■ 164 ■ リッカルドインタビュー
「
クィスに相談しに行ったリッカルドであったが、初っぱなからダメ出しを喰らって少しだけむくれた。
だがこれは仕方のない話で、
「まず
自分で取り込んだ魔獣は、必ず上書きになってしまうのだと。この時点で
「それにさ、リッカルドのそれは心臓を食える身体じゃないだろ? そうすると心臓を取り込むのはリッカルドがソフィアの中にいるときになるから、
『えーと、俺が
「多分そうなる。それじゃリッカルドが強くなることにはならないだろ?」
なるほど、とリッカルドはカチンと手を打ち鳴らした。
ソフィアを起点として魔術が発動するのでは、逆にソフィアを危険の近くに引っ張り出すことになる。それでは本末転倒だろう。
「血族型魔術は二人には相性がよくないからね。別の魔術をお勧めするよ」
『分かった。ありがとうクィス
手を振って去って行くリッカルドを見送りながら、クィスはある一つの疑念を抱いてしまった。
§ § §
「
次に相談しに行ったナガルはそう、明瞭な利点を述べてくれた。
「
とにかく
『人の営みに火の安らぎを。獣には猛き炎の恐怖を』。これこそが
『じゃあ
「ええ。ただ……」
そうナガルが言い淀んだのがリッカルドにはちょっと不安になったが、
『ただ?』
「貴方のお父上はマフィアを想定しているのですよね? 現時点でも私とクィスでも若干役割が被ってます。ですのでもし貴方がお父上の役に立ちたいと、そういう広い視野を持っているならあえて
要は、ラジィが
リュカバースの出来ることを増やす、という意味ではこれ以上火術師が増えても街全体で見たときの貢献度が低い、ということをナガルは言いたいようだ。
「無論、私が言っているのは都市運営規模の視点であって、貴方が配慮しなければいけないことではありませんがね」
『なるほどなぁ。流石に最年長魔術師だ、考える範囲が大きいや』
ほう、と感服したリッカルドに、ナガルは唯々穏やかな笑みを向けるのみだ。
「熟考の上で
『ありがとう、そうするよ!』
§ § §
「
話を聞きに行ったガレスはそう満足げに語って、傍らに実体化した大型狼――ケルベロスのロクシーをわしゃわしゃと撫でる。
ロクシーはロクシーでモフられてご満悦のようで、気持ち良さげに瞳を細める姿は確かにちょっとリッカルド的にも羨ましい。
「何より授かった獣魔の部位を魔術でも再現できるしな。格好いいだろ?」
そうガレスが神気を編んで作った爪を生やしてみせると、流石リッカルドも男の子だ。シャキーンとガレスの手に輝く爪を前に、瞳があればリッカルドは爛々と輝かせたことだろう。
『すげぇ、格好いい!』
「だろう!? 攪乱、奇襲、情報収集、正面対決。そのどれを取っても
基本的に獣魔は獣の姿を取るが、それは仮に既存の動物ではなく魔獣の姿を模していても、
故に射撃魔術が一切存在しないのが
遠隔制御をやってやれなくもないが、実体化解除をミスって獣魔が傷つけばその時点で
「あ、ただ……」
『ただ?』
「授かる魔獣は選べないからさ、もしお前がピジョンとか授かったら……」
『あ、駄目だこれ』
リッカルドは早々に
ガレスのようにケルベロスとかを授かれるならばそれは大いにありだろう。
だがもしコルンのように自らの血を以てピジョンブラッドを作り出す、なんて獣魔を授かったらどうする。
リッカルドの
「あー、俺が
『そうみたいだね……』
とりあえず
§ § §
「
『ええぇ……』
ばっさり自分の信じる神を切って捨てたシンルーにリッカルドはドン引きである。
実際のところ、シンルーは
新人時代は散々船乗りに馬鹿にされるわ、だからと奮起して神殿作成を意固地で習得したはいいが、今度は船団に配備されて無茶を要求される。
給料だけは確かにかなりよかったが、給料以上に心労と、あと何より魔術行使が辛かった。
何せレモラを除けるためには四六時中の神殿作成が求められたとあって、シンルーが海へ投げ捨てられたとき咄嗟になんの反応も出来なかったのは、そうやって心神耗弱に近い状態まで追い詰められていたからだ。
だが、シンルー自身は
ラジィと友達になれたという一点だけが、シンルーが
「
『お、
脱兎の如くリッカルドはロンジェンファミリーのアジトを離脱した。他にどうしろと言うのだ。
§ § §
「お前さんが強力な武器を欲しているなら
『あー、うん。別にそう言うのはナイかなー』
「ではお勧めはせん。身体強化も鎚か斧を握っているときしか発生せんしな」
トゥデルはそれだけ言うと工房の奥に引っ込んでしまった。ある意味シンルーよりも短い面会時間だっただろう。
§ § §
「
そうやってイオリベには熱烈歓迎を受けたものの、
「あー、でも
『えーっと、そういうのはちょっと』
「ですよねー」
なお話を聞いたところ、
「でもリッカルド君だと回復魔術は上手く発動しないかもしれないのです」
『えっと、なんで?』
「脱皮するので」
『脱皮……』
「蛇の脱皮は再生と治癒の象徴なのです。故に
人の皮がつるんと剥けて、中から新しいイオリベが出てくる姿を想像してリッカルドはちょっと怖くなった。
だがそんな内心はさておき、確かにリッカルドには脱皮は出来ないだろう。そもそも皮がないし。
「あと、
『というと?』
「火砕流や河川の氾濫とは
駄目じゃん、とリッカルドは頭を抱えてしまった。それじゃソフィアが近くにいるときは攻撃魔術を使えないのと同等ではないか。
攻防のバランスはいいし確かに強いのだが、こと出力においては極端にピーキーなのが
§ § §
「
レンティーニファミリーのアジトにて素振りをしていたオーエンは、木刀を振るう手を止めてそうリッカルドに向き直った。
「単純な強さという意味では圧倒的ではないが、岩礫をぶつければ誰だってへしゃげる」
『物理で殴るってわけだな!』
「左様。それにある程度大地を操れるから、土木工事などで引く手数多。食いっぱぐれる事が先ずない」
オーエンが
『確かに、土掘るのは生活の基本だもんなあ』
「畑の開墾なども
オーエンは先ずジガン流という剣技ありきで自分の信仰する神を色々と検討し、最終的に流浪の旅には
その上で必要な魔術を身に着けた時点でさっさと
「唯一の問題は、拙者には君を洗礼できないことである」
『え、できないの?』
「拙者、修行途中で
それじゃ駄目じゃん、とリッカルドは肩を落とした。
何があってもソフィアを食べさせてやれる、というのはリッカルドにとって結構魅力的だったのだが、オーエンに洗礼ができないのでは他の
そうなるとソフィアと離れて
『そう考えるとソフィってかなり幸運だったんだな』
「ラジィの姉御のような穎脱した魔術師が神殿の清掃だけで手取り足取り魔術の神秘を伝授してくれるなど、普通まず有り得ぬよ」
やっぱそうなんだ、とリッカルドは呻いた。
色々と魔術について調べていくと、ラジィ、アレフベート、サヌアンの三人はどう考えても異常だ、ということにそろそろリッカルドも気が付いてきたのだ。
『この身体、ギーメルさんはテスト用だからってただでくれたけど……普通に買ったら幾らぐらいするんだろう』
「身体の代わりとして動くアミュレットなど、普通に考えて十億カルは下るまい」
『十億!?』
脳もないのにリッカルドはめまいを覚えて倒れそうになった。
しかもオーエン曰くそれは予想最低価格だそうで、そんなもんを作れる魔術師にあーだこーだ文句をつけていたリッカルドは今更自分の不敬に気付いて死にそうになった。
だが今更後悔しても遅いので、気合いで一歩踏み出して姿勢を立て直す。
リッカルドに出来ることはならば、この
『この街に残る魔術師は……あとは
「
オーエンの忠告にリッカルドは頷いた。
元より魔力持ちである――
――あ、でも自分の魔力無しで身体強化できるってのは俺には恩恵かも。
厳密に言えばリッカルドは魔力無しだ。ソフィアの魔力を借りる形で魔術が使えるようになるだけで、魔力を産み出す身体がないリッカルドには、
だが、
『
「ああ。君の目的は姉を守ることなのだろう? 上位ランクには指名依頼とかも来ると聞くぞ」
『やっぱ駄目だなー』
リッカルドin
故に冒険に出るにはソフィアを連れ出す必要があるわけで、それは姉の平穏を守りたいリッカルドからすれば本末転倒でしかない。
オーエンに別れを告げて、リッカルドは再び
結論はまだ出ていないが、今日明日ぐらいは悩む時間はあるだろう。
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