2#3 ママとお料理3



スーパーで聖歌ちゃんとちゅっちゅっーー·····じゃなくて買い出しを終えて帰宅した。


公衆の面前であんな事を·····いやまぁ嫌じゃ無いし、むしろ望むところな所はあるけど流石に人前では恥ずかしい。


行動が大胆すぎる。これも催眠アプリの影響か。感情の歯止めが効いてないというか、感情の赴くままに即行動に移してしまっているというか·····。


ママになります!なんてはっちゃけた言動よりは幾分かはマシではあるけれど、今後もさらに過激な問題行動に発展しない可能性は無い。


かかっている暗示を解除するなり、いっその事さらに上から暗示を上書きするのも一つの手か。


でもやっぱり催眠アプリは胡散臭い。こうぽんぽん使っていて、精神に何らかの悪影響や異常が出たらと考えると過度な使用は控えるべきだろう。


現に聖歌ちゃんは催眠アプリが無いと気持ちよくなれません!なんてヤバめの発言もしていたことだし。


俺も俺で今はまとも(?)な精神状態ではあるが、多少なりとも聖歌ちゃんが俺にかけた暗示の効果は残っている気がしている。


不意に感情の制御が効かなくなって欲望のままに突っ走ってしまうことがあるのだ。


さっきも聖歌ちゃんに飛びつかれてちゅっちゅっされて気持ちよくなってしまって、俺もしばらく聖歌ちゃんの唇を貪ってしまった。スーパーのお菓子コーナーで·····。


我に返った時には時すでに遅し、他の買い物客の視線を一身に浴びていた。めっちゃ恥ずかしかった。ちなみに聖歌ちゃんはまったく気にしてない所か、ちょっと物足りなさそうにしていた。もう聖歌ちゃん完全にキマってますね、アレ。


で、とてもいたたまれなくなり、そそくさと会計を済ませて逃げるようにスーパーを後にしてきたわけである。



「聖歌ちゃん、人前でちゅーするのは控えよう」


「何故ですか?さっくんはママとちゅーするのイヤなんですか·····?(うるうる)」


「いやママとは滅茶苦茶ちゅーしたいですけどっ!」


「それではどうぞ」


「·····どうぞ、とは?」


「本当にさっくんがママとちゅーしたいのかどうかを行動で示して貰いましょう!ほらほらっ!どうしたんですか!さっくんはホントにママとちゅーしたいんですか?どうなんですか?」


「おっけーわかった。覚悟しろよママ」



このあと滅茶苦茶ちゅっちゅっした。



「はむっ·····じゅるじゅる·····ちゅぱっ·····。ふぁあっ、しゃっくんとちゅっちゅっするのきちいいでひゅ·····!」



ママの唇を貪った。とっても美味しい。うん。これも親子のスキンシップだね!





「それではお料理をしていきたいと思います!」



心は満たされたが、いくらちゅっちゅっしてもお腹は満たされなかったので、真面目に料理に取り掛かることになった。



「俺もなんか手伝う?」


「いえ!お料理はママの勤めです!さっくんはそこで見ていてください!」



との事でママのお料理を見守ることにした。俺も料理についてはサッパリなので手伝えることはほぼ皆無。余計な口出しはしないでおこう。



まずはお肉を取り出した聖歌ちゃん。豚肉だ。なんの部位かは分からない。パッと見の印象としては豚の生姜焼きとかで使いそうな豚肉だ。


その豚肉をまな板の上に置く。


そして聖歌ちゃんの動きが止まる。



「··········」


「··········聖歌ちゃん?」


「このお肉をぐちゃぐちゃにしたいんですけど·····どうしたらいいのでしょう?」



初っ端、躓くんかい。



「包丁で叩いてみたら?」


「それですっ·····!」



包丁をむんずと手にした聖歌ちゃん。明らかに料理をする時の持ち方では無かった。どちらかといえば人を刺し殺そうとする時の持ち方である。非常に危なっかしい。



バンッ!バンッ!バンッ!



聖歌ちゃんは豪快に包丁を豚肉に叩きつけていく。しかし豚肉は思いの外ミンチになっていかない。ちょっと切れはするが、叩いたことで薄く伸びていくだけだ。



「こ、これは思ったより手強そうです·····」


「俺がやろうか?」


「大丈夫です!ママがヤリます!ですがちょっと時間がかかりそうなので、さっくんはテレビでも見てて待っていてください!」


「そう·····ホント大丈夫?」


「大丈夫です!ママに任せてください!」



頑なに自分がヤルと譲らない聖歌ちゃんに根負けして俺は台所から退散することにした。




·····数時間後ーー。




「さっくん!遂に出来ましたよ!ママ特製のハンバーグです!」



そう満面の笑みで聖歌ちゃんから差し出された皿の上に乗っかっていたのは”炭の塊”であった。



「わ、わぁ·····お、おおお美味しそうぉっ·····!」


「ちょっと焼きすぎて焦がしてしまいましたが多分味は大丈夫だと思います!」


「ちなみに味見とかした?」


「してません!まず一番にさっくんに食べてもらいたかったので!」


「そ、そっかぁ·····」



どう考えてもアカンやつだね。間違いないね。そこはかとなくダメなんじゃないかなって思ってたけどやっぱりダメだったみたいだね。


こんなん食えるかボケがっ!って皿をぶん投げたい気持ちはあるが、にこにこしているママを前にしてそんな真似が出来るわけはない。



「それではゴハンにしましょう!」


「そ、そうだねぇ·····俺もうお腹ぺこぺこだよぉ·····」



どうする?食うのか?この炭の塊を?なんかおどろおどろしい雰囲気を醸し出していますが?食って大丈夫なのか?死なない?しかし、ママが頑張って作ってくれた料理を食わないという選択肢は無い·····!


だったらどうする?俺はどうしたら生き残れる·····?



ハッ!?



そうだ!あの手があった!



「聖歌ちゃん!俺ちょっと食べる前に手を洗ってくるね!」


「流石さっくん!ゴハンの前にはちゃんとお手て洗えるなんてエラいです!」



そう言って俺は台所に素早く移動し、ポケットから没収中の聖歌ちゃんのスマホを取り出す。



催眠アプリ·····起動ッ!



助けてくれ!今はお前だけが頼りだ!ママの笑顔を曇らせる訳には行かないんだ!頼む!力を貸してくれ催眠アプリッ!



「今から食べるものは全て美味しく感じる今から食べるものは全て美味しく感じる今から食べるものは全て美味しく感じる」



俺は祈るようにスマホの画面を見ながら呟いた。









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