委員長をやるようになり気がつけば勤続11年目のベテラン委員長となっていたわけです。




彼との出会いは高校1年の時でした。


久保皐月。地味な見た目の何処にでもいそうな男子生徒。同じ地味な顔面同士で少しだけ共感を覚えました。


高校生になっても僕は当然の如く、委員長に立候補し、そしてクラスの委員長となりました。


ここでもまた皆が僕の指示に従い、僕を頼りにするようになっていくだろうと思っていました。




「久保ーこれやっといてー」


「ああ、いいよ。やっとく」


「サンキュー久保!」



「久保くんゴメン!私用事があって……代わりに掃除当番やっといて欲しいんだけど……」


「大丈夫だよ。代わりにやっとく」


「久保くんありがとう!」



「久保、ちょっと資料運ぶの手伝ってくれないか?」


「はい。先生。これ運べばいいですか?」


「おう。スマンな久保。いつも頼ってしまって」



気がつけば何故か、委員長の僕より久保くんが皆から頼りにされてました。


おかしいですね。僕も基本的に頼られればやるんですが。


原因としては僕の性格に少し難があったところでしょうか。頼りにしてくれれば、それに応えはしますが、余計な一言二言もセットになります。思ったことは大体、口にしてしまうんですよ。


委員長という立場柄、クラスメイト達に指示を出すことが多々ありますし、それに提出物の容赦無い取り立てをしていた結果でしょうか。


あと僕、無表情らしいです。まぁ、笑顔を作るのは苦手ですね。無理に笑顔を作ったらサイコパスみたいと言われたことがありました。失敬な。



無表情地味顔眼鏡女。口調がキツく。小言も多く。高圧的な態度。ついでに貧乳。僕の胸は同年代の女子に比べて発育が悪い。おかげで男子に間違われることも多々ありました。あまりにもよく男子に間違われるのでイラッとしてからは一人称に”僕”を使うようになりました。これでさらに男子に間違われるようになったので、間違われる度に勘違いした奴を容赦なくボコボコに出来ます。やったね。


そんな性格に難がある僕。


対する久保くんも地味な顔面ではありますが、物腰柔らかで優しげな雰囲気。何かものを頼めば笑顔で応えてくれる。やってくれる。


相反する2人。頼み事をするならどちらを選ぶかなど明白ですね。僕でも、僕か久保くんを頼るならどっち?と言われたら久保くんを選びます。


彼に対する嫉妬は心のどこかしらにはありました。


が、僕は僕。彼は彼です。僕は彼が持っていないものを持っていますし、彼は僕には無いものを持っているでしょう。人それぞれ良いところは尊重し合うべきです。



しかし、疑問だ。僕は委員長という立場があるが、彼には特に何も無い。彼は何故そんなに誰かの為に動いているのだろうか。




「佐藤さん、なんか手伝うことある?」


「そうですね。ではこれを皆さんに配ってください」



気がつけば久保くんは僕の仕事も手伝うようになっていた。


手伝ってくれるというので手伝ってもらう。


自分自信でやらなくてはいけないと言った変な意地は僕には無い。自分がやることではなく、仕事をこなす事が目的であって、効率的にこなせるのならそれに越したことはない。実際、久保くんに手伝ってもらった方が効率がいい。



「久保くん、手伝ってください」


「いいよ。何すればいい?」



気がつけば僕も久保くんに頼るようにっていた。


嫌な顔ひとつせずになんでもやってくれる。仕事は丁寧で正確で迅速だ。言うこと無し。仕事の出来る男である。好感が持てる。



思い返してみれば、これまで委員長をやって来て、誰かに頼られる事は山ほどあっても誰かを頼りにするという経験はほぼありませんでした。


僕、自分でなんでも人並み以上に出来てしまいますからね。他人を頼る必要もなかったというのもあります。大概の事は誰かに任せたり、助けてもらうより自分でやってしまった方が早いですから。


人を頼りにするというのは初めての経験と言っても過言では無いです。



そんな僕が頼りにする久保くん。



普通に好きでした。好きになっていきました。人としても、そして異性としても意識していましたね。


そんなちょっと優しくされたぐらいで好きになんかならないんだからね!なんてちょって抵抗しましたが、抵抗する理由が無いことに気が付き、即、抵抗を止めました。


地味な顔面同士、お似合いでしょうし、久保くんも恐らくは誰かに頼りにされて自己顕示欲を満たしたいとか僕と同じ様な事を考えているのでしょうから、性格的にも相性は良さそうです。


それに高校生ですから色恋沙汰に興味がない訳では無いです。


入学からまるまる1年が経ち、彼とはそれなりに仲良くなった事でしょう。2年に進級し、無事クラスは一緒でした。


夏休み前には付き合い初めて、高校2年の夏は彼と楽しく過ごそうなど勝手に計画を立て始めていた今日この頃。



事件は起きました。











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