【超短編】不思議なお父さん

茄子色ミヤビ

【超短編】不思議なお父さん

 今日もお母さんと散歩から帰ってくると、お父さんが酒を飲んで居間で寝ていた。

 とんでもない酒臭さに僕がケフッと咳をすると、お母さんが「大丈夫?」なんて声をかけてくれたが…いつものことだから僕は気にしない。

 近頃本当にお父さんがだらしがない。

 隙あらば酒を飲んでテレビに向かってぎゃんぎゃんと叫んでいる。

 文句を垂れるなら見なきゃいいのにと僕は思うが、あの煩い声が僕に飛んできてはたまらないと、常に僕はお父さんとは距離を置いていた。

 昔はお父さんとも散歩に良く行ったものだ。

 あれは僕が何才の頃だろうか?あまりにも昔過ぎて覚えていないが、散歩のルートだけは良く覚えている。

 田んぼの畦道をまっすぐ、自動販売機を右、そんで友達に挨拶して、日によっては神社なんかに寄って僕だけ適当に遊ばせて…ん?思い返すとあの頃から酒を飲んでいた気がするな。よーく思い出すと、この酒臭さが思い出の中にあるじゃないか。

 でもあの頃はこんなにバカバカ飲まなかったのに…どうしたんだろう?


 僕は酒を飲んでいるお父さんのニオイが苦手だ。

 でも久しぶりにお父さんから散歩に行こうと誘われて、断るほど僕は野暮ではない。

 野暮ではない…野暮ではないが、散歩に出てしばらくしてから僕は勘弁してほしいと思った。

 お母さんとのいつもの散歩ルートどころか、お父さんは昔のルートさえ忘れて適当に歩き始めた。

「おまえ何才になった?」

 そんなことを聞いてくるよりも、僕は早くいつものルートに戻りたかった。

 昔のルートを行くなら感傷なんかに浸れるが、訳の分からない道を歩くくらいなら、お母さんとのいつものルートを歩きたい。

 毎回会う友達も僕が来なかったら心配するだろ?

 しかしまぁ…久しぶりのお父さんとの散歩だから我慢するかと思っていると…

 お父さんが急に立ち止まって動かなくなった。

 僕は何事かとお父さんを見上げる。

 お父さんは泣いていた。

「どうして俺だけが…」

 なんて言って急に僕を抱きしめてきたが、訳が分からない。

 しかも酒臭い。

 でも何だか可愛そうなので、ジッと大人しくしてやる。

 我慢してやるんだから夕飯は極上のジャーキーを頼むぜ?

 

 

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【超短編】不思議なお父さん 茄子色ミヤビ @aosun

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