Klasse2 出撃

「学期の途中ですが転校生の紹介をしたいと思います」

 ざわつく教室。まぁそうなるわな。なんせ獣耳の少女が入ってきたんだから。

「あー、黒崎京だ。テキトーに呼んでくれ」

 更にざわつく教室。これもそうだ。如何にもお嬢様、そうでなくても綺麗な奴、そんなのがわんさかいるところに雑な私が入ってるんだからよ。

「では黒崎さんは窓際の一番後ろの席へ」

 言われるがままその席に着く。ようやく腰を下ろせたぜ。

 そっからホームルーム、休憩時間となるわけだが……


「ねーねー! 黒崎さんはどこから来たの?」

「お気に入りのブランドとかある?」

「追ってるアイドルとかは?」

——ワーワー

 ……これだ。絶対あるイベント。質問祭り。私としちゃあクラスの奴らと仲良くする気もないがかと言って仲を悪くする利点もない。一個一個に答えちゃいるが慣れないぜ。


——昼

「だっはぁ! ようやく抜け出した……」

 あーもー、昼飯もまともに食えん。とりあえず屋上に避難したが勘弁してくれよな。

 ……しばらく続くんだろうなぁ。

「あー、風が気持ちいいぜ」

 そういや午後からは実技だったな。


——


「ではこれより基礎訓練を始めます!」

 ズラっとならんだ生徒。全員体操着だ。基礎ってことは体術かなんかか?

「生徒諸君は知っていると思いますがこの学園は対狂人戦闘員を養成するのが主目的。座学も大切ですが実技は生死に直結します。気を抜かず励むように」

 そう、この学園は狂人をブチのめす奴の卵の集まりだ。入学試験の段階である程度絞ってはいるのだろうが。

 と、各々訓練メニューに取り組み始めた。予め個人に合わせたメニューが組まれているんだろう。対して私は何も言われなかったが……好きにやれってことか?

「黒崎さん。貴女はひとしきりは終わらせていると聞きます。どれほどのものか見せて頂けますか?」

「見せるったって何するのさ。センセと組手でもしたらいいのか?」

「一番手っ取り早いのはそれですが……」

「んじゃそうしよう。ルールは?」

「どちらかが降参するまで、というのはどうです?」

 ふむふむ、普通の組手だな。なら手抜きで……いや、かなり手抜きでいこう。この場で変に目立っても嫌だしな。

「では、いきますよ……!」

 ほう、言葉遣いとは裏腹になかなか攻めっ気のある連撃だ。とりあえずギリギリでかわしている様に見せかけておこう。私からしたらこんなのは止まって見えるんだがな。

「おお、私の攻撃をすべて避けるとは……予想以上です」

「まあな」

 とにかく防戦だ。持久力を見せる感じでいいだろう。


——20分後

「ふぅ。なかなかにタフな生徒だ」

「ああ。んで? 実力は見れたか?」

「ええ、今日はこれで良いでしょう。期待していますよ」

 そんなこんなで後は好きにしていたらもう授業終了の時刻。次の授業は……


——


「はーあ、つまんねえの」

 授業が全て終わり、寮のベッドにダイブする。基礎訓練にしたってメニューがお粗末極まる。ホントにこんなので狂人に対抗できんのかな?

「あーあー、もしもし?」

『ん? あっ、ケイト! どうだった? 初日は?』

「大した収穫は無いぞ。これからだな」

『そっか。でもすぐに見られるよね? ケイトが大活躍する姿!』

「はは。すぐに見せてやるさぁ」

 そうだ。そのためにもさっさと実戦に行かなければ。明日の予定は……


——ヴーヴー!

「なんだぁ?」

『全生徒に非常招集! 早急に制服に着替え校庭へ!』

 ほほう、こりゃ面白い。


——


「全員いますね。非常招集とある通り、狂人が現れました。一年生は『小狂人』の排除に当たってもらいます」

 小狂人、それは狂人の部類の中では最も弱い個体。だが数が多い故に人海戦術になるというわけだ。だだっ広い平原ならミサイルでもブッ込めば済むが市街地ならそうはいかないのだろう。

 クラスの生徒は少々どよめきはあるがあまり動揺はしていない様子。訓練の成果か。

「では事前に組んだ四人で各々出撃を!」

「センセ、質問〜。私ゃ一人だがどうすりゃいい?」

「今欠員が出ている三人組がいます。そこに合流を」

「はいよ〜」

 三人組、三人組……む、あいつらか。やけにおどおどしてる奴がいるな。


「よお、そこの御三方」

「貴女は……転校生の京さん?」

「ああ。欠員だって聞いたんでな。入ってもいいか?」

「良いも何もない……命令……従う」

「はうう……実戦……ううう……」

 なんだこのパーティは。一人はカタコト、一人はビビり、まともなのはリーダーらしき奴だけか。

「時間がないから手短に紹介するね。私はリーダーの『桐生きりゅう 沙耶香さやか』、ちょっと口下手な子が『霧隠きりがくれ 真智まち』、今怯え気味な子が『宮泉みやいずみ 花音かのん』っていうの」

「はいよ。余所者で悪いが邪魔させてもらうぜ」

 ま、なんにせよ組んだパーティだ。やるしかねぇ。


——移動ヘリ内

 結論から言うと私達は今人間の言うヤベェ状況にある。

「うわあああ! 飛行型の狂人なんて聞いてないぞ!」

「墜落する! メイデイ! メイデイ!」

 そ、いる筈のない飛行型にヘリがやられてる。もはや墜落寸前だ。昔のゲーム会社製のヘリかよ。

「どどどど、どうしよう!?」

「ヘリ、墜落、私達、死ぬ」

「ぐぅ……! こんなところで!」

 おーおー、焦ってる焦ってる。そりゃまぁそうなるわな。仕方ねえ、やるか。

「桐生さんよ、私の背中におぶさりな」

「えっ?」

「死にたくなきゃ早くするんだ」

「う、うん」

「霧隠、宮泉、ちょっと痛いが我慢しろよ」

——ガシッ

「えっ、えっ?」

「飛び降りるぜ。よっこらー!」

——わああああああ!?


——ズシン!

「よっ、と。生きてるかー?」

「い、生きて……る」

「私、平気」

「はわわ……」

 全滅は回避。ものの見事にヘリは墜ちたな。

「ボーっとしてるとこ悪いがな、敵さん来てるぜ」

 おうおう、集まってる集まってる。武器は……全員一応持ってるな。

「京さん……」

 だがさっきのでリーダーまで萎縮してる。死地を乗り越えたらまた死地だもんな。無理もない。だが。

「前に進むしか無えぞ。生き残りたいならな」

「うぐ……分かった。二人とも歩ける?」

「大丈夫……」

「はうう……なんとか……」

 よし、ケツに火はつけた。

「ところで京さんは武器を持ってないようですが」

「ああ。大丈夫だ。格闘術でなんとかなる。いくぞ!」

 こっからはわんさか湧いてくる小狂人を千切っては投げ千切っては投げの雑魚狩りパーティ。

 さあて、朝まで耐久か?


——

————


「はぁっ……はぁっ……」

「息、苦しい」

「ぜー、はー……」

「よっ、と。これで最後か」

 気付いたら朝。太陽が眩しいぜ。おっと?

「おー、迎えのヘリが来たぞ」

「ああ……よかった……助かっ……」

 あらあら、全員気絶しちまった。


——


「んー? 夜の戦果?」

「はい。京さんは不測の事態に対応し、更に小狂人を多数排除しました。一年生としては異例です」

 戦闘が終わった後、昼ごろに職員室に呼び出され、言われたのは褒め言葉か?

「んで? 何かくれんのか?」

「学園通貨……SCの特別支給と単独行動の許可を」

「ふーん。ありがとさん」

 端末にかなりの額が表示されたのを確認して職員室を去る。あ、そうだ、あの三人組に会いにいこう。なかなか骨もあったしな。

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