09話

「さあ、今度は詩榛の番よ」


 特になにもないのにさあさあさあと聞かれて疲れてしまった。

 今回はやり返したいという気持ちからではないものの、自分が話すよりも話を聞く方が楽だから交代にしてもらいたい。


「と言われてもなぁ、特にこれまでと変わらないよ?」

「関係が変わったのだからなにかあるでしょう?」

「うーん……あ、起こしてもらうようになったかな」

「さ、流石にそれは甘えすぎよ」


 朝から彼氏とお部屋で会えてしまうというのも問題な気がした。

 最近の積極的な寿哉なら起きた瞬間の詩榛の唇に自分の――自由だとはわかっていてもそんなことに実際になれば朝から不健全だという感想になる。


「朝はゆっくり寝かせてねって言っても聞いてくれないんだよ、まあ、朝から顔を見ることができて嬉しいからいいんだけどさ」

「……だ、抱きしめたりするの? 逆に抱きしめられたりとか……」

「んーそれより寝ていたいという気持ちが勝つかな」

「それならよかったわ」


 睡眠! 食事! そして最後に彼氏! ということなら安心だ。

 ただ、これは時間によって変わってしまうということなので、できれば人生で一度も目撃しないまま終わることを願っている。

 もっとも、そういうところを簡単に見せたりするようなこともないだろうから余計な心配、というやつだと思うけれど。


「文緒ちゃんはあの人に来てもらいたい?」

「しっかりと必要なことを終えている状態ならね、顔を洗えていなかったり、歯を磨いていない状態なら嫌よ」


 そんなに早い時間から来たことがないからこれからもないはずだ。

 もしそういうことになるのだとしたら自分がやる側がよかった、少し慌てている先輩を見たいと考えている自分もいるのだ。

 冷静に攻められたら恥ずかしくてどうしようもなくなってなにより違和感というやつも大きくなる、少しだけ弱々しい感じでいるのが先輩らしいと言えた。


「それはわかる、あと髪がぼさぼさだったりすると恥ずかしい」

「寿哉は『大丈夫だ!』と言いそうね」

「昨日、言われたばかりだよ……」


 近くで筋トレをしているから近づいてみると「文緒もやるか?」と誘われてしまった。


「それはやめておくわ」

「そうか残念だ、で、言いたいのは朝に突撃をすることについてだろ?」

「いえ、別にそういうわけではないわ」

「違ったか、だが、詩榛のことを考えていないというわけじゃないからな、そこは誤解しないでほしい」

「ええ、詩榛だって朝から顔が見られて嬉しいと言っていたぐらいだから問題はないわよ」


 同じくやって来た詩榛に「言わないでよ~」と言われてしまったのでごめんなさいと謝罪をしておいた。

 色々と話を聞いて本当に少しだけだけど羨ましく感じてしまった自分がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月15日 03:00

151作品目 Nora @rianora_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ